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2015年12月

2015.12.30

■感想 フランク・パヴィッチ監督『ホドロフスキーのDUNE』


映画『ホドロフスキーのDUNE』予告編 - YouTube
映画『ホドロフスキーのDUNE』公式サイト
『ホドロフスキーのDUNE』 - 上映 | UPLINK

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"2013年/アメリカ/90分/英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語/カラー/16:9/DCP
CAST:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セドゥー、H・R・ギーガー、クリス・フォス、ブロンティス・ホドロフスキー、リチャード・スタン リー、デヴィン・ファラシ、ドリュー・マクウィーニー、ゲイリー・カーツ、ニコラス・ウィンディング・レフン、ダイアン・オバノン、クリスチャン・ヴァン デ、ジャン=ピエール・ビグナウ
プロデューサー・監督:フランク・パヴィッチ
共同プロデューサー:ミシェル・セドゥー
撮影監督:デイヴィッド・カヴァロ
編集:アレックス・リッチアーディ、ポール・ドカティ
作曲:カート・ステンゼル
制作・音声スーパーバイザー:デーモン・クック
音響スーパーバイザー:ジェシー・フラワー=アンブロッチ
アニメーター:シド・ガロン
3Dアニメーション:ポール・グリズウォルド

 第66回カンヌ国際映画祭の監督週間、映画作家アレハンドロ・ホドロフスキー(85歳)23年ぶりの新作『リアリティのダンス』、彼の未完の大作の製作過程を追ったドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』が上映された。
 映画祭での上映時には、アレハンドロ・ ホドロフスキー監督と、本作に出演し、彼の大ファンであることを公言している『ドライヴ』、『オンリー・ゴッド』のニコラス・ウィンディング・レフン監督が登場。

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 ホドロフスキーの『DUNE』は、1975年にホドロフスキーによって企画されたSF大作で、スタッフにバンド・デシネのカリスマ作家メビウス、SF画家のクリス・フォス、『エイリアン』『トータル・リコール』の脚本で知られるダン・オバノン、画家、デザイナーのH・R・ギーガー、キャストにサルバドール・ダリ、ミック・ジャガー、音楽にピンク・フロイド等、驚異的な豪華メンバーを配するも、撮影を前にして頓挫した。

 本作は、ホドロフスキー、プロデューサーのミシェル・セドゥー、ギーガー、レフン監督等のインタビューと、膨大なデザイン画や絵コンテなどの資料で綴る、映画史上最も有名な“実現しなかった映画”、ホドロフスキー版『DUNE』についての、驚愕、爆笑、感涙のドキュメンタリー!"

◆全体の感想
 評判が良かった映画をDVDレンタルでやっと観た。もっと早く見ておくべきだったと後悔。もともとこの映画企画についてはスターログ等の記事で知っていたので、わかった様な気持ちになっていて映画を観に行かなかったのを反省w。情報として知っていることと、実物の映画企画の生の姿に映像として触れられるのとでは大きく印象が異なる。約40年前に始まった企画について、生々しくその制作過程が語られていく臨場感がとても良い。

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 このドキュメント、監督と周辺の人々によって、映画という夢が作られていく過程が素晴らしい。またその映画のイメージを3D-CG等で一部再現しているところも嬉しい。特にクリス・フォスの絵がCG映像として画面に蘇っているのは感激以外の何物でもない。

 かつて記事として読んだ、メビウスやクリス・フォス、ギーガー、そしてダン・オバノンらがホドロフスキーに見出されて、壮大な映画企画に参加していく様にワクワクする。
 まず『ホーリー・マウンテン』の成功で、プロデューサー ミシェル・セドゥーとこの映画化の企画が立ち上がる。そして脚本が執筆されるのに続き、まるで『七人の侍』の前半、勘兵によって浪人の武士達が集められる様にスタッフが集められる様が素晴らしい。ホドロフスキーがスタッフを「ウォーリーアーズ」と呼ぶのも、もしかしたら『七人の侍』をイメージしているのかもしれない。

 映画で世界を変えたいという、ホドロフスキーのヴィジョン。今も当時の熱い想いが湧き出るように監督から語られる。この映画を観た人の多くが思うように、ホドロフスキーという人物がとても魅力的である。

◆集められたウォーリーアーズ

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 その熱気に当てられて集まったメビウスと多数のアーティストたち。
 特に印象的なのは、ダリ経由でホドロフスキーが知ったギーガーの異様な目つき。80代のホドロフスキーの精力的な様を語るギーガーの言葉から、当時の様子が生々しく画面に浮き上がる。この熱気をドキュメントの形で観客に届けているところがこの映画の真骨頂である。当時の熱気を監督の言葉と、そして『デューン』企画書(であり絵コンテ、イメージボード集)の映像で再現したフランク・パヴィッチ監督らの手腕に拍手。

 トランブルに会いに行ったと語るシーン。
 ホドロフスキーとの初のミーティング中に、かかってきた電話40本に出続け、ホドロフスキーに「彼は精神的な深みがない。技術的映画を撮ればいい」と判断される。で、特撮は、ホドロフスキーがLAを歩いていて『ダーク・スター』に出会い、オバノンに誘いを掛ける。

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 映像イメージとしては、クリス・フォスの海賊船とギーガーのハルコンネン伯爵の城が素晴らしい。この異様なヴィジョンが長篇映画として大スクリーンに結実していたら、とワクワクする。

 ラストシーン(シーン90)で描かれるポールの死。だが死んだことで彼の魂は大勢の人間の中に活きることになる。ポールを演じることになっていたホドロフスキーの息子が語る、この映画の企画は死んだが、ポールと同じ様にいろいろな映画に生きている、というセリフが印象的だった。

 本作で描かれるように、確かにいろいろな映画に、この映画企画のエッセンスが流れ込んでいると思う。

◆刺激的なキャスト
 そしてスタッフと合わせて、集められるキャストにもドキドキしてしまう。サルバドール・ダリとそのミューズであるアマンダ・リア(なんと彼女も女王としてキャスティングされていた)、そしてオーソン・ウェールズとミック・ジャガー。
 アンディー・ウォーホールのファクトリーでのパーティでミック・ジャガーに会い、役の快諾を得た等魅力的なエピソードが多数

