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2017.03.15

■感想 村上春樹『騎士団長殺し』

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 村上春樹『騎士団長殺し』読了。初日に買ったんですが、時間かかったのは面白くなかったから...でなく本業多忙が原因です(^^;)。
 リーダビリティは今回もとても高い。主人公の一人称でいつもの端正な言葉で書かれているのと、絵画がキーになっていて芸術への作家のアプローチが大変興味深く、僕にとっては2冊もあっという間という感じでした(時間はかかっちゃったが、、、w)。

 ストーリーバレは極力しませんが、テーマについて触れるので、白紙で読みたい方は読み飛ばしてください。

 僕の最大の興味は『1Q84 BOOK1 BOOK2』で描かれた(と僕が感じているテーマ)「「孤独と静謐」と「自由意思と自然体」の相克」について、今回どう深化しているかということ。

感想 村上春樹『1Q84 BOOK1 BOOK2』(当ブログ記事)

" 意識偏重と書いたように、自由意志を優先しようとする近代の問題そのものは村上は肯定しているように思う。しかし体感的に実は自然体であることを本来の姿として描こうとしている。本来は意識の否定につながる自然体である姿の肯定という齟齬をかかえて。"

 もともと絵画をモチーフのひとつとして描いているため、画家の「意識と無意識」というテーマはかなり前面に出ているかと見えたのだけれど、1巻の後半でいよいよ「意識と無意識」というテーマが表面に浮かび上がってきたか! と思ったのだけれど、上記僕が期待した様な近代文学を越えていく様な、凄みのあるテーマは今回、後退していました。(これは神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』とかの延長で僕が勝手な文脈で『1Q84』を読んでいた故の妄想ですのでお気になさらずにw)。

 では今回のテーマは何か?
 ドイツの某が絡むのと、日本の中国における◯◯が描かれるのとで、テーマ的には戦争に至る人の迷走が中心主題にみえる。それが小田原近郊の画家の居宅で絵画を巡る幻想譚として描かれる。
 タイトルがズバリ、その中心主題の具像化したもの。

 本作のタイトルが最初発表された時に、村上春樹にしてはタイトルがらしくないな、と思ったもの。このタイトルはなんとなく現在のポピュリズム的状況を象徴している様に感じたのだけれど、読後の感想はそれを主に思い出していた。
 アメリカのトランプ政権により、代表的に具像化している状況。もちろんドイツの某を思い出すわけで、そんな連想から読後の印象につながったわけ。

 では画家のアトリエの裏にあったあの"室"を巡る幻想譚はなんだったのか。
 村上の過去作にもこうした幻想はたびたび出てきている。今回も複数の登場人物により同様に知覚されている幻想であるため、単にそれは主人公の妄想ではあり得ない。小説世界に幻想として現れた「イデア」と「メタファー」。
 正直、僕の中ではこのテーマと幻想の関係は読み取れていない。
 小説世界を芳醇にするための幻想。だけれどここで書いたテーマとその幻想は直接的にはマッチしていない。物語としての面白さ、リーダビリティはそれにより上がっているのだけれど、テーマの印象を強める様な印象ではなく、ぼんやりと膨らませている様な読後感である。

 直接的な政治批判でなく、このようにイマジナリーに描かれた物語で、読者はどのように村上の意図を感じるのか、今までとこれから書かれるであろう本書の感想/批評を楽しみに読みたいものです。

 それにしてもこの本の帯は意味ありげだけれど、あまりこの話の本質というか雰囲気を掴んでいないですね。これだと多くの人は内容を誤解するのではないだろうか。こんなに現代思想的な話ではないと思うのだけれど、、、。

◆関連リンク
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