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2016年2月

2016.02.29

■感想 筒井康隆『モナドの領域』

筒井康隆『モナドの領域』 新潮社

" 河川敷で発見された片腕はバラバラ事件の発端と思われた。美貌の警部、不穏なベーカリー、老教授の奇矯な振舞い、 錯綜する捜査……。だが、事件はあらゆる予見を越え、やがてGODが人類と世界の秘密を語り始める――。
 巨匠が小説的技倆と哲学的思索の全てを注ぎ込んだ 超弩級小説。"

 筒井康隆『モナドの領域』読了。
 冒頭のミステリ的な謎からグイグイと読者を引っ張り、そして偏在するGODの深淵を描きだした巨匠円熟の作品。
 特に前半、謎の提示とGODの登場、そして法廷で裁かれる"神"の犯罪とそこで証明されるGODの実在。なんともスリリングな物語に手に汗握りながら一気に読ませる。法廷シーンは特に白眉で背筋にゾクゾクする興奮が走る。
 クライマックスの舞台は、筒井得意のマスコミなのだけれど、いまひとつ趣向が炸裂しなかったように思えるのは僕だけか。世界が見つめるその瞬間がどう世界に波及しているのか、そうした部分も描きだしていたら、壮大な物語になったのに、と少し残念な気持ちに。
 とはいえ、それをやらずに、一点集中して描かれる古今東西の神論とメタフィクションのカタルシスは素晴らしい。

 とにかくそこに実在するGODが語る様を描き出す筒井康隆の奇想は、ファンならずともSFの神テーマを好きな読者には必読でしょう。

 この作品、とりたてて特撮や大きな舞台装置を用いずに壮大でスリリングなSF世界を描くのに適した原作なので、映画化や舞台化されてもすごい作品ができるかも。そんな期待にもワクワクします。
 最後に表紙絵は、筒井氏の御子息の画家 筒井伸輔氏によるもの。偏在するGODを表現した絵として、とても似合う表紙です。

◆関連リンク
巨匠・筒井康隆が最後の長編小説『モナドの領域』を語る 「究極のテーマ『神』について書いたので、これ以上書くことはない」  | 日本一の書評 | 現代ビジネス [講談社].

"―それにしても、帯に「おそらくは最後の長篇」とあるのが気になります。

僕にとって最終的なテーマであり、おそらく文芸にとっても最終的なテーマである神について書いたので、もうこれ以上書くことはないんです。

まあ、ここからは冗談ですが、たとえばこれで文芸賞をとったら、主催社の雑誌に何か書かなくちゃいけない。しょうがないから「カーテンコール」というタイトルで、私の小説の主人公が次々と出てくる話を書きます。

それでもまだ注文をよこすようだったら「プレイバック」というタイトルで私の小説のあちこちの文章をぐちゃぐちゃに繋げたものを書きます。そうしたらさすがに編集者も呆れて、注文がこなくなるでしょう(笑)。"

 この小説の成り立ちの偶然性について、作者ご本人が語られています。大変に興味深いです。
 もちろん僕は「最後の長篇」にならないことを願っております。
筒井康隆最後の長篇か? 噂の「モナドの領域」最速レビュー

"〈このふらふらしておる眼だがね、これはわしの遍在に驚いてこの結野君のからだが反応しておるだけだ〉。

〈神というのはお前さんたちが勝手に作って勝手に想像しているだけだからね。実際にはお前さんたちの想像している神とはだいぶ違うよ〉"

モナド - Wikipedia

  • モナド (哲学) - ライプニッツが著書『モナドロジー』(『単子論』とも)において提唱した哲学上の概念。
  • モナド (超準解析) - 数学の超準解析において、ある与えられた超実数に対して無限に近い全ての超実数の集合。
  • モナド (プログラミング) - プログラミング言語の意味付けにおける完備な意味領域をモジュール性を持たせた形で分割するための枠組み。

ライプニッツ『モナドロジー・形而上学叙説』 (中公クラシックス)
 電子書籍もありますね。

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2016.02.24

■情報 ティプトリー『あまたの星、宝冠のごとく』、コーニイ『ブロントメク!』、コードウェイナー・スミス『スキャナーに生きがいはない』、スラデック『ロデリック:(または若き機械の教育)』、「SFマガジン16.4月号」

