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2016.10.01

■レポート クリスピン・グローヴァーかく語りき@カナザワ映画祭2016 ”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”上映後トークショー


VICE interview with Crispin Glover - YouTube
(注. このインタビューはカナザワ映画祭とは関係ありません)

”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”上映後 Q&Aとトークショウ
 カナザワ映画祭2016 9/24(土) ”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”上映の後の、クリスピン・グローヴァートークショーについてレポートします。
 通訳を務められた特殊翻訳家 柳下毅一郎による言葉をその場でメモさせて頂きました。早いスピードで語られるクリスピン/柳下氏の言葉を聞き違えている所もあると思うので文責はBP@究極映像研です。

 今回は全文クリスピン・グローヴァーの語った内容。僕の感想は次回"What is it?"のトークショウレポートで書きたいと思う。

 このトークは、映画が23:30に終了し、その後、延々2時間に渡ってクリスピンが精力的にAM1:30まで語り続けたものである。遅くまで対応されたスタッフと柳下毅一郎に、貴重な機会をいただき感謝したいと思います。

✳︎以下で使用した画像はクリスピンの著作等の表紙画。文末にそれらのAmazon(日本と米国)へのリンクを掲載しました。

◆10年間の非痛な養老院生活
 まず映画の理解を深めるためにということで、本作の脚本と主演のスティーブン・C・スチュワートについて語りはじめた。

 彼はポリオでなく麻痺が続く難病。20歳で母が亡くなり養老院:ナーシングホームへ入れられる。
 彼がしゃべる言葉は、誰も理解できない。ただ一人だけは全部理解している人がいたが、それ以外の人には自分の意志をわかってもらえなかった。これを表わすために、スティーブンの会話は、映画の字幕で全て「×××」と表現されていた。

 彼は養老院を嫌っていた。体は不自由でも、本当は精神は健全だったが、言葉を理解してもらえずに、知恵遅れの扱いを受けた。出るまでの10年のホームでの苦痛。モルモン教で有名なユタ州にそのホームはあったが、彼にはモルモン教は何の助けにもならなかった。

◆映画化のきっかけ

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 彼は10年後にホームを出た後、そこでの体験を綴った文章を新聞に送った。
 その記事で彼を知ったドキュメンタリー監督ラリー・ロバートが撮ったスティーブンのドキュメンタリーがソルトレイクのテレビで放映された。

 その縁で、スティーブンのこの映画のアイデアが、ラリー・ロバートによって、後に本作の共同監督となる若手映画作家デヴィッド・ブラザーに紹介されることとなる。

 クリスピンは1983年「オーピリーキッズ」という実在人物のテレビドラマに出演。そこで二人の監督に知り合った。当時彼はスライドショーの本を短篇にしてデジタイズはしたが編集してない。
 ブラザーがスティーブンの脚本読んで、映画化しようとお金集めた。
 クリスピンがプロデュースしたいと申し出たが、1986年 映画の資金は簡単に集まらず、やっと16mmで2000年に撮影開始。映画は35mmにブローアップして上映している。

◆itトリロジー第一部 ”What is it?”

 1996年に ”What is it?” itトリロジー第一部が完成。脚本は”It is Fine! ”が早かったのだが、先にこちらを撮った。元は予定していなかったが、”What is it?”にもスティーブンに出てもらうことにした。
 元々の短篇はデイヴィッド・リンチがプロデュースする予定だった。短篇脚本が元になって、資金が集まらない映画としてはリンチプロデュースはいい。ダウン症の人が主役演じてる。

 短篇を長編に、スティーブンを第1作にも出演させ、次の長編に続く様にした。
(ここで”What is it?"予告編上映。ネットではFacebookのクリスピー・グローヴァー公式ページに動画があります→”What is it?"予告篇)。
 この2本は違うタイプの映画。第2部が自分の関わった映画の中でで一番良い。第1部も誇りに思ってるが...。中心テーマはダウン症ではない。ダウン症役でなく、ダウン症児が役者として出る映画。

