■感想 マグリット展 @ 京都市美術館
"7月11日(土)~10月12日(月・祝)
ルネ・マグリットは、私たちの思想や行動を規定する”枠”を飛び超えてみせる独特の芸術世界を展開した20世紀美術を代表する芸術家である。京都で44年ぶりの本格的な回顧展は,ベルギー王立美術館とマグリット財団の協力を得て,代表作約130点を展示。初期から晩年まで、画家の思想や創造の過程をたどり、マグリット芸術の謎の魅力を堪能する。"
先日記事にしたヤノベケンジ×増田セバスチャン×髙橋匡太 「PANTHEON-神々の饗宴-」へ行った際に、平安神宮近くの京都市美術館で「マグリット展」を観てきた。初期作品から晩年の見知った絵まで、マグリットの画業の全体像に触れられた。
思っていたのより、作風が多彩、というか、時代時代でかなり変貌していく作風。
ルノワールの時代とか「ヴァーシュ(雌牛)の時代」(1947-48)とか、不勉強で知らなかったのだけれど、マグリット的な理知的なシュールレアリスムの絵しか知らなかったので、とても興味深かった。
特に味わい深かったのは、パリ個展のために作られたという、雌牛の時代の作品。ラフな30枚の絵が描かれたというこの時代の作品、展示会では2枚ほどしかこの時代の絵はなかったのだけれど、他も観てみたくなって検索してみた(vache Magritte - Google 検索)。
展示されていた一枚はこの引用画の中断一番左の絵。背広の男が持つ拳銃がネクタイと混じり合ったような服を着ている、色彩豊かな絵でマグリットの有名画と比較すると、その破天荒さ、カラフルさに吃驚する。
どちらかというと、「超現実」といっても現実のリアルを優先し、細部はリアリズム描写のイメージが強いマグリットだけど、この絵のように物体が溶融し、奇怪な形状とサイケな色彩のこのような絵があるとは。
どちらかというと、有名画よりも、今回この絵画に強い興奮を得たのである。
初期から時代が進む順に約130点の絵画を鑑賞できる今回の展覧会。
パネルにはマグリットの絵画に関する思索の流れがわかるような説明文が書かれていたが、哲学的な、人がとらえる現実と真の現実とのズレを意識したマグリットの言葉が印象的だった。
その思考を絵画化した、額縁の絵と窓の外の実景を描いた絵画や、月という一つしかない事物と三人の男の脳内のそれぞれの月を並列に描いた絵画。
こうした絵から窺えるのは、シュルレアリスムといっても、感覚的/自動書記的なものではなく、とても理知的なロジカルに組み立てられた「超現実」を狙っていたように読める。
他にも幾十ものシルクハットのジェントルマンが空中に浮かぶ「ゴルコンダ」のところに記されていたような、「絵には感情はありません、見る人にある」と言ったマグリットの言葉。これも人の認識を哲学的に分析した言葉であり、感覚よりも理知を優先して、リアリズムの手法で超現実を描いた作風の根幹にある思想であるかのように見える。
今回、こうしたマグリットの思索と絵画を同時に鑑賞できるとても良い機会となり、貴重な経験だった。
右は展覧会を観終わって訪れたすぐ隣の平安神宮で写した、HDR写真。
HDRは現実の映像を露出を変えて2枚写して、明暗のダイナミックレンジを広げて「現実」を写す、現代の「超現実」の手法である。
マグリットが平安神宮へ訪れていたら、どんな「超現実」を描いてくれるか、というようなことを考えるとともに、雌牛の時代のマグリットにもここを訪れてもらい、空間と色彩が歪むような「非現実」的風景も描いて欲しいと考えながら、この赤が眩しい建物に見入ったのでした。
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