■感想 ピート・ドクター監督『インサイド・ヘッド』"Inside Out"
Inside Out - Official US Trailer 2 - YouTube.
ピート・ドクター監督『インサイド・ヘッド』ブルーレイ初見。脳内のヘッドクォーターに住む5つの感情による、CGアニメーションの特質を最大限活かしたキャラクターの表情豊かな描写が素晴らしい。
コア・メモリーから構成された"島"の設定に代表される脳内の構造、夢の製造工場、抽象ゾーン、イマジネーションランド、潜在意識といった魅力的な設定が面白い。ただ上映時間は90分と短いため少し食い足りない。こうした設定を活かして、例えば抽象概念が暴れるとか空想癖のあるキャラの脳内暴走とか、もうひとひねりして全体で2時間くらいあっても良かったのではないか。
★★★★★★★★以下、ネタバレあり。ご注意! ★★★★★★★★
公式予告篇映像にも出てくるビンボンという空想上の友達キャラの活躍が何か嬉しい。僕は幼児期にこうした空想の友達は持っていなかったけれど、それが実在した人に感想を聞いてみたい。その頃の自身の記憶を深層意識から掘り起こされて、たまらない想いを抱かせられたのではないだろうか(^^)。
世界で大ヒットしたそうだけれど、この映画はまだまだ色んな広がりのある可能性が埋もれた素材のような気がする。例えば主人公の恋愛だとか、大人になった後の仕事のプロジェクト遂行時の感情だとか、、、、主人公を変えた物語も面白いかもしれない。僕は本作の抽象概念の描写に顕著なように、心の中の幻想的な映像描写を突き進めて、トンデモない幻想物語も観てみたい。
これだけの大ヒットなのだから、枝篇として30分くらいで、ピクサーによるエッジの効いたアートアニメーションをトライしてもらいたいものだw。
-----------------------------------------------
あと専門家の知見を入れたという脳内の構造的な置き方はかなり面白いのだけれど、欲を言うと、さらに最先端の意識論みたいなものも踏まえていたら、最新SFの文脈で議論されるような映画になったかもしれない。そこのところは本映画が絶賛されている世間の認識に違和感を覚えるところ。
記憶のセグメントを球で表したり、人格を島に例えるとかとても面白いのだけれど、煎じつめてしまうと、5つの感情たちはよく昔からある映画のキャラクターの周りに飛ぶ悪魔と天使の図式の延長上である。
僕は意識と無意識領域の最新の知見は、無意識領域から意識領域へ情報が受け渡される部分と、意識の側の言語的な組み立てがキーになって(端的に書くと言語が意識そのものというような荒っぽい認識w)、意識側からの無意識への影響がポイントだと思っている。つまりその二つの領域の往還から、人の総体みたいなものが見えてくると思う。
その観点から言うとこの映画はつまらない。
なぜなら、意識サイド(つまり主役の女の子ライリー)から5つの感情に対して、逆に影響が及ぼされるような描写や、その両者間での複雑なやりとりというものが何も描かれていないから。
さきほど古来アニメーション等で頭上に飛ぶ「悪魔と天使」の図式から出ていない、と書いたけれど、実はこの両者間でのやりとりという観点からは、「悪魔と天使」コンセプトよりもこの映画は退化しているのだ。
ほとんど一方的に5つの感情の操作によりヘッドクォーターからの指示に従うだけのライリーは、まるで操り人形のようである。
本来、人間は内側の感情に対して、意識という自我が言語によってその主体性をコントロールするような側面がかなりあるのだけれど、それが何一つ表現されていないのがこの映画の弱点である、と思う。
もしそうした部分まで描かれていたら、映画はもっとダイナミックなものになっていただろうし、神林長平や伊藤計劃以後の意識テーマSFと同じように大変スリリングになったと思うので残念である。(、、、そこまでやってしまうとピクサーのファミリー枠を大幅に逸脱する危険性は高いんだけれど、、(^^;))
-------------------------------------------
同時上映でブルーレイに同梱された「南の島のラブソング」。何と海底火山の恋というトンデモないバカSFチックな素材。これも堪能させていただきました。
| 固定リンク
コメント