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2017.01.25

■感想 庵野秀明責任編集『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ : The Art of Sin Godzilla』取材、執筆/氷川竜介、中島紳介、木川明彦

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庵野秀明責任編集『 ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』

『シン・ゴジラ』公式記録集 ジ・アート・オブ シン・ゴジラ - 監督・庵野秀明自らが編集した『シン・ゴジラ』の詳細全記録集が、豪華ハードカバー上製本で発売決定!:EVANGELION STORE

"【収録内容】
・庵野秀明ロングインタビュー(本書のみの独占掲載)★7万字以上の大ボリューム!
・主要スタッフインタビュー
 樋口真嗣、尾上克郎、前田真宏、竹谷隆之、鷺巣詩郎、山内章弘、佐藤善宏、佐藤敦紀、大屋哲男、山田康 介、林田裕至、佐久嶋依里、山田陽、野口透、稲付正人、三池敏夫、摩砂雪 他
・『シン・ゴジラ』はこうして作られた!
 庵野秀明による企画メモやプロット、脚本(準備稿、決定稿、最終決定稿)、各クリエイターのデザイン画やイメージボード等を網羅して収録
・前田真宏による『シン・ゴジラ』デザイン画
・竹谷隆之による『シン・ゴジラ』雛型写真
・メイキングスチルによる撮影現場紹介
・ゴジラをはじめとするCGモデリング画像
・美術セット、特撮用ミニチュアその他劇中登場アイテム
・ポスター、チラシなど広告媒体、サントラCD、エキストラ参加記念品など関連アイテム
・完成台本(関係者配布用製本と同仕様)を別冊付録で同梱
・描き下ろしイラストポスター(前田真宏、鶴田謙二)封入
監修/カラー、東宝"

 年末に出た560ページという大部の記録全集『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』をやっとw読了したので、その感想です。
 冒頭の写真はカバーを広げたところ。ゴジラの長い尾をカバー全面を使って、ダイナミックに見事に表現しています。下は怪しい本を察知して、匂いを嗅ぎにきた我が究極映像研 猫たちw。

◆総論
 前田真宏他のデザイン画、竹谷隆之の立体造形、初期プロットから完成稿、そして圧倒的な分量のインタビューで構成され、映画の成立を追った充実の記録集である。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 全記録全集』と同様にその徹底した作品の制作過程へのアプローチが素晴らしい。

 特に今回はカラーでの初の長篇実写映画ということで、今までのアニメに対して、どう制作過程が同等/異なるのか、というところが読んでいく/眺めていく時の興味の中心だった。

 その結果は、主に氷川竜介氏によるインタヴューで明らかになっているが、特に「庵野総監督の今回の演出が絵コンテ、プリヴィズ至上主義で予め決められたレイアウトで撮影時の画面設計が決められている」と考えていた部分が大きく誤解していたことがわかった。

 当ブログ記事 『シン・ゴジラ』感想2でもそうした前提で考えていたが、これは僕だけの誤解ではなく、ネットや本で書かれている批評家、観客の多くが誤解している部分である(例えば『映画秘宝 17.3月』「秘宝ベスト&トホホ10」での町山智浩氏と柳下毅一郎氏の対談での誤解)。

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 『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』を読むと、特に実写部分は現場でiPhone含む多くのカメラでいろんなアングルから被写体(主に俳優の演技)を撮って、その多数のカットのサムネイルを使って、ベストな画角の絵を選んで行った、とある。

 実写ならではの、現場での新鮮な映像を捉える方法をとっていたわけで、その手法はアニメーションとは明らかに違う。
 単にアニメの手法を持ち込んだという、型どおりの批評が多い中、この映画は実はそうした撮影技巧含めて、実写映画(日本映画?)としてのある種の革新を成し遂げていたのではないか、と思うのだ。

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 もちろん複数カメラは黒澤明含め、すでに多くの映画監督によってとられている手法であるが、今回は機動力の高いiPhoneとかキャノンのCANON XC10とかそうしたものが普通には撮れなかったようなアングルで画角を切り取り、それが画面に躍動感をもたらし、この映画独特のルックを作っていたということ。特にインタビューで触れられていた摩砂雪氏のカメラが独特の画角と言われていて、ここはアニメの演出/レイアウトで鍛錬された摩砂雪氏独特の感覚が息づいていたのであろう。

 iPhoneの映像も全1558カット中31カット使用されているという。XC10は146/1558カット。二機種合わせて全体の11%というのはなかなかの数字。(ちなみにメインのデジタルシネマカメラ ALEXA 1018カット、RED 55カットと(P343)。)

 上記、この本の数々のインタビューとカットのサムネイル画像から、実写部分は現場での複数カメラと認識したが、特撮とCGは全てプリヴィズ通りということか、Blu-ray特別版に特典として収録されるというプリヴィズでの確認も楽しみである。

◆ビジュアル設計
 まず前田真宏氏のデザイン画が素晴らしい。
 第1形態、第5形態に加え分裂進化形態まで。制作過程で検討されたヴィジュアルイメージの数々に「もう一つのシン・ゴジラ」を体感し、ワクワク(^^)! 大判の写真で見られるのでこれだけでもこの本の価値があるかと。第5形態についての詳細、かなり当初は踏み込んだ設定があったようで、もし全部のイメージが映画に焼き付けられていたらと考えるとゾクゾクくる。