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア, 影山 徹, 伊藤 典夫, 小野田 和子訳『あまたの星、宝冠のごとく』 ハヤカワ・オンライン

"地球からの異星調査隊が不思議な共生生物と出会い深い関係を結ぶ「いっしょに生きよう」、神の死の報を受け弔問に来た悪魔の考えた天国再活性化計画が意外な 展開を見せる「悪魔、天国へ行く」、55年後の自分と2週間だけ入れ替わった男女が、驚愕の未来に当惑する「もどれ、過去へもどれ」など、その生涯にわ たってSF界を驚かせ強い影響を与え続けて来た著者による、中期から晩年にかけて執筆された円熟の10篇を収録。"

 ハヤカワ文庫版の表紙に英語タイトルが書かれていることから、1987年に亡くなったティプトリーの、死後 88年に出版された"Crown of Stars" Wiki の訳出ということでしょうか。リンク先のwikiによると、10篇の収録。85年から88年に発表された作品のようです(1作は70年の発表作)。ひさびさの新刊で楽しみです。

マイクル・コーニイ, 大森 望訳『ブロントメク!』 河出書房新社

"河出文庫 文庫 ● 432ページ
発売日:2016.03.08(予定)

宇宙を股にかける営利団体ヘザリントン機構に実権を握られた惑星アルカディア。地球で挫折した男はその惑星で機構の美女と出会い、運命が変わり始める……英国SF協会賞受賞の名作が大森望新訳で甦る。"

 『ブロントメク!』は大森 望の新訳で再刊。サンリオ版は1980年なので、何と35年ぶり。SF映像ファンも必読の傑作"恋愛"SFですので、お楽しみに(^^)!

コードウェイナー・スミス, 伊藤典夫, 浅倉久志訳『スキャナーに生きがいはない (人類補完機構全短篇1) 』
スキャナーに生きがいはない──人類補完機構全短篇1 | 種類,ハヤカワ文庫SF | ハヤカワ・オンライン.

"刊行日: 2016/03/09
コードウェイナー・スミス 訳 伊藤 典夫 訳 浅倉 久志
 SF史上最も有名な未来史の全ての短篇を集成 伝説の作家の未来史作品を年代順に収録する短篇全集第1巻。
本邦初訳2篇を含む全15篇を収録。
〈続巻〉2. アルファ・ラルファ大通り/3/ 三惑星の探求"

 コードウェイナー・スミスもひさびさの新刊。初訳は2篇ということで、他は読んだことのあるものかもしれないが、またあの世界に触れられると思うと嬉しい。

ジョン・スラデック, 柳下 毅一郎訳『ロデリック:(または若き機械の教育)』

"捨てられてしまった幼いロボット「ロデリック」の冒険を描く、スラップスティックなコミック・ノベル! 20世紀最後の天才作家スラデックが遺した、究極のロボットSFがついに邦訳。"

 2/26にはスラディックも新刊! この時ならぬ、SFラッシュは何なのでしょう(^^)。

『SFマガジン 2016年 04 月号』
S-Fマガジン2016年4月号 | 種類,雑誌,SFマガジン | ハヤカワ・オンライン.

"デヴィッド・ボウイ追悼特集 変わり続けた男の物語
2016年1月10日に69歳で亡くなった、デヴィッド・ボウイ。 音楽とSFを融合させたロックスターの追悼企画として、ニール・ゲイマンによる トリビュート短篇の本邦初訳のほか、評論・エッセイ・ガイドを掲載。 その生涯を通じて自らのスタイルを変え続けた男の軌跡に迫る。

【トリビュート短篇】
「やせっぽちの真白き公爵(シン・ホワイト・デユーク)の帰還」ニール・ゲイマン/小川 隆訳

【エッセイ・評論】
「屈折する星屑の上昇と下降、そして宇宙に帰るまで」丸屋九兵衛
「仄暗い宇宙のロックスター」難波弘之 
「永劫の旅人ジギー」巽 孝之
「新たなる音楽遺伝子の誕生――『★』解題」吉田隆一

デヴィッド・ボウイSF作品ガイド
デヴィッド・ボウイ オリジナル・アルバム・リスト
―――――
〈新連載〉
「幻視百景」酉島伝法"

 SFとの親和性は、確かに強いですが、それにしても追悼特集には吃驚しました。
 トリビュート短篇としてニール・ゲイマンの「シン・ホワイト・デュークの帰還」が掲載されているのですね。ボウイのSFといえば、『地球に落ちてきた男』も傑作でしたね。
 またこの号から、酉島伝法氏「幻視百景」の連載も始まるのですね。これは読みたい!