 キャストとしては、やはりオーソン・ウェールズの
ハルコンネンが実現していたら、とこの映画を観ながら頭の中にいろんなイメージが渦巻いてくる。


◆最後に
 10時間にもなるという映画の全貌が絵コンテやシナリオで明らかになるとしたらすごいことだと思う。実写は大変な予算になると思うけれど、アニメなら今からでもどうだろうか、とか夢想せずにはいられない。

 ホドロフスキー映画は実は『エル・トポ』しか観ていない。20代にビデオで観た『エル・トポ』のいかにも前衛然とした映像に辟易して『ホーリー・マウンテン』には手を出さなかったのだけれど、この映画を観たら、是非観てみたいと思った。

 リンチファンとして、彼の『デューン』も嫌いでない僕としては、自分以外に適した監督がいるとしたらリンチしかいない、だがリンチ作品を観て出来が悪かったので安心した、とホドロフスキーが断定するコメントもあり、少々辛いのだけれどw、ホドロフスキーの考えていたヴィジョンとリンチ作品の乖離が大きかったことは間違いないだろう。

 そのほかにも、ファンにはインタビューを受ける中に、何とダン・オバノンの奥さんが登場したり、とにかく80年代SF映画ファンには素晴らしい贈り物。

 他にも頓挫した映画は世の中に沢山あるけれど、この様なドキュメンタリー、他にも観てみたいもの。僕が観てみたいのは、例えば押井守の映画『ルパン三世』とかかな(^^)。

◆おまけ DVD特典映像 本篇のカットシーン集
 シャーロット・ランプリングも出ると言っていたが、脚本に3千人が宮殿で排便するシーンがあるのを脚本で読んで、出ないと決めたとかDVDに入っている未公開カットで語られる話も興味深い。いったいどんな映画になっていたのだろうか。それにしても当時のランプリングが出ていたとしたら、それだけでも魅力的なSF映画になっていただろう。

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 企画頓挫後、ある種の気まずさから疎遠になっていたホドロフスキーとプロデューサーのミシェル・セドゥーとの30年ぶりの邂逅シーンが出色。
 冬のパリの街を歩きながら語り合う二人がとても素晴らしい笑顔を見せる。まさに戦友の関係であった二人の間に流れる空気が、当時の企画の輝きを示しているようで素晴らしい。ここは必見です。

 ホドロフスキーが語る「会話ばかりの映画を時々観るが、シネマはイメージだ」という言葉。本篇でも小説と映画の違いを述べるシーンで明確に自身のイメージを語っているが、映像言語によるイメージの伝達について、かなり明確なコンセプトを持っていることがよくわかる。

 「私は鏡を見ない。気は若い頃のままだ。」というセリフが出てくるが、まさにあのエネルギッシュな語りは、自身を老人と定義しない、若手監督のような姿勢である。ここがホドロフスキーがこの映画でとても魅力的に写っている理由なのであろう。 

◆関連リンク。

Moebius Redux: Jodorowsky's Dune - YouTube
DUNE magma Christian Vander - Google 検索
 パリのロックグループ マグマ。このドキュメントに登場したクリスチャン・ヴァンデ : Christian Vanderの名前から検索すると彼らの音楽がいくつか聴ける。
 パリでホドロフスキーが展覧会でギーガーの絵を見て、初めて会った時、マグマのコンサートに行ったという。ギーガーも絶賛する(磔にされたキリストのような音楽)、ハルコンネンの惑星の音楽を担当するはずだったという。

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Amazon.co.jp: 「DUNE Jodorowsky」検索 : 洋書
 あの絵コンテやイメージボードを収めた本は、出版されていないのですね。これは残念すぎる。どこかのカルト出版社が各アーティストの著作権を整理して何とか世に出して欲しいものです。
 特典映像で語られているが、本は全部で20冊あったそうで、18冊がLAで映画会社等に配られ、残りの2冊がホドロフスキーとプロデューサーのミシェル・セドゥーのもとに一冊づつ残った。

 その本について「ホドロフスキーのDUNE」展示会で以下のような展示があったということである。

アレハンドロ・ホドロフスキー展 『芸術に許可が必要だと?』 | PARCO GALLERY X | パルコアート.com.

"本エキシビションのハイライトは、『ホドロフスキーのDUNE』のコメントに登場する、幻の関係者用ストーリー・ボード。劇中でフィーチャーされたオリジナ ルではないものの、計り知れない希少価値の高さを誇る逸品です。ホドロフスキー・ファンのみならず、全映画ファン必見のアイテムをこの機会に是非ご覧下さ い。 その他、多岐に渡るホドロフスキーの創作活動を多角的に照射する展示を、お見逃しなく。
【DUNE 限定閲覧イベント毎日開催中!!】
本展で展示されている幻のストーリーボード集。 なんとこの貴重な本の中身を閲覧することの出来る「DUNE 限定閲覧イベント」を毎日所定の時間にて開催いたします。 皆様是非とも足をお運び下さい。
場所:PARCO GALLERY X
時間:会期中毎日15:30-15:45(毎日15分限定公開)
参加費:無料 ※ページをめくるのは係のものに限らせていただきます。 ※ページのご指定等はお受け出来ませんのであらかじめご了承下さい。"

ピポ子の新いきあたりばったり:DUNE.

"今回の展示されてるのは、なんと10年前e-bayオークションに出され日本人が落札したと言う情報の元に、半年ほど前から公開で落札者を探していて映画公開直前に見つかったお宝なのよ。"

『映画『ホドロフスキーのDUNE』劇場用パンフレット』

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2015.12.29

■感想 アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』(ストルガツキー兄弟原作) &アントワーヌ・カタン、パヴェル・コストマロフ監督『PLAYBACK~アレクセイ・ゲルマンの惑星』


「神々のたそがれ」予告編 - YouTube
 アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』ブルーレイ、初見。
 なかなかの衝撃作。雨に濡れそぼつアジア的な湿った土地を舞台にした、西欧中世的異星のドキュメンタリー風ドラマ。

