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2016.10.05

■感想 クリスピン・グローヴァー監督『What is it?』

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"What is it?" 予告篇(クリスピン・グローヴァーFacebook公式ページ)

 先日から連続で記事にしているカナザワ映画祭、今回3回目はクリスピン・グローヴァー監督 ITトリロジーの第1作『What is it?』の感想です。
 これに続き、次回はこの映画上映後のクリスピンのロングトーク(2時間あまり)を紹介する予定です。

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◆映画概要
 猿の顔をした裸体の女が地中の穴から現れる世界、まるでそれ全体が地中世界のように見える空間には、象の顔をした裸女、ダウン症の俳優による人間と、そして監督 クリスピン・グローヴァーが扮し玉座に座る王(神?)が存在する。

 そしてダウン症児演ずる地上世界の生活が並行して描かれる。地上世界の登場人物たちはカタツムリを中心に置き、塩で溶けてしまう蝸牛のシーンとか、人間たちの争いが描かれる。

 かたつむりが塩により溶けるシーンでは、その溶けたかたつむりの仲間(妻? 彼女?)による悲痛な叫び声が印象的に繰り返される。この声が本作の基調の辛い雰囲気を形作るように繰り返し繰り返し奏でられる(予告篇のラストで聴こえる地の底からの様な声です)。

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 さらにもう一つ、印象的に挿入されるのが、この黒人(を模した)男の顔と独白。
 タップダンスとクローズアップ、独白は後で述べるようにこの映画のテーマを表現しているように見える。

◆感想 ネタバレありご注意を!



 クリスピンによって演じられる異世界の王座が、"Is it fine? EVERYTHING IS FINE."の主役である身体麻痺の男 スティーブン・スチュアートによって奪われる。

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 黒人の独白。黒光りする顔の中に白く浮かぶ唇から語られるのは、対称の腕を非対称にしたい、焦点の合わない眼になって霊長類から脱出したいというような魂の叫び。

" 注射を打ち続けて溶けてしまいたい。なめくじになって殻に入りたい。"

 この独白と何度も繰り返されるダウン症の役者による塩を振りかけてなめくじを溶かすシーンとその仲間による死を悼む絶叫。

 これらから自ずと観客の中にわき起こるのは、この映画の全体イメージ、秩序や社会の規制から解放されたい、という意志の横溢である。これはそういう映画。

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 登場人物で鼻の高い、唯一ハリウッド的な登場人物であるクリスピン。
 他の登場人物はダウン症の役者と猿の顔のマスクをした裸女であり、鼻は扁平で低い。あきらかに意図されているのは、ハリウッド映画的価値観へのアンチテーゼである。

 "霊長類の進化の主役"たる白人(ハリウッド俳優)に対して、鼻の低さと左右非対称なダウン症の役者が、この映画の視点で観るとどんなに自由に見えることか。

 秩序の先端で合理的自我にがんじがらめになっている現代人。それを象徴するようなクリスピン演じる王の苦悩に満ちた表情。繰り返されるナメクジの塩による溶解と黒人による独白。

 本作はこの息苦しさからの脱出を謳っている映画と捉えることができるだろう。
 (この感想が前日に見た"Is it fine? EVERYTHING IS FINE."の後のトークショーの影響を受けたものであることは否めないけれど、、、。)

 幻想的な地下世界とナメクジの溶解と叫び声。
 これらから換気される悲痛さが独特のイメージを形作っています。

 本作のルックスはまさにカルト映画である。地下世界を無意識の領域として描いたような、まさにアンダーグラウンド映画。
 アンチハリウッド的な価値観を描くテーマに対して、正直この表現方法だと極端に振りすぎている印象も否めない。本来そうしたテーマを受け入れる観客もカルト的ルックで拒絶反応を示す場合もあるのではないか。僕の趣味にはバッチリ合いますが、、、(^^;)。

 昨今の映画、たとえばハンセン病者を描いた豊潤な感性の映画 河瀨直美監督脚本の『あん』とかを超えているかというと、広い観客へのテーマの訴求力ということから考えて、疑問も出ないわけではない。ハリウッド的感性に縛られない映画として、鼻の低いw俳優を多数要し、感性の豊かな映画を生み出している日本映画(それは例えば北野武映画でもいいのだけれど、、、)について、クリスピン・グローヴァーの感性での受け止め方を聴いてみたいと思ったのは僕だけではないはずww。質問しようとして言い方を考えあぐねていて手を挙げそびれました(^^;;)。

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