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■情報  ナカコナイトSPECIAL「スター・ウォーズ伝説 古澤利夫ハリウッド夜話」


ナカコナイトSPECIAL「スターウォーズ伝説 古澤利夫ハリウッド夜話」告知 - YouTube
「スター・ウォーズ伝説 古澤利夫ハリウッド夜話」|e+(イープラス)

"3月10日(木)ナカコナイトSPECIAL
「スター・ウォーズ伝説 古澤利夫ハリウッド夜話」
新宿ロフトプラスワン

OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥2000 / 当日¥2300(要1オーダー500円以上)

【出演】
古澤利夫
中子真治
神武団四郎 他

「スター・ウォーズ」6作品のPRを仕掛けた伝説の宣伝マン古澤利夫と
SFXジャーナリスト中子真治、奇蹟のコラボトークが実現!
 ここでしか明かせないエピソード満載で贈る「スター・ウォーズ」とその時代の内幕!"

  2012年と13年に開催されている中子真治氏出演のイベント第三弾「スター・ウォーズ伝説 古澤利夫ハリウッド夜話」が3月に開催される。
 今回は上述の通り、映画宣伝マン古澤利夫氏との語り。
 中子真治氏ファン、『スター・ウォーズ』ファンは是非。

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◆関連リンク
ナカコナイト2開催決定!&中子本出版!!!!!|シュウさんのブログ
古澤 利夫『明日に向って撃て!―ハリウッドが認めた!ぼくは日本一の洋画宣伝マン』 (文春文庫)
古澤利夫氏著書【明日に向かって撃て】出版を祝う会|銀座由美ママの心意気

・当Blog関連記事 情報 映画秘宝Presents 中子真治トークショー「NAKAKO NIGHT:ナカコ・ナイト」

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2016.02.17

■情報 マンタム アーカイブ展 : Mantam Archive Exhibition

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マンタム アーカイブ展

"マンタムのこれまでの作品をA STORY TOKYO新宿新南口、東口の2会場で展示致します。 アーカイブ展に合わせて、マンタム初の作品本をA STORYで制作、販売予定です。

過去作品の復刻作品も展示される予定です。

2月19日(金)〜3月23日(水)"

【#マンタム アーカイブ展】 2月19日(金)〜... - A STORY TOKYO 新宿新南口店

"【‪#‎マンタム‬ アーカイブ展】 2月19日(金)〜 圧倒的な存在感で迫る作品の数々をどうぞご覧ください。 マンタム初の作品本や過去作品の復刻も予定しています。 イベントページ→https://www.facebook.com/events/183312812032476/ "

【 Mantam Archive Exhibition 】 マンタム... - A STORY TOKYO 新宿新南口店.

"【 Mantam Archive Exhibition 】 マンタム アーカイブ展 オープニングパーティー 2/19(金)18時~ 会場:新宿新南口店 参加費:500円 どなたでも参加して頂けます。 マンタムの作品に囲まれながら 作家との対話をゆっくりとお楽しみにいただけます。 ぜひご来場くださいませ。"

 以上、A STORYさんのFacebookページから引用させて頂きました。

 神田不忍池の古物商であるとともに、数々のオブジェと小説で幻想芸術を極めるアーティストであるマンタムさんの初のアーカイブ展が東京で開催される。

 合わせて作品集が発売されるということで、マンタムファンの当Blogとしては楽しみで仕方がない。とても興味深いオープニングパーティ、是非とも参加させて頂きたいのだけれど、残念ながら東海の地から金曜週末の参加は厳しい。

