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2015.11.09

■感想 バルタザール・コルマウクル監督『エベレスト 3D』


映画『エベレスト 3D』 公式サイト NOW PLAYING.

 バルタザール・コルマウクル監督『エベレスト3D』、IMAX 3D 字幕版(残念ながら吹替は時間が合わず...)、観てきた。

 さすがに素晴らしい自然描写。どこがCGでどこが実景かわからない。たぶん空撮はこの高度では空気が薄く無理なので(ドローンなら可能なのか??)、頂上付近の俯瞰映像はCGなのでしょう。
 3DはSTEREO D社の3D変換。いくつか息を飲むようなシーンがあった。特に前半の吊り橋とか、切り立った峰の描写が美しい立体感。後半は何故か3D感はトーンダウン、というか物語の緊迫感に飲まれて、3Dを意識できていなかったのかもしれないが、、、。

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 全体の感想として、この映画は、人の視点と山の視点と観客の視点という3視点、3D(? ^^;)で語る映画なのかもしれない。

 まず人の視点。何故か山に挑みたくなるアルピニスト。登ることの快楽と隣り合わせの死。スリリングさはかなりのものだったけれど、タイミングを間違えば死に直面する、という危機意識が登場人物たちによってもっと表現されていたら凄かったのではないかと。主人公がプロのはずなのに、危機意識が低く行動が軽いように見えてしまうのが残念だった。あと少しそんな危機意識を強調するセリフと行動が表現されていたら、、、と思う。

 次に山の視点。自然に対してあまりに人はちっぽけな存在。エベレストの俯瞰の中に、芥子粒のように見える登山家の列。その映像が雄弁に、人の山への夢想を徹底的に打ち砕く。どんな人々の葛藤も、山の前では全くの雑事。自然はただそこに存在し、時に透明な青空で暖かく人を包み、時に荒れ狂ってゴミ屑のように人を蹴散らす。山は微塵も人が持ち込んだ幻想を気にせずにそこに存在するだけ。
 そんな一種、神の視点も映画は見事に描き出している。先ほど述べた人の視点が、もう少しその存在に対する敬意を、危機感として描写していたら、そこがさらに映えただろうにというのが、残念さのもう一つの理由である。

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 そして最後に観客の視点。
 これは頂上からの山脈を映し出す映像に対する不満がほとんど全て。山の快楽のきっと相当部分を占めるだろうはずの、天空の情景描写がものたりない。3Dで期待していたのは、この光景だったはずなのに、映画が描いたのは、人を中心にした頂上の雑事(写真撮ったりとか)ばかり。ぐるりと360°見渡すような情景が描写されていないのは、山岳の魅力が登場人物たちの無謀な行動の理由なはずだけに、緊迫感との対比で本来描写されていないのが残念。もちろん直接描写しないで観客の想像力に委ねて、実景以上の映像を想起させようとしたのかもしれないけれど、ここを描かないとこの映画の本当のカタルシスは訪れないでしょう。

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 以前にNHKのハイビジョンで観た、三浦雄一郎のエベレスト登頂ドキュメントで観たテレビの頂上映像が素晴らしかっただけに、観客としてのカタルシスはいまひとつだった。
 そして頂上映像だけでなくこのTVドキュメンタリー、レベルが高く、本映画より実は登山の厳しさの具体的ディテイル描写が素晴らしかった。まさにリアルの勝利。酸素や食事や荷物の重みの描写、そしてクレパスの恐怖、どれもそのディテイルが緊迫感を持っていた。たぶんカメラマンやスタッフが実際に味わっているリアル登山の恐怖が、見事な絵作りにつながっていたのではないかと思う。ここは映画というフィクションの敗北に思えてしまった。

 ドキュメンタリーでは不安定なカメラ位置とか映像的にリアルを無意識に感じさせる理由があったかもしれない。一番大きかったのは太陽の光の強さ。ハイヴィジョンがハイコントラストで見事に映し出していた高山の強い太陽光が、映画では少し弱く晴れのシーンも薄曇りっぽく見えてしまった。これらが映画のリアルを減点している残念な部分である。

 ということで、長文となってしまったけれども初見の感想でした。おまけとしてIMAX登山隊が登場するけれど、この時に写した映像を、IMAX劇場だけ上映してくれるサービスなんかがあったらよかったかな、と。

◆関連リンク
・1996年のエベレスト大量遭難 - Wikipedia

"隊長のスコット・フィッシャーは自己責任を強調し、14時というリミットには寛容であった。一方、ロブ・ホールは頂上が前に見えていても14時になったら引き返すように参加者に強く指導していた[注釈 5]。"

 この文章を読むと、郵便配達人のダグとロブの下山開始時間の危機感についてのやりとりは、かなりあったと考えられるため、映画のシナリオの工夫が惜しい。

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