 タイトルは、ストルガツキーの原題 "HARD TO BE A GOD"『神様はつらい』の方がピッタリくる。地球から異星の地に落ちた人類にカメラが密着したモノクロ映像でとらえた順応と苦悩の物語。
 しかし主人公の"神"はその過酷な世界を飄々と泳ぎ渡っている。映画のトーンも重いかというと、捉えられた現実の過酷さと比べると、登場人物はたいくつな日常を淡々と生きている様に観える。その世界が彼らの日常なのだから、それが体に馴染み、そこで"つらい"とつぶやきながらも退屈な生活を生きるしかないのだろう。彼らに、"たそがれ"ている暇などないのである。なのでタイトルは『神様はつらい』が的確。

 中世の雰囲気なのだけれど、冒頭で書いた様に僕はずっと降り続く雨に、大陸の西欧でなくアジアの国を感じた。
 特に泥水にまみれた主人公たちの姿と、日本の甲冑のような武具、そしてモノクロの画面から思い起こしたのが黒澤明『七人の侍』。ブルーレイの封入ブックレットに記載された「アレクセイ・ゲイマンの声明」と名付けられたプレス記事、ここにはもうほとんど現代映画をほとんど観なくなった」が、「ベルイマン、黒澤明、『フェリーニのローマ』、オタール・イオセリアー、キラ・ムラートワの映画を観ているととても幸福な気持ちとなる」と書かれている。
 泥水の世界に黒澤が描いた日本中世の異世界感が影響しているのかもしれない。

 泥水と鼻水と糞尿と内臓と人類と動物の死骸の映画。SFかというとSF成分は非常に薄いが、ある異世界の日常の数日を徹底的にリアルに接写で捉えた記録映像としては出色。




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎以下、少し ネタバレありです✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




 僕のストルガツキー体験は非常に薄く原作の短編も読んでいないため、映画の評判や予告を観てイメージしていたのは、ティプトリーの描く異様な異星の生物たちの物語。残念ながら、そうした異星生物は出てこない。出てくる生物は泥にまみれて汚れた人類と犬や豚や牛である。異世界と思いたいがそこはまさに我々の地球と地続き。

 そして独特なのがそれを捉えるカメラの映像。カメラの目前を横切ったり、撮るのを邪魔するように入ってくる事物(ウサギの屍体や紐、槍等々)、そして役者のカメラ目線。まるでその場に自信がいるように感じさせるのに、これらの映像テクニックが影響している。ドキュメンタリーの雰囲気を体感させるためのテクとも考えられるが、観客をどこにでも入り込める神、地に足をつけた神の視点に置くことを意図した映像なのかもしれない。
 地球人であり「神」と呼ばれている主人公のドン・ルマータと並んで、この地獄巡りを観客に体感させるための監督の底意地の悪い意図なのかもしれない。

 まさに"つらい"日常のカルカチュアとして、観たくないような映像が眼前に異様に展開する3時間の地獄巡り。

 アレクセイ・ゲルマン作品は初見なのだけれど、そうとうにひねくれたノワールな方だったようである。そのあたりは同梱されたドキュメンタリー『PLAYBACK~アレクセイ・ゲルマンの惑星』 を観たらよくわかるのかもしれない。


『神々のたそがれ』メイキング・ドキュメンタリー 『PLAYBACK~アレクセイ・ゲルマンの惑星』予告編 - YouTube.

"アレクセイ・ゲルマン、映画術。
映画『神々のたそがれ』はどのように撮られたのか――? 『神々のたそがれ』の製作舞台裏が今明らかに。 12月26日(土)~28日(月)渋谷ユーロスペース3日間限定ロードショー! ロシア・ソ連映画最後の巨匠アレクセイ・ゲルマン監督による遺作『神々のたそがれ』。­ストルガツキー兄弟(タルコフスキー『ストーカー』原作)のSF小説「神様はつらい」­を原作に製作期間15年をかけて制作された。 本作はその撮影現場を捉えたドキュメンタリー映画。あの怪物的作品はどのように作られ­たのか?ゲルマン監督の現場での姿に、その異様なる才能の一旦が垣間見られる、貴重な­作品である。"

 アントワーヌ・カタン、パヴェル・コストマロフ監督『PLAYBACK~アレクセイ・ゲルマンの惑星』ブルーレイ初見。『神々のたそがれ』に続き、そのメイキングを鑑賞。

 まず驚くのは軍服を着た男がモブシーンの指示を出しているところ、ロシアの兵士たちによるエキストラとのことである。ロシア映画では手頃な費用で使えるため重宝しているのだとか。
 それにしても規律がしっかりしていないのか皆さんダラダラの動きw。余暇として気が抜けているのでしょうか。そんなところへも、ゲルマン監督の怒声が向けられる。

 とにかくこのドキュメント、現場にゲルマン監督の怒りが満ち満ちている。そして反発する主役のドン・ルマータ役レオニード・ヤルモルニク。6年間の撮影の間に数かぎりない軋轢があったのではないだろうか。そんな舞台裏から、あの地獄巡りのような画面が形作られていったのかもしれない。

 もうひとつ、印象的だったのは、監督の妻で『神々のたそがれ』の共同脚本家スヴェトラーナ・カルマリータ。常に監督の横につき時には現場の指示を出している。監督からは、指示は私が出す、と言われたりしているが、この奥さんが映画に与えた影響も大きいだろう。

 ロシアのレンフィルムのスタジオ舞台裏とか、なかなか興味深い映像でした。タルコフスキーのこうしたドキュメントも観てみたかったと思わずに入られません。

 ユーロスペースで15.12/28まで上映。沼野充義氏の御話は聴きたかった。

"【12/26(土)トークショー】(ゲスト)中原昌也、Atsuo/ 【12/28(月)トークショー】(ゲスト)沼野充義、奈倉有里"

◆関連リンク
アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』Blu-ray 特典ディスク(メイキングドキュメンタリー)付属
『アレクセイ・ゲルマン DVD-BOX』Blu-ray 特典ディスク(メイキングドキュメンタリー)付属
 『道中の点検』(1971)、『戦争のない20日間』(1976)、『わが友イワン・ラプシン』(1984)、『フルスタリョフ、車を!』(1998)という単独監督長編作全部が収められているDVDボックス。ブルーレイだったら購入するのに!