 こちらでファンの方への多少の拡散を計らせていただくとともに、展示会の盛況を祈るものです。

◆関連リンク
マンタムさん関連 当Blog記事 Google 検索

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2016.02.15

■感想 筒井康隆『聖痕』

筒井 康隆『聖痕』(新潮文庫)

"五歳の葉月貴夫はその美貌ゆえ暴漢に襲われ、性器を切断された。性欲に支配される芸術に興味を持てなくなった彼は、若いころから美食を追い求めることになる。やがて自分が理想とするレストランを作るが、美女のスタッフが集まった店は「背徳の館」と化していく…。巨匠・筒井康隆が古今の日本語の贅を尽くして現代を描き未来を予言する、文明批評小説にして数奇極まる「聖人伝」。"

 遅まきながら2013年に刊行された筒井康隆『聖痕』読了。
 衝撃的な冒頭から引き込まれ、主人公とその家族の三十数年に渡る年代記をいっきに読み終えた。素晴らしく魅力的な小説である。

 思えば筒井の小説は、人の愚行をこれでもかとデフォルメして描くものと、『美藝公』のように静謐な魂が宿っている人物を描くものが両極端で存在している。
 本作は、『美藝公』を思い出すような清廉な主人公と、それをとりまく愚行含めて極めて人間臭い登場人物たちの物語である。特に主人公に代表される知的で冷静な人間の静謐な描写は筒井康隆の独壇場で、このここちいい生活描写は『美藝公』に勝るとも劣らない素晴らしい小説となっている。

 ある家族とその周囲の人々を描いただけなのだけれど、これは全体が人類のカリカチュアになっている。そして本書の最後に語られる一つの終焉の言葉。

 フロイト的な人類解釈をベースにしたこの物語のラストで語られるこの部分が、魅力的な物語全体と共鳴して、大きなパースペクティブを提示して終わる。

 主人公一族 葉月家の年代記として描かれるとともに、日本語の歴史を俯瞰するような、古語の描写が人類のある意味歴史を回想しているような筆致になっていて、物語は普通小説なのだけれど、極めて高度に人類と文明を俯瞰したものになっている。様々に混合される人称も、ある意味、神がいろんな人物にアクセスしてその内面を描くとともに、三人称描写をしているような雰囲気が漂う。

 あまり世間ではSFとみなされないのだろうけれど、この人類の俯瞰と滅亡の予感を描く部分が、本書をSFたらしめているところではないだろうか。まさに今なお進化する巨匠の最新の成果のひとつである。


続きを読む "■感想 筒井康隆『聖痕』"

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2016.02.10

■情報 リドリー・スコット監督『オデッセイ』THE MARTIAN の2D-3D変換担当のプライム・フォーカス:Prime Focus


Journey of Prime Focus - YouTube.

"Introduction to the journey of Prime Focus, the world’s largest integrated media services powerhouse employing over 5,500 professionals in 16 cities across 4 continents and 7 time zones. Catch a quick glimpse of the journey."

 先日のリドリー・スコット監督『オデッセイ』において、迫力の火星3Dを制作したプライム・フォーカス社について、関連動画を紹介する。
 2D-3D変換は人海戦術でやられているだけに、このスタジオ、上の動画にあるけれど、世界4ヶ国の16都市で5500人のスタッフが、7つのタイムゾーンで働いているという。つまりこの人海戦術、世界で仕事を進めることで地球が一回りする際に24時間不眠不休の作業が進められているわけだ。
 映画の最終工程に近いところの仕事だけに、たいへんな現場が想像できる。


Blackmagic Design: Fusion 作品

"これまでに映画やテレビを観たことがあるのであれば、貴方はすでにFusionの映像を観ているのです!それは、過去25年間近くにわたって、ハリウッドの 数々の大ヒット映画やテレビ番組において、Fusionのビジュアルエフェクトやモーショングラフィックが使用されているからです。Fusionの持つ最 先端の3D作業空間、膨大なツールセット、驚異的なスピードは、長年にわたって何千ものプロジェクトに使用されているのです!