◆商業映画の抑圧 it三部作の構想
 短篇撮る際に、メジャーがリンチの名(エグゼクティブP)もあるので、インデペンデントにも投資してくれると思ったが、メジャーはダウン症児に難色。大事なアイデアと説明したが、だめだった。
 短篇24ページを80分の映画にする予定だった。メジャーの意図は理解できてなかった。ダウン症児に演技させるのは難しいと言ってると思ってたが、コンセプト自体に不安を持っていたのだった。
 メジャーはダウン症児が健常者を演じるのがまずいと考えたのだ。

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 人を不安にさせるのが”What is it?”の問いかけ。メジャーは、観客がダウン症児を利用してると思うのではないか、とそこに懸念を持たれた。こうしたタブーの要素を、商業映画は嫌う。自分がどう思うかを映画にすべき。それを長編のテーマにした。35年間やってきたハリウッドに思うサイコロジカルな気持ちを込めた。

 観客がタブーと思う要素を省くのはよくない。これは何なのかと思わせないといけない。それがまさに"What is it?"である。タブーを取り除くのは、自然な疑問を抱かせることをしないことであり、それは映画でなくプロパガンダとなってしまう。

 スティーブンの脚本の影響が、短篇を長編にしてく過程で知らないうちに要素として入ってきた。なのでスティーブを出演させて三部作にしようと考えた。”What is it?”は1996~3年で完成。

◆”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”の撮影
 スティーブンは60歳となり肺炎とか体弱ってた。映画は彼が62才の時に撮った。
 2000年に(クリスピンは)チャーリーズエンジェルに出演し、そのギャラでこの映画を撮った。2000年にソルトレイクでこの金で撮れるぞと二人に話した。撮影は6か月間セットに籠って撮った。

 2001年初頭ロスに戻ったら、もう撮り残しはないかとスティーブから問い合わせがあった。彼はその時、入院して生命維持装置を付けていた。映画は完成できるかと心配してくれ、そして追加撮影がもうないなら自分は生命維持装置を外してもらうつもりだと言ってきた。生命維持装置を外して良いかと聞いてきた。彼はとても優しい人である。映画制作の完成保険もかけてなく、私が大損するのを知ってて心配してくれていたのだ。

 デイヴィッド・ブラザーとの共同監督はそれぞれが得意分野を抑えていて、上手くいった。

◆”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”の完成

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 映画は完成し、07年のサンダンス映画祭で上映。
 会場の質問でスティーブンは映画に出て何を得たか、と聞かれたが、やり尽くしてこの世を去ることができたと思う。

 これはドキュメンタリーでなくファンタシーだが、現実を描いている。
 人が映画を単に撮るのでなく、この映画は(スティーブンが)自分のファンタシーを映画の中で実際に生きたということが、貴重なものとなっている。

 この脚本を読んだ時、お金を集めないといけないと思ったのは、スティーブンが求婚して断られるシーン(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の映画に出てる女優マルギット・カルステンセン)。これはスティーブンの実際の人生であったことと直感した。

 このシーンが映画の感情的中心だと思う。これを何としても映画にしたいと考えた。
 出来上がった映画は上手く表現できていると思う。感情が表現されている。その感情の表現を日本でもお見せできて嬉しい。

◆次回作 “タイトル未定" 完成間近!
 次回作は今、作ってる。2003年からチェコで撮っている。これはitトリロジーの三作目ではなく独立した作品。父と初めて共演している。

 チェコに地所を得て、そこにセットを作った。あと1日の撮影で撮り終わる。35mmフィルムで撮るため現像所も買った。
(ここで予告篇。チェコの街だが色がデジタル的に鮮やかなシーン。石畳のプラハっぽい街。機関銃を撃つギャング風の黒帽子の男等)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 観客との Q & A


質問 「感情的解放あった。タブーのバイアスは、当時に比べ現在、どうか」
 スティーブのビジョンを映画の形にする。商業映画がやらなかったことを商業映画にしたかっただけ。モラルは考えてない。