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2015.12.23

■感想 森田真生『数学する身体』

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森田真生公式ウェブサイト - Choreograph Life -
 TBSラジオ Session22で紹介され(下記動画リンク)興味深かった”独立研究者" 森田真生の『数学する身体』を読了。
 数学音痴の僕にはたぶん本書の真髄はわかっていないのだけれど、人間の理性が生み出した数学と身体の切り難い関係性を描いた部分が凄く面白かった。


22 森田真生×荻上チキ「数学する身体」フル2015.11.30 - YouTube.

 無理やりまとめると、身体とそれを取り巻く環境が人の数学というロジックに影響を与えている、というような趣旨。人類の意識,知性と、身体,環境といったものとの相互作用による精緻なハーモニーを詩的に描く筆致が魅力的な本。
 面白かった部分を幾つかメモしてみます。

・イギリスのサセックス大エイドリアン・トンプソンらの研究で、「人工進化」手法で二つの音程を聞き分けるICチップ(進化型ハードウェア)を作成すると、人間が設計した場合に最低限必要な論理プロックの数を下回る37個で機能を果たしていた。しかもそのうちの5個は回路上繋がっていない。分析の結果、そのチップは回路同士の電磁的な漏出や磁束によって、正常動作を獲得していた。つまり通常人間の設計では排除するノイズを巧みに利用してそのチップは機能を果たしていた。(P34)
 研究成果へのリンク

・人間もその進化の過程で「問題解決のためのリソース」として身体や環境のあちこちに染み出したものを使用しているのではないか、という哲学者アンディ・クラーク認知科学書『現れる存在―脳と身体と世界の再統合』を紹介。(P36)

・数字を使う数学は、西欧では12世紀以降、古代ギリシャの数学は、図と自然言語による論理を記述していた。
・19世紀半ばのドイツの数学者リーマンデデキントは、数式と計算の背景にある抽象的な概念世界を扱う「概念と論理」の時代へ舵を切った。(P78)
 このあたりから僕には未知の領域でイメージができなくなりましたw。

チューリングが「計算者」をモデルに考えたチューリング機械と、計算できない手続きを実行する「オラクル:神託機械」の概念。そして人間に匹敵する知的機械を作るためには、神経系のみならず目や耳や足など、人間のあらゆる部分を持った機械を作る確実な方法だろうと述べた『計算機械と知能』の紹介。(P104)

・「多変数解析関数論」の岡潔による「数学の中心にあるのは情緒である」論の紹介。(P116)・岡潔『日本のこころ』。森田が岡潔に魅かれるのは、「彼が零からの構築よりも、零に至るまでの根本的な不思議の究明へと、いつも向かっているから」であるという。(P173)

・ドイツの生物学者フォン・ユクスキュル 『生物から見た世界』に書かれた「魔術的環世界」。人にとっての風景は、想像力が介在する外的刺激に帰着できない要素を持つ。(P125)

・アンドレ・クノップスらの研究 fMRIによる脳の観察で、人が数字の大きい/小さいを認識する際に、目を右に動かす/左に動かす時に活動する後頭頂葉のある部位が活性化する。そこからグラフや定規の目盛りは右へ行くほど大となっている。身体機能と数学の関係。(P130)

・岡潔が語る芭蕉の句の電光石火の計算速度。「ほろほろと山吹散るか滝の音」という句は、「無障害の生きた自然の流れる早い意識を、手早くとらえて、識域下に映像を結んだもの」。どんな優れたアルゴリズムよりも、芭蕉が句境を把握する速度は迅速。(P159)

 この最後の一節に、映画を観た際に、映像と音とセリフの言葉によって、映画クリエーターの脳と身体と、スクリーンを通して分かち難い共鳴を得る瞬間があることを想起していた。映像言語というのは、この芭蕉の電光石火のアルゴリズムと似たような人の認知過程があるように思う。この電光石火という言葉をヒントに究極映像についても研究が進むような予感を感じて本書を閉じました(^^;)。刺激的でした。

◆関連リンク
森田真生『数学する身体』
アンディ・クラーク『現れる存在―脳と身体と世界の再統合』
・岡潔『日本のこころ』
『生物から見た世界』

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2015.12.21

■感想 J・J・エイブラムス監督『スター・ウォーズ エピソード7 フォースの覚醒』


Star Wars: Episode VII - The Force Awakens ALL Trailer & Clips (2015) - YouTube

 ついに公開された『フォースの覚醒』を公開二日目の土曜日に、3D IMAX 字幕版で観てきました。感想は前半3Dと全体の印象について、後半ネタバレを少し含んだ順に書いてみます。

 まず今回観たのは、109シネマズ名古屋 IMAX 3D F席(前から2列目)中央(F19)。この位置はこの劇場でのお気に入り、少し下から見上げる位置になるけれど、画面に取り囲まれ臨場感は最高である。

 今回、1983年のep.6の続きが遂に32年ぶりに語られるということに加えて、3Dとして作られた最初の『スターウォーズ』(ep.1の3D版公開はありましたが、、、) というのも立体映画好きには堪らないポイント。

 冒頭ルーカスフィルムのクレジットの後、"STAR WARS THE FORCE AWAKENS"の文字がスクリーンに現れ、ずっと画面の奥へと遠ざかっていく。そして文字による物語の紹介。この初の3Dスターウォーズ体験に気分は盛り上がる。

 立体映像としてStereo D社の3D変換が絶好調で、砂漠のドックファイトではタイファイターの風圧を顔に感じる様な臨場感。(スピーカーからの音圧だったのかもしれないけれど…(^^;))。
 また宇宙空間の戦艦を描くシーンや、敵秘密基地の空間感覚等も立体感のあるとてもいい絵になっていて、センス・オブ・ワンダーを感じさせてくれました。

 3Dは吹替派なのだけど、その字幕も表示位置がキャラクターの前に寄せてあり、しかも内側を遠方にして若干奥行きもつけてあり、ステレオ視としては違和感が少なくなっていたのも幸いしたかも。

 特に3Dとして最高のシーンは、予告篇にもある、砂漠のスターデストロイヤーの廃墟を、レイが操縦するミレニアムファルコンでドッグファイトするところ。今までのシリーズ作品をリスペクトした上で、スターウォーズサーガの映像がアップデートした瞬間に目頭が熱くなりました。