Prime Focus Worldのシニア・ステレオ・スーパーバイザー、リチャード・ベイカー氏が、リドリー・スコット監督の宇宙探査叙事詩、「オデッセイ」でのFusion Studioの使用について語る。

Fusion 8 Beta
  2D/3D合成およびモーショングラフィック用の包括的ソフトウェア。ペイント、ロトスコープ、タイトル作成、アニメーション、Primatteを含むマルチキーヤー、優れた3Dパーティクルシステム、高度なキーフレーミング、GPUアクセラレーション、他の アプリケーションからの3Dモデル/シーンの読み込みおよびレンダリングなどに対応した多彩なツールセットを搭載しています。

Fusion 8 Studio Beta
Fusion 8のすべての機能に加えて、ステレオスコピック3D、リタイム、スタビライゼーション用の高度なオプティカルフロー画像解析ツールを搭載しています。また Fusion Studioは、サードパーティのOpenFXプラグイン、無制限の分配ネットワーク・レンダリングにも対応しており、さらに大人数のクリエイティブチー ムで複雑なプロジェクトを手がけている場合でも、複数のユーザーがショットのトラッキング、管理、確認および承認が可能な、Generationソフト ウェアを同梱しています。
¥
1 2 1 , 8 0 0

 そしてこちらのリンク先は、その3D作業の現場で使われているというソフトウェア Fusionを紹介する、プライム・フォーカスのスーパーバイザー リチャード・ベーイカー氏の動画。一部、『オデッセイ』の3D作業も捉えられていて興味深い。

◆関連リンク
THE MARTIAN — Prime Focus World(プライム・フォーカス・ワールド公式)
Stereo Supervisor Blog Richard Baker Stereo Supervisor

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2016.02.08

■感想 リドリー・スコット監督『オデッセイ』: The Martian


The Martian: Behind the Scenes - YouTube

 リドリー・スコット監督期待の新作、『オデッセイ』をRealD方式の3Dで観てきた。(今回は名古屋では字幕版しかなかったIMAXと迷って、結局吹き替えを選んだ)

 噂に違わぬ、火星SFの秀作。まさに『グラビティ』火星版、というか『月は地獄だ』火星版というか。宇宙でのサバイバルを描いた映画の中では、まさに秀作と言える作品であると思う。

 陽性でどこまでも危機に対してポジティブに取り組む主人公の物語、そしてそれを描き上げるCGと特撮、そして3D変換技術、どれも完成度が高く、全篇引き込まれて観た。実は不勉強で原作を読んでいないのだけれど、あくまでも科学的に描いたサバイバルに絡む技術の描写が、SF的な興奮を生みだしていた。

オデッセイ (映画) - Wikipedia

2011年に『火星の人』が出版された後、間違いがあることが判明した。作中では火星での砂嵐によって船が深刻なダメージを受けたことになっている。確か に現実の火星では風速が時速190キロメートルにもなる。しかし、火星の大気圧は非常に低いので、船に深刻なダメージを与えるほどの風を発生させることは できないのである[44]。この間違いは映画においても訂正されなかった。

 一部、科学的におかしい描写もあるようだけれど、それも映画としての迫力を生み出すための、わかった上での演出もあったようだ。
 僕が思ったのは、MAV(Mars Ascent Vehicle)の飛行シーン。
 ノーズコーンを外した宇宙船の風圧の描写が、上と同じように科学的にはリアルでないような気がした。「火星」wiki等によると、火星の大気圧は0.7-0.9 kPaで地球の101kPaに対して約0.8%。地球の大気圧の1/125ということになる。12Gの加速という描写があるので、1/125×12=約1/10。地球上の1/10でロケットにかかる風圧としてあの描写はなんか違う気がする(^^)。

 リドリー・スコットの映画として、僕は多くの同年代のファンと同じように、『ブレード・ランナー』とか『エイリアン』といった初期作品が好きなのだけれど、その後の作品では『ブラックホークダウン』は格別に迫力があり、好みである。
 今回の作品は、SFやアメリカ宇宙開発の陽性な面を描いている映画だけれど、あの『ブラックホークダウン』のような迫力のある物語と映像が積み上げられていたらどんな傑作になっていたかと思わずにはいられないw。
 描く方向は180度近く異なるのだけれど、『ブラックホークダウン』のリアリティが獲得されていたら、ポジティブな宇宙開発の映画としても、さらにクールなものになっていたのではないだろうか。(面白くなかったわけでなく、スコット監督なのでさらに上を期待してしまう、ということである)
 主人公のポジティブさの表現があることで、一部、もともと生き残るんでしょw、という予定調和的な面が感じられ、一面宇宙の非情な冷たさももっと描けてたらな、と思うわけです。