質問「スティーブンのファッション等へのディーテイルのこだわりは?」
 出来上がった映画は、彼の元の脚本とはだいぶ違う。いつかオリジナル脚本もなんらかの形で紹介したい。脚本はもっとセックスと殺しのシーンが多かった。それだとトリプルXXXのレーティング、ポルノになってしまう。ポルノでも良かったが、女優が親密に感情を通わせるような映画にしたかった。
 セクシャルなグラッフィックを取り除くのはNG。映画を本当の体験にしたかった。女優優れてて感情を通わせた。
 スティーブンは完成品見てない。観たらきっと喜んでくれ、誇りにしてくれたと思う。

質問「8年ぶりに観た。入れ子のドキュメンタリーになっている。殺す憎しみの感情は?スティーブンが自分の出演料を女優に贈ったということだったが、どの女優に贈ったか?」

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 制作費は20万ドル。
 夢落ちでなく映画の中で、(スティーブンの妄想が)本当に起こってたら面白い。
女性嫌悪の映画だという反応も無理もないと思う。
 スティーブンはここにいたら喜んでくれただろう。彼はとても女性を尊重してた。
10年間の閉じ込めらてた怒り。怒りに満ちた映画。そこが女性嫌悪に見えるかもしれない。

 70年代のTVでミステリームービーウィークといって『ロックフォード事件メモ』 『刑事コロンボ』とか放映されてたものをナーシングホームで見てた。その経験から殺人ミステリーが一番ぴったりきたのではないか。
 (スティーブンが物語を作る際に)定型のドラマに落とし込んだがそこに深みが出たのではないか。

質問「スライドショウと映画の関係は?」
 コラボレーションになっている。今日のよりも明日の方が関係は明確だと思う。
 クリスピンの書いた本が映画のテーマにも繋がっている。今日のはスティーブンの作った話で関連は薄い。
 15万ドルの費用を6年のツアーで元をとるために色として、ビッグスライドショウを付けている。

質問「好きだと言われてたファスビンダーの影響?」
 ファスビンダーの映画は、”What is it?”を編集していた90年代後半から観ていた。感情的知性の表現で優れている。凄い。
 キューブリックは映像は凄いが、感情が一つの画面に結実することはない。
 元はクリステンセンでなく80年代のUSのテレビ女優を使うつもりだった。USテレビ的美。脚本送って露骨なセクシャルシーンがあると言ったらこれはダメだという反応。
 そこでファスビンダーの映画をちょうど観てたためカルステンセンに申し入れ、すぐ出てくれるとなった。

質問「日本のバラエティで障害者を笑いにしたり、感動的にしたり描いている。これをどう思うか?」
 現実は冷たい。
 今作は、啓発する映画として作ったわけでない。
 次作もハンディキャップの人に結局、出てもらうことにしたが、私はそれにより彼らの独特のカルチャーを出すのがいいと考えている。

質問「タイトルはスティーブンによるものか?」
 スティーブンのタイトルは別のものだった。
 Everything is fine.という時は、絶対大丈夫でない時に使う。
 スティーブンの脚本は、エンディングも違う。ヘロンウィルス(?)とかホラーっぽいラストだった。

◆関連リンク
クリスピン・グローヴァー - Wikipedia
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー - Wikipedia
マルギット・カルステンセン

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コメント

 say3さん、あの会場にいらっしゃったのですね。

 映画のインパクトもありましたが、ご本人の語りの強烈さが印象的でしたね(^^)。

投稿: BP(say3さんへ) | 2016.11.13 09:17

この時(クリスピン・グローヴァーのビッグスライド・ショウpart1)は私も観に行きました&その後のQ&Aおよびサイン会にも参加しました。
当日の記憶がよみがえると共に、「こんな内容だったな」と思い出した次第です。

投稿: say3 | 2016.11.13 01:27

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