 映画全体の感想は、スターウォーズというフォーマットの映画としては最上の完成度だと思った。過去作からのキャラクターやエピソード、戦闘で破壊された遺品の扱いと引用も素晴らしい。そしてそれにも増して魅力的だったのが、そのフォーマットに則りながらも新しく描かれた新キャラクターの新鮮さ。
 物語も、ルーカスがフォースのテーマに込めたものが上手く吸い上げられ今後の端緒が描かれルーカスリスペクトに満ちていたと思う。まさに次回作が楽しみ。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆以下、ネタバレ注意◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



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2015.12.16

■動画 ラナ・デル・レイ「ブルー・ベルベット」


Lana Del Rey - Blue Velvet (Official Video) - YouTube
 2012年のラナ・デル・レイ「ブルー・ベルベット」。
 映像はちょっとリンチテイスト。映像よりも、歌がいいですねw。
 この歌にも関連して、リンチとのコラボレーションについて、ラナ・デル・レイがインタビューで答えています。

A Letter From Lana Del Rey - The Full NME Cover Interview | NME.COM

"David Lynch is making a new series of Twin Peaks – a show that seems to have had an impact on your music. Are you excited?

“I would love to do anything with David Lynch. I don’t know too much about what’s going on but I certainly love the original TV series and his movies since then.”"

 ラナ・デル・レイの発言は、「リンチと何かを一緒にしたい。(『ツイン・ピークス』について)私は何が起こっているのか知らないけれど、私は確かに、オリジナルのテレビシリーズと彼の映画が大好きです。」と発言している。
 これをもってコラボレーションが実現するということはないかもしれないが、あのボーカルはリンチとの相性は抜群なはずなので、バダラメンティが作曲した曲で『ツイン・ピークス』において、ラナの歌声がテレビから響いてきたら素晴らしいでしょうね。

◆関連リンク
Lana Del Rey open to David Lynch collaboration: 'I would love to do anything with him' | NME.COM.

"Lynch has previously spoken highly of Del Rey, saying: "She's got fantastic charisma, and this is a very interesting thing. It's like she's born out of another time. She's got something that's so very appealing to people, and I didn't know that she was influenced by me"."

 リンチのラナに関する発言です。

LANA DEL REY - BLUE VELVET (FULL VERSION) - YouTube

ラナ・デル・レイ『ウルトラヴァイオレンス』
ラナ・デル・レイ『ハネムーン』
ラナ・デル・レイ『 ボーン・トゥ・ダイ ザ・パラダイス・エディション Deluxe Edition 』

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2015.12.14

■感想 『スター・ウォーズ』 エピソード4-6


「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」トレーラー - YouTube
スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望 - Wikipedia
 反乱同盟軍の輸送船とスター・デストロイヤーから始まる冒頭のタトゥイーン上空のシーケンスは圧巻。もうこのシーンからC3-PO, R2-D2が砂漠で彷徨うシーンまでは古典の風格。
 いずれも実写で、自身の思い描いたイメージを撮り切ろうとするルーカスの気概が映像に漲っている気がする。ある意味、このような気概が古典的な風格をはじめからもたらすのでしょうね。

 なので、新たに特別篇で追加されたタトゥイーンでのCGは違和感がある。フィルムの持つ、実物の出す存在感にCGが馴染んでいない。明度の違いとか、あくまでも技術的な不備の問題かもしれないが、明らかに浮いているこの特別篇での映像はいただけない。
 
 ドラマとしては、タトゥイーンでのルークと叔父叔母、ケノービとの関係が、ep.1-3を観た後だと、アナキンとパドメの悲劇を背負っているだけに、感慨深く感じる。
 あとで作られたep.1-3の続きで観ると、ダース・ベーダーのセリフとか、いろいろとこの流れだと、ツッコミを入れたくなるところはあるけれど、そこはあまり気にしないでw観るのがいいのかな、と。

 ハン・ソロとチューバッカの登場、そしてデス・スターによるオルデランの破壊と、ルークらによるレイアの救出劇。あれよあれよと物語が進み、あれ、こんなにシンプルで短い話だったっけ、と感じる。ep.1-3での政治劇と人間ドラマ部分の複雑さ(?)に比べると、ep.4はまさにアクションに次ぐアクション。ルーカスが全体のシリーズ構成を持っていながら、ep.4から作った理由が非常によくわかる。ここから始めたことによりこれだけのヒットになっただろう、というのは10人中10人が感じることだろう。

 クライマックスは、ヤヴィン第4衛星の同盟軍秘密基地からのデス・スター攻略戦。星の影に入った衛星が出てくるまでの30分、という時間制約が緊迫感を盛り上げている。
 攻略隊が物量的にこれだけでいいのか、というくらい小規模な編成なのは気になったけれど、映画としてはパイロットのドラマもそれなりに観せていて、このシンプルさがいいですね。
 SFXは合成の荒れとかさすがに気になるけれど、物語がストレートで勢いがあるのでほとんど気にならない。やはり映画は、画面ひとつづつの仕上がりでなく、ドラマと映像の連鎖から生まれるものですね。破壊シーンから一気に大団円に至るシーン、タイトルバックのジョン・ウィリアムスの高らかに鳴り響くオーケストラ。この陽性な盛り上がりが『スター・ウォーズ』の熱狂の源であったことがとてもよくわかる。

 1977年(日本では翌78年)初上映当時、アメリカでの盛り上がりがSF関係者から凄まじい勢いで(当時はSF雑誌、映画雑誌が唯一のルートだったけれど)僕らに伝わってきたのだけれど、その熱気の理由は今観てもこのクライマックスとタイトルバックであることは明らか。

 クライマックスまでに積み上がっている、精緻な宇宙機のディテイルとスピーディな映像、そしてタトゥイーン砂漠の民とカンティーナ酒場に代表されるSF的ガジェットの頻出。SF映画を復権させたルーカスとILMに、僕らは本当に感謝しないとなぁ〜とため息つきながらの再見となりました(おそらく僕は少ないけれど4回目くらいか...)。

 個人的な想い出を書くと、当時アメリカでの評判から観たくてたまらなかったのだけれど、学生の身で当然海外なんて無理。「スターログ」で知り合った方から『スター・ウォーズ』の予告篇(?)8mmをお借りして学校の文化祭で上映会をしたのは良い記憶。あの冒頭のスター・デストロイヤーが頭上を行き過ぎるシーンが学校のスクリーンに映し出された時の感動は今も忘れませんw。


「スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲」トレーラー - YouTube.
スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲 - Wikipedia

 氷の惑星ホスのシーンからスタート。ここのストップモーションアニメがなかなかの味わい。現在のCG技術からするとリアリティは物足りないが、この独特の動きの手作り感が、まさにある種の味わいを画面にもたらしている。(僕は初見の1980年当時も少し古いなぁ、と思った記憶はあるけれど、、、w)

 その後、物語はルークがヨーダを探して惑星ダゴバへ、レイアとソロが帝国軍に追われて小惑星帯へ。この展開がたぶん初見時、あまり僕が乗り切れなかったところ。物語の緊迫感と臨場感が、特にルークのヨーダとの修行シーンで損なわれているように思えたのだろう。またヨーダの登場シーンのヘロヘロぶり(後半シャッキリするので演技ではあったのでしょうか、、、)も良い印象を持てなかった理由かも。

 世間的には評判の良い『帝国の逆襲』だけれど、僕はここに書いたような理由からか、何故か乗り切れないですね。やはり『スター・ウォーズ』はep.4,6のような大団円がないと(^^;)。


「スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還」トレーラー - YouTube
スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還 - Wikipedia

" エンディングの曲が「イウォーク・セレブレイションとフィナーレ」から「勝利のセレブレーション」に替えられた。"

 今回観たのはNHK-BSで放映された「特別版」なので、残念でしょうがない。このラストの大団円、イォークの歌が一番盛り上がるのに、何て仕打ちでしょう。イォーク派の私としてはこの改悪は残念で仕方ありません。『ジェダイの復讐』版を観ないと今夜眠れませんw。

 タトゥイーンのジャバのシーケンスも好きだし、ep.4の再話的にも見えるけれど、デス・スターという作劇上のクライマックスが設定されているのも大団円向き。さらにイォーク、この風貌が大好きな僕はエンドアシーケンスもお気に入りなのです。

 ルークに対する暗黒面への引き込みはep.3のアナキンへのそれと比べると余りに迂闊でこれでは普通落ちないでしょ、という感じでイマイチ。もっと迫真してたら、とも思うけれど、陽性で全体を組み立ててある『スター・ウォーズ』においてはこの程度が良いのかもしれません。ダース・ベーダーの再びの転向も、ep.1-3からすると行き過ぎの気もしますが、これも『スター・ウォーズ』らしさからすると正解かも。やはりファミリーパルプムービーとしての仕上がりがSWらしいですよね(^^)。

 あと蛇足だけれどもルーカスがep.6をデイヴィッド・リンチに監督依頼した話を聞いているので、今回、リンチがこのストーリーでもし撮っていたら、、、なんてことも考えながら観た。ルーカスは暗黒面を描くためにリンチに声をかけたのかもしれない。あのラストもリンチが撮っていたらこの感想は随分変わっていたかもしれない。

 前半のジャバのシーン、リンチが撮っていたら、エイリアンの艶かしい歌とか、怪物のメラメラした不気味さとか、雰囲気的にはある意味、リンチ的テイストで素晴らしい仕上がりになったかもしれない。
 ただし後半のイォークは、、、リンチには無理でしょう。熊的生物でなく、ただの小人たちの群れになっていたかも。その際にあのクライマックスの愛らしさは消え、もっとフリークスな感じの後味の悪〜い感じになっていたかもw。

■ep.1-6を続けて観て。
 『フォースの覚醒』に向けてのep.1-6一気観、完了しました。これで迎え撃つ準備は万端です(^^)。
 先週のep.1-3に続けてep.4-5を観て、感じたのは深刻でなく陽性な話でないと、SWらしさが減殺される、ということ。ep.1-3のテイストは深刻、特に政治劇はスターウォーズに本来似合わないですね。ジャージャーの失敗で批判が出て、ルーカスの手元が狂ったかも。

 本来は古き良きパルプ雑誌の冒険活劇か。映画の時代的な進化で、物語のリアリティを求める方向、映像もフォトリアルな志向になっているのだけれど、もともとのパルプ的なスペースオペラの肌合いがそれと合わない。

 比較して観て、僕のお気に入りはあえて書くと、ep.4、3、6、2、5、1の順かな。
 全体を通して観た陽性のエンターテインメントということとと少し矛盾するけれど、このお気に入り順は、自分の好みだけで選びました。

 さあ、来週の21世紀についに作られた『スター・ウォーズ』旧三部作の未来は、どんな世界を僕らに提示してくれるのか。みなさん、お祭りを楽しみましょう! 

Original Star Wars VI ending - YouTube
 ep.4-6の締め括り、『ジェダイの復讐』はやはりこの「イウォーク・セレブレイションとフィナーレ」のラストでないといけない。陽性の『スターウォーズ』の象徴のひとつと思うので。
 今度の作品が、アナキンの悲劇を描いたep.1-6に対して、どのような暗黒面と本来の『スターウォーズ』の持ち味を描くのか興味津々。もちろんそこにイウォークが重要な位置で登場するのを望むものです(^^)。

◆関連リンク
スターウォーズでナイト!/新たなる希望<特別篇>解説
スターウォーズでナイト!/帝国の逆襲<特別篇>解説
スターウォーズでナイト!/ジェダイの帰還(復讐)<特別篇>解説
 特別版、DVD版等の変更点が画像付きでまとめられています。

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2015.12.09

■感想 ジョージ・ルーカス監督『スター・ウォーズ』エピソード1-3


スターウォーズ予告編[ファントム・メナス編] - YouTube.
スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス wiki (1999)
 『フォースの覚醒』、2015.12/18の世界同時に向けて気分が高まる中、このお祭りを楽しむしかない、と『スターウォーズ』の映画6作品を続けて観てみようと考え、まず今週はep.1-3をイッキ見。
 どういう順番で観るか、考えたのだけれど、初めての6作連続観は、物語の時間軸順としました。今まで作られた順にしか観ていなく、歴史順だとどんな感覚になるか試したかったわけです。では一作づつの感想です。

 エピソード1は、以前観た印象と同じくやはりストーリーは薄味。こだわりが少ない。ので肩の力を抜いて、出てくる宇宙機とかガジェットとか星人とか、スターウォーズらしい世界観をゆっくりと堪能するに限るw。