 最後に先日亡くなったデイヴィッド・ボウイ「Starman」、素晴らしかった。
 あらためて黙祷です。

◆関連リンク
David Bowie- Starman - YouTube

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2016.02.03

■動画 ズジスワフ・ベクシンスキー 絵画制作過程 Zdzisław Beksiński


Video Diary of Zdzisław Beksiński - YouTube

 ズジスワフ・ベクシンスキーの絵画制作過程を写した動画。
 ベクシンスキー自身がホームムービーとして撮影したもの。約30分に渡る動画で、6-7点の作品のスケッチから完成までを映し出している。
 ベクシンスキーの解説の言葉も収録されており、作品の秘密の一端を知れる。

 スケッチの線画が、1日でキャンバスいっぱいのラフに塗った絵になり、毎日少しづつ変化していく様子がベクシンスキーによって解説される。
 作品は動画のタイトル通り、1987年の初夏から秋にかけて描かれたもの。
 ベクシンスキーの絵の中で有名なものは残念ながらここには含まれていない。
 淡い白系の色で塗られたものが、ディテイルを書き換え書き換えしながら、コントラストをはっきりしてフィニッシュに向けて描かれていく。特に最終の塗りの手前まではほとんど色が付けられていないように見える。最後に色が付けられているように見えるが、これはこの時期の絵が淡い色でまとめられているからなのだろうか。
 もっと色彩豊かなものもベクシンスキー作品にはあるわけで、そうしたもののメイキングも是非見たい。

 もしやと思い、ベクシンスキー研究家/紹介者/蒐集家であるAnna and Piotr Dmochowski夫妻のヴァーチャル・ギャラリーをひさびさに覗くと、なんと75本もの関連動画が公開されていた。こちらもベクシンスキー研究には欠かせない貴重な記録になっているのではないだろうか。
 色彩の明確な絵の動画がないか、ボチボチ見てまた後日報告します。

◆関連リンク
■ズジスワフ・ベクシンスキー関連映像ライブラリDmochowskiGallery.net - film library
 2009年にはこのギャラリーの動画は9本でした。
 こちらのリンク先は、その各動画を解説した究極映像研の過去記事です。

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2016.02.01

■情報 イスタンブールの写真家 Aydin Büyüktaş 歪んだ空間「フラットランド」

Inceptionistanbulsurrealcitylandsca

まるで「インセプション」!?歪んだ空間を作り出すフォトグラファー – EDITRIP.

"イスタンブールのフォトグラファーAydin Büyüktaşである。彼は次元や視点の概念を探りながら、2015年から「フラットランド」シリーズを制作している。なお、撮影はドローンを使用し、それをデジタル3Dソフトウェアで編集しているとのこと。"

 上の小さい写真ではうまく伝わらないかもしれないが、クリックして拡大してみるとその異様な世界にきっと驚かれると思う。天地がめくれ上がったような、まさに『インセプション』のような世界。人によっては『機動戦士ガンダム』のスペースコロニーを想起する方もいるのではないか。

 撮影方法は、上のリンク先記事で少し触れられているように、ドローンで撮った高精細の空中写真を、3Dの湾曲したCG空間に貼り付けて作成されているようだ。
 この手法で日本の街も仰天動地の映像に変換してもらいたいものです。

◆関連リンク
Aydın Büyüktaş 公式HP。
 GRAVITY (2014) ‹ Aydın Büyüktaş
  重力と名付けられた、垂直感覚が歪む写真。
 PARALLEL UNIVERSES (2014) ‹ Aydın Büyüktaş
  こちらも奇妙な感覚を持つ写真。
エドウィン・アボット・アボット『フラットランド』
 写真家はこの本からインスピーションを得たとのことです。

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