■感想 原恵一監督『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』(さるすべり ミス北斎)
映画『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』予告編 - YouTube.
杉浦日向子の代表作の一つ「百日紅」を、原恵一監督がアニメ映画化した群像劇。江戸の浮世絵師として数多くの作品を発表し、世界中のさまざまな分野に多大な影響をもたらした葛飾北斎と、その制作をサポートし続けた娘・お栄(後の葛飾応為)を取り巻く人間模様を、江戸情緒たっぷりに描く。アニメーション制作は、『攻殻機動隊』『東のエデン』シリーズなどのProduction I.Gが担当する。
原恵一監督『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』DVD初見。
この映画、アーティストを描くことにより、映像芸術論としても大変秀でている素晴らしい傑作になっていますね。原作も読んでいないので、まさかこのような映画だとは思いもしませんでした(基本、映画は前情報をほとんど入れないようにしているので、と言い訳;;)。
映画館に観に行かなかった自分の不明を恥じるばかりだけど、映画のキービジュアルは見ていたが、前作『はじまりのみち』の印象も手伝って、江戸の庶民の生活を地に足のついた描写で描いている作品なのかな、くらいに思っていた。
ところがどっこい(^^;;)、これは江戸時代の人々の、記憶と幻想の視覚装置であった絵師の浮世絵と、人々の脳内映像を巡る物語である。現在、写真や映画や漫画やテレビが、人類に対して果たしている役割を浮世絵が担っていた時代の、人々の心的映像を見事に活写したアニメーションである。
龍や鬼の絵、春画、風景画。この映画で描かれた江戸の町人の心的光景は、現在の最先端のテクノロジーにより制作されている映像文化よりも、心の映像としては深いものがあるのではないか。
それは浮世絵が少ない色と線により表現されていることで、人の想像力に委ねていることによるのかもしれない。そしてその手前に広大に広がっているのは、科学や西欧文明によって理知的になってしまう以前の、江戸の人々が持っていた豊かな世界認識である(ヒトはそれを”未開”と呼ぶかもしれないが...)。それらが情報量の少ない絵によって、見事に広大に圧縮解凍する様が、この映画のいろいろなシーンで炸裂する。
映画はそれだけでなく、盲目の少女 お猶が音と触覚によって、心的に見ている江戸の映像を観客に想起させることで、観客に視覚障害者の”映像"だけでなく、さらに江戸の人々の心に写っていた光景も想起させることに成功している。
そうした奇跡的な瞬間を描くために、原監督の緻密な演出と、丹念に作り込まれたアニメーションが見事なアンサンブルを奏でている。
また活き活きとした、過去を蘇らせるというよりも、まさに現在進行形として江戸を描くのに、富貴晴美と辻陽によるロック/ジャズの音楽と椎名林檎の曲「最果てが見たい」が最大限の効果を演出している。
監督とスタッフ(特に作画監督/キャラクターデザインの板津匡覧氏他作画陣)の見事な手腕にとにかく感嘆して観終えました。
原作も、是非手に取ってみなければ、、、。
最後に蛇足ですが、この映画、江戸物ということで下町、吉原、花魁等々、落語の世界とも通ずる部分があり、その雰囲気も湛えています。
そうした時に少し物足りなかったのが、映画の演出としてのテンポ。
落語のような場面展開のスピーディさのようなものが取り入れられていたら、新しい江戸的な映画になったのではないか。談志師匠の落語の定義「落語は江戸の風が吹くものを言うんだ」という言葉通り、その映像にさらに江戸の風が吹いていたのではないかと想像せずにいられない(^^)。
◆関連リンク
・百日紅 ~Miss HOKUSAI~(公式FB)
・葛飾応為 (wiki) のちのお栄の画号。
"北斎の門人・露木為一による『北斎仮宅写生図』に、北斎と応為の肖像が描かれている。
現存する作品は10点前後と非常に少ない。西洋画法への関心が強く、誇張した明暗法と細密描写に優れた肉筆画が残る。"
実際は北斎に「アゴ」と呼ばれるような四角いアゴの持ち主だったようです。リンク先の『北斎仮宅写生図』参照。
・お栄の作品
月下砧打ち美人図 - 東京国立博物館
Three Women Playing Musical Instruments | Museum of Fine Arts, Boston (三曲合奏図)
葛飾応為《吉原格子先の図》
その他の作品については、こちらのブログに詳しく描かれています。
→ 2015年05月15日 : Art & Bell by Tora
・原恵一監督『百日紅~Miss HOKUSAI~ (特装限定版) [Blu-ray] 』
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