■感想 アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』(ストルガツキー兄弟原作) &アントワーヌ・カタン、パヴェル・コストマロフ監督『PLAYBACK~アレクセイ・ゲルマンの惑星』
「神々のたそがれ」予告編 - YouTube
アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』ブルーレイ、初見。
なかなかの衝撃作。雨に濡れそぼつアジア的な湿った土地を舞台にした、西欧中世的異星のドキュメンタリー風ドラマ。
タイトルは、ストルガツキーの原題 "HARD TO BE A GOD"『神様はつらい』の方がピッタリくる。地球から異星の地に落ちた人類にカメラが密着したモノクロ映像でとらえた順応と苦悩の物語。
しかし主人公の"神"はその過酷な世界を飄々と泳ぎ渡っている。映画のトーンも重いかというと、捉えられた現実の過酷さと比べると、登場人物はたいくつな日常を淡々と生きている様に観える。その世界が彼らの日常なのだから、それが体に馴染み、そこで"つらい"とつぶやきながらも退屈な生活を生きるしかないのだろう。彼らに、"たそがれ"ている暇などないのである。なのでタイトルは『神様はつらい』が的確。
中世の雰囲気なのだけれど、冒頭で書いた様に僕はずっと降り続く雨に、大陸の西欧でなくアジアの国を感じた。
特に泥水にまみれた主人公たちの姿と、日本の甲冑のような武具、そしてモノクロの画面から思い起こしたのが黒澤明『七人の侍』。ブルーレイの封入ブックレットに記載された「アレクセイ・ゲイマンの声明」と名付けられたプレス記事、ここにはもうほとんど現代映画をほとんど観なくなった」が、「ベルイマン、黒澤明、『フェリーニのローマ』、オタール・イオセリアー、キラ・ムラートワの映画を観ているととても幸福な気持ちとなる」と書かれている。
泥水の世界に黒澤が描いた日本中世の異世界感が影響しているのかもしれない。
泥水と鼻水と糞尿と内臓と人類と動物の死骸の映画。SFかというとSF成分は非常に薄いが、ある異世界の日常の数日を徹底的にリアルに接写で捉えた記録映像としては出色。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎以下、少し ネタバレありです✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
僕のストルガツキー体験は非常に薄く原作の短編も読んでいないため、映画の評判や予告を観てイメージしていたのは、ティプトリーの描く異様な異星の生物たちの物語。残念ながら、そうした異星生物は出てこない。出てくる生物は泥にまみれて汚れた人類と犬や豚や牛である。異世界と思いたいがそこはまさに我々の地球と地続き。
そして独特なのがそれを捉えるカメラの映像。カメラの目前を横切ったり、撮るのを邪魔するように入ってくる事物(ウサギの屍体や紐、槍等々)、そして役者のカメラ目線。まるでその場に自信がいるように感じさせるのに、これらの映像テクニックが影響している。ドキュメンタリーの雰囲気を体感させるためのテクとも考えられるが、観客をどこにでも入り込める神、地に足をつけた神の視点に置くことを意図した映像なのかもしれない。
地球人であり「神」と呼ばれている主人公のドン・ルマータと並んで、この地獄巡りを観客に体感させるための監督の底意地の悪い意図なのかもしれない。
まさに"つらい"日常のカルカチュアとして、観たくないような映像が眼前に異様に展開する3時間の地獄巡り。
アレクセイ・ゲルマン作品は初見なのだけれど、そうとうにひねくれたノワールな方だったようである。そのあたりは同梱されたドキュメンタリー『PLAYBACK~アレクセイ・ゲルマンの惑星』 を観たらよくわかるのかもしれない。
『神々のたそがれ』メイキング・ドキュメンタリー 『PLAYBACK~アレクセイ・ゲルマンの惑星』予告編 - YouTube.
"アレクセイ・ゲルマン、映画術。
映画『神々のたそがれ』はどのように撮られたのか――? 『神々のたそがれ』の製作舞台裏が今明らかに。 12月26日(土)~28日(月)渋谷ユーロスペース3日間限定ロードショー! ロシア・ソ連映画最後の巨匠アレクセイ・ゲルマン監督による遺作『神々のたそがれ』。ストルガツキー兄弟(タルコフスキー『ストーカー』原作)のSF小説「神様はつらい」を原作に製作期間15年をかけて制作された。 本作はその撮影現場を捉えたドキュメンタリー映画。あの怪物的作品はどのように作られたのか?ゲルマン監督の現場での姿に、その異様なる才能の一旦が垣間見られる、貴重な作品である。"
アントワーヌ・カタン、パヴェル・コストマロフ監督『PLAYBACK~アレクセイ・ゲルマンの惑星』ブルーレイ初見。『神々のたそがれ』に続き、そのメイキングを鑑賞。
まず驚くのは軍服を着た男がモブシーンの指示を出しているところ、ロシアの兵士たちによるエキストラとのことである。ロシア映画では手頃な費用で使えるため重宝しているのだとか。
それにしても規律がしっかりしていないのか皆さんダラダラの動きw。余暇として気が抜けているのでしょうか。そんなところへも、ゲルマン監督の怒声が向けられる。
とにかくこのドキュメント、現場にゲルマン監督の怒りが満ち満ちている。そして反発する主役のドン・ルマータ役レオニード・ヤルモルニク。6年間の撮影の間に数かぎりない軋轢があったのではないだろうか。そんな舞台裏から、あの地獄巡りのような画面が形作られていったのかもしれない。
もうひとつ、印象的だったのは、監督の妻で『神々のたそがれ』の共同脚本家スヴェトラーナ・カルマリータ。常に監督の横につき時には現場の指示を出している。監督からは、指示は私が出す、と言われたりしているが、この奥さんが映画に与えた影響も大きいだろう。
ロシアのレンフィルムのスタジオ舞台裏とか、なかなか興味深い映像でした。タルコフスキーのこうしたドキュメントも観てみたかったと思わずに入られません。
ユーロスペースで15.12/28まで上映。沼野充義氏の御話は聴きたかった。
"【12/26(土)トークショー】(ゲスト)中原昌也、Atsuo/ 【12/28(月)トークショー】(ゲスト)沼野充義、奈倉有里"
◆関連リンク
・アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』Blu-ray 特典ディスク(メイキングドキュメンタリー)付属
・『アレクセイ・ゲルマン DVD-BOX』Blu-ray 特典ディスク(メイキングドキュメンタリー)付属
『道中の点検』(1971)、『戦争のない20日間』(1976)、『わが友イワン・ラプシン』(1984)、『フルスタリョフ、車を!』(1998)という単独監督長編作全部が収められているDVDボックス。ブルーレイだったら購入するのに!
| 固定リンク
コメント