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 そしてもちろん、竹谷隆之氏の造形が素晴らしい。右の尻尾の造形はCG化せず映画にそのまま映し出されたとか。
もう美術品の域です。未来の国宝かと(^^)。

 それにしてもこんな素晴らしい造形の記録が2Dだけとは残念すぎます。こうしたものこそ、3D映像として記録し多くの人に立体物としての魅力を広めて頂きたい。

 3Dハンディカムでもかなりの臨場感ある映像として残せるので、是非ブルーレイ特典に入れて頂きたい。
 今までに彫刻等、美術品を撮って家で観るとそこにあって触れそうですから(^^)、かなりの臨場感で記録できると思う。

 私、立体映像師としてボランティアで撮影に伺ってもいいのだけれど、、、呼んでもらえないですかw。

◆庵野G/プロット改訂版(13.12月27日版) 庵野秀明、神山健治15780781_1714892585506995_823576598
 『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』に掲載された最も初期のプロットを読む。引用写真に書かれている「神山版プロット」というのも神山健治監督ファンとしては興味深いが、この掲載プロットは神山監督のクレジットが残った物。

 大きな骨格は完成作品に近い。異なるのは主人公が元総理の息子で、官房副長官から総理代行になること、巨災隊は組織されるがそれが物語の中心にはいないこと、主人公の元彼女が官僚としてGに関わっていること、博士の娘がG退治のキーを握ること。
 『SAC 2nd.Gig』での日米中関係、『東のエデン』で政治家を描いた神山監督の経験が活きている部分かもしれない。

 博士の娘、主人公の元カノ、義母等が出てくるところ、こうした部分は東宝怪獣映画テイストが残っている。こうした情の要素を落としたことで映画のテイストを変えることが出来て正解だったと思える。

 本稿でのクライマックスは放射性熱線照射&飛翔後、分裂しかけて8つの頭を持つG(まさに八岐大蛇)が米中ロの艦隊からの核ミサイル攻撃を受ける。自衛隊とGの熱緑でそれらが撃ち落とされるシーンは、まさに神山監督の前述2作を彷彿とさせる。この展開も映像化されていたら素晴しい物になっただろう。アナザー『シン・ゴジラ』を脳内再生できます。

 以上、本では文字が小さく読めなかったので、iPadで写真にとりPDF化して、拡大しながら読んでみた(^^;)。本には最終決定稿含めあと5本のプロットが掲載されている。

◆G作品プロット案修及び同2 (14.7月7-9日版) 庵野秀明
 実際の撮影を配慮したのか、上で書かれていた派手なシーンがカットされている。
 博士の娘の設定が孫娘に変更。主人公が政治家になりたくなかったが、兄の死で元総理の父親を継いだ。主人公が総理補佐官の設定。不明巨大生物の秘密を探るため、主人公が博士の息子の家を目指していたといった部分が公開版と異なる。
 核攻撃は日本の懇願で待ったがかかり、自衛隊+αによる経ロ投与によりG凍結というプロットとなっている。

◆G作品新プロットメモ2 (15.1月7日版) 庵野秀明
 かなり映画に近いプロット。巨災隊の面々が登場しない所とデテイルがまだ描れていないのが違う位。
 示唆されるゴジラが持ついろんな種の遺伝子。人のそれは「教授の可能性がある」と明記されている。
 大統領特使は祖母が被曝者である設定が出てきているが、主人公の留学時代の恋人の設定。

 あとのプロットは、ほぼ映画の物語のリファインされていく過程なので、ここでは省略。やはり冒頭の「庵野G/プロット改訂版(13.12月27日版)」のクライマックスの奇想炸裂が圧巻。前田真広氏のイメージスケッチを思い浮かべながら読むと、壮大な当初のスケール感ある物語が楽しめる。ただこれは東宝が望むゴジラからはあまりにかけ離れているのと、制作費がさらにかかるのとで、諦めざるをえなかったのではないかと邪推する。

◆庵野秀明インタビュー
 あえて観客の記憶と想像力に委ねるという発言が印象的。
 またミニチュア感による(東日本大震災の)災害イメージの軽減とか、夢と現実の境界でギリギリ夢になるようにするための、車や列車の描写とか興味深い。
 震災に対して、理想を描くエンタテインメントに終始しよう、気持ちいいもの楽しいものだけで構成したら何度でも観られるのではないか(P510)と述べられており、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』での震災の影響を真っ向から受け止めようとして悪戦苦闘した様からの、クリエータとして、吹っ切ろうとする姿勢が印象的だった。

 これを受けての『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の大エンターテインメントへの回帰(『破』の作風への回帰)を期待。完成が楽しみでならない。

 最後になりましたが、この大部の充実した映画制作ドキュメントを届けていただいた、責任編集の庵野秀明総監督、取材、執筆の氷川竜介さん、中島紳介さん、木川明彦さん、そしてカラーの編集スタッフの皆さんに感謝したいと思います。これは、怪獣映画が進化した瞬間の、貴重な記録です。必読。

◆感連リンク
「ジ・アート・オブ シン・ゴジラ」発売記念プレゼントキャンペーン :EVANGELION STORE

"庵野秀明総監督直筆サイン入り表紙カバーを抽選で50名様にプレゼント!!"

 これ、申し込もうと思ってます(^^)。

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