 この薄味、エンターテインメントとして、例えば『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンあたりによる粘ったシナリオと活劇で見せてもらったらどんなにか重厚だろうか、といらぬ想像もしながら。

 ストーリーの骨格は、クワイ=ガン・ジンがアナキンを見出し、ポッドレースにナブーの将来を賭けレースが行われる。アナキンとジェダイの遭遇という全スターウォーズ世界のスタートと言っていい物語の端緒が描かれる。
 そしてこのシーケンスで描かれるポッドレースが映像的にも一番の見所。ロケット(ジェット)エンジン2機に引かれるポッドの動きが映画的に映える。

 そしてドラマの中心は、アナキンとパドメの交流、母との別れといったところか...。ここがやはりジョージ・ルーカス、感情の持って行き方がやはり薄味。Pジャクソン補正を脳内でかけながら観るとグッとくるw。

 ガジェット的には、通商連合の一般ドロイドがイマイチで惜しい。兵士がほとんどそれなので迫力に欠けている。この兵士たちの出来が違ったら緊迫感は変わっただろう。例えば回転しながら突撃してきてシールド広げて攻撃するシス・ウォー・ドロイド・マークI(Sith war droid Mark I)のデザインがいい。このレベルがドロイド全体に獲得できていたら、、、。

 ラストは、通商連合のドロイド制御艦の破壊で少し小粒、ここも薄味の一端。
 同じくクライマックスのダース・モール、クワイ=ガン・ジン、オビ=ワン・ケノービとのライトセイバーによる武術の戦い。赤鬼と侍の対決という絵柄はいいのだけれど、どうしてもルーカスが憧れた黒澤映画の殺陣と比べると緩い。
 無駄な動き、特に一回後ろへくるっと回る所作がそんなことしてたら隙だらけでしょ、と見えてしまって残念。『用心棒』や『七人の侍』の緊迫感のある動き。武具に触れたら死んでしまう、という緊迫感がもっとあれば、、、。
 このあたりの感想は、実は『ホビット 決戦のゆくえ』を直前で観たので、あのクライマックスの殺陣の真剣勝負が眼に焼き付いていたので致し方ないw。

 アミダラの日本の姫のような髪と衣装が素晴らしかったので、日本の時代劇リスペクトがそうしたところにも横溢していたら、と思わざるを得ない。

 SFXは、CGなのでもっとマクロから近接のディテイルアップまで一連のショットで見せてもらえたらと思うところが何箇所か。ミニチュアにできない描写がそのあたりにあると思うんだけれど、、、。そのCGとマット画によるだろう、ナブーの景色は最高なのでここらも惜しくってしかたがない。

 本作ではヨーダはフランク・オズ。CGではない(特別篇ではCGに差し替えられたらしいですが、、、。)
 ジャージャーは世に言われるほど嫌いじゃない。ただコメディリリーフとしても、C3POともっと絡ませるとか、盛り上げ方はあったかも。ルーカスの脚本がとにかく薄味というのがやはりまとめです。


「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」トレーラー - YouTube
「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」wiki (2002)

 クローン兵を生産する惑星 カミーノ。ジャンゴ・フェットとボバ・フェット親子の登場。クローン・ホストという位置付けで大きく絡むというのは印象的。
 アナキンとパドメが愛しあう舞台 ナプーの自然描写がこちらも最高。(ナプーは観光で一度は行ってみたいと思いますねw。イスラムと日本のいいところの融合というか、、、)
 ただし、このシーンで牛のような生物にアナキンが巫山戯て乗って落ちるところの合成が、ep1-3の中で最も違和感のある映像だった。もろCG的な。
 ナプーのパドメが女王の任期を終えて、共和国議会の議員になっているという設定も面白い。ここらがep.4で同盟国でレーアが姫様となっている設定とつながっているのだろう。

 タトゥーインでのアナキンのタスケン・レイダーの虐殺。ここは自然に暗黒面への道筋が付けられているところでストーリーの要でもありますね。違和感はアナキンがep.1と2であまりに印象が違うところ。普通少年時代と青年時代ってもっと同一人物の連続性ってあたりまえだけれどありますよね。顔が似た俳優をチョイスして、ここがもっと自然に描かれていたら、、、。

 ジオノーシスでドゥークー伯爵に囚われて、3人が宇宙獣に処刑されるシーン。アクションが工夫されていてなかなか。そして駆けつけるヨーダとクローン軍団。
 ここの戦闘シーンのCG演出がスビルバーグが『宇宙戦争』等でやったカメラを寄せながらブレさせる、この頃の流行の演出が効いていて臨場感がいいですね。
 今回からヨーダはCG描写になり、表情がきめ細かく、鋭い感性を感じさせるキャラクターに変身している。


「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」トレーラー - YouTube
スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐 (2005)

 共和国と帝国の関係、ルークとレイア他、エピソード4への繋ぎが明確になるep.3。ルーカス渾身の一作だと思う。ぬるい感じだったストーリーが一機にハードになっていく。これはジャージャーに代表されるようなファンの批判によって修正された部分であろう。

 特にハードなラストは、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』に影響されたのではないか、と思わざるを得ない。
 クライマックスの火焔の星・ムスタファーでの決闘シーンは、『王の帰還』のフロドとゴラムの溶岩の中での対決を想起する。
 そしてアナキンの悲痛な姿。ここはまさに人の暗黒を描くために、ルーカスが子供も観るはずの家族ムービーにノワールを持ち込んだシーン。ジャージャーがほとんど出て来ないこの映画は、このノワールシーンに象徴されるようにシリーズ屈指の残酷映画となっている。

 共和国から最高議長の独走(非常事態での独断を議会が許したことから来る)により、生まれる帝国軍。独立星系連合軍と帝国軍の関係がどうなるのかと観ていたのだけれど、この持って行き方は、帝国の非道さを提示していて面白いと思う。クローン側が帝国軍になる流れはここで繋がっているのだと。

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◆ep.1-3の感想
 通して感じたのは、日本の武士の志とジェダイの違い。特にここではルーカスが偏愛する黒澤明の描いた武士との比較を簡単にしてみたい。

 ジェダイにはマスターとパダワンという師弟関係の厳格な定義。評議会という組織による統治。こうした体制と言葉によるルールで縛っているようにみえるジェダイと、黒澤の描く武士は大きく異なる。
 僕が特に好きな黒澤の描く武士は『用心棒』の桑畑三十郎と『七人の侍』の勘兵衛、久蔵に代表される浪人/野武士である。
 彼らが持つ武士の矜持と鍛え上げた剣術の凄みが、きっとルーカスが惚れた日本の武士ではないか、と思う。彼らの武士道は、言葉によらない、自らのうちから言葉に表さずに滲み出るまさに矜持と言っていい、姿勢である。日本人の語らない美徳ということもあるかもしれない。

 それに対して、ジェダイは外から言葉で定義される規律に基づいて行動している。常にマスターの言葉で規制され、何があるべき道かを自身で考えているように見えない部分がある。これは日本と西洋の考え方の違いかもしれない。
 レディファーストやノブレス・オブリージュ(「高貴さは(義務を)強制する」)は人の内から自律して出てくるというより、まさに義務として社会的に定義されている度合いが強く感じられる。これはジェダイ道(?)にも通ずるところだと思うがどうだろう。欧米のこのあたりの感覚は、もともと人が自律的にはそうすることができない生き物で社会としての規律で縛る必要がある、という考えが根底にあるような気がする。

 それに対して、桑畑三十郎と勘兵衛で黒澤が表現しているのは、まさに自身の判断で内側から人の善性として滲み出る武士道である。この黙して語らず行動する、日本の良質な時代劇の血がジェダイにもっと流れていたら、映画の感動はより深いものになっていたのではないかと思う。

 ここでも黒澤の武士に近いのはP・ジャクソンが描いた『ロード・オブ・ザ・リング』と『ホビット』の剣士たちである。ルーカスも『スターウォーズ』でトールキンから影響を受けている、とされているのだけれど、ジェダイを黒澤とトールキンの正当な嫡子として描いていたら、、、と想像しないでいられない。
 この剣士達の姿は、もしかしたら北欧の神話からの影響かもしれないが、それらを未読の僕はこれ以上語れません。
 欧州の騎士道と武士道の違い、北欧の神話における剣士達、これらの分析から各地域の人々の特性分析を試みた文化人類学書があったら読んでみたいものです。 

 、、、、ということでお祭りに盛り上がるつもりが、つい今まで『スターウォーズ』に違和感を持っていた部分を再度強く認識するような結果に、まずは終わってしまった。さあ、来週はep.4-6で盛り上がるぞっと(^^)。

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2015.12.07

■動画  岩井俊二監督 YEN TOWN BAND「アイノネ」MUSIC VIDEO


YEN TOWN BAND「アイノネ」MUSIC VIDEO (監督:岩井俊二) - YouTube

" 1996年公開の映画「スワロウテイル」から誕生したバンドYEN TOWN BANDが「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」 以来、約20年ぶりとなるシングル「アイノネ」をリリース。
 映画「スワロウテイル」の20年後を表した今作のミュージックビデオは、映画と同じく岩井俊二が監督を務める約2800枚の原画を使用した全編アニメーション作品。"

Facebook - Iwai shunji film festival

"「こういう形で自分の作品と再会するとは思わなかったが、アニメーションで動くスワロウテイルのヴィジョンは当時からあったので、ささやかな夢が叶った。」岩井俊二 岩井俊二監督によるYEN TOWN BANDの新曲「アイノネ」のミュージッククリップは「スワロウテイル」のセルフリメイク版!『花とアリス殺人事件』チームによるアニメーションで復活した名シーンの数々は圧巻の一言です!"

 何と20年ぶりに復活したYEN TOWN BANDのMVが、あの岩井俊二の傑作『スワロウテイル』の代表的なシーンのアニメーションによるリメイクとなっている。そのテクニックは『花とアリス殺人事件』で用いられた技術。
 これは『スワロウテイル』ファンとしては必見です。

◆関連リンク
・当Blog記事
 感想 岩井俊二監督『花とアリス殺人事件』
 感想 岩井俊二監督『ヴァンパイア』Vampire
 感想 岩井俊二監督の小説『番犬は庭を守る』
 感想 長澤雅彦監督『なぞの転校生』岩井俊二 企画

 

 

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2015.12.02

■情報 ヴィム・ヴェンダース監督 新作3D映画『Every Thing Will Be Fine』


Every Thing Will Be Fine - Official Trailer I HD I IFC Films - YouTube

ヴィム・ヴェンダース監督の新作3D映画『Every Thing Will Be Fine』最新予告解禁!心理描写を3Dで表現していくという実験。 - シネフィル - 映画好きによる映画好きのためのWebマガジン

"「「3Dは、2Dの映画とはまったく異なる方法で物語を描くことが可能です。この作品において、私は撮影、編集、役者の見え方の全てにおいてこれまでと違う 方法をとりました。クリエイターも、観客も、この映画を通じてそれまでとは違う体験をします。そう考えると、従来のドラマ映画も、まったく新しいものにな ると思いませんか?それを証明するために、この映画を撮りました。もし、映画製作において新しい発見ができなくなったら、それは私が監督業をやめる時です」"

 ヴィム・ヴェンダースが撮る初の3D映画。この監督の立体映画に立ち向かう上に引用した言葉がいいです。
 我々が3Dハンディカムで日常を撮る時、被写体に凄く近くまで接近すると、再生される臨場感は、まさに人の眼前に現実を再生する。
 ヴェンダースがその臨場感をどう映画に活かしたのか、凄く気になります。

Wenders

News - SCREEN PLANE GmbH

"New Wim Wenders feature film wraps in Canada Screen Plane provided the stereoscopic equipment on the new Wim Wenders feature "Every thing will be fine" which was shot in Canada in summer 2013 and winter 2014... The project was filmed on a Production Rig and a Steady-Flex rig, equipped with Alexa XT and Alexa M and a 3D set of Leica Summilux-C lenses. Additional scenes were shot with a pair of Angenieux Optimo DP 16-42mm zooms. "

 3D装置を提供したScreen Planeのページに、撮影機材についての詳細がありました。Alexaのカメラとライカレンズを使った3Dカメラを用いた様です。
 ハリウッドでは2D-3D変換が主流の昨今ですが、欧州勢は3D撮影へのこだわりもあるようです。

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