■感想 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督 テッド・チャン原作『メッセージ』
Go Behind the Scenes of Arrival (2016) - YouTube
↑メイキング(ネタバレ注意)。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『メッセージ』@ 各務原イオンシネマ。
前半、本当に丁寧にファーストコンタクトを、とても地味に言語中心で描いてありどっぷりSF。『正解するカド』以前にこれだけじっくり異界とのコミュニケーションを描いた映像作品があったんですねw。(『正解するカド』スタッフは『メッセージ』を企画時点で観ているのだろうか? コミュニケーションの段取りは随分違うけど、丁寧さではあい並ぶかと)
そしてクライマックスは、きっちり原作の素晴らしさを映画らしい盛り上げで見せる。このテーマなら、もっと前半もエンタメに振って、ファーストコンタクトを少し端折る手もあったろうに、と (SFファンでない映画ファンにも受けるようにするには、前半のコミュニケーション取る場面は冗長だったのではないかと心配)。
個人的には言語コミュニケーションが「サビア=ウォーフの仮説」によってるが、異質な言語体系の割に地球上の他文化言語の解読的に見えて、もっと言語の原初的な成り立ちの違いが映像含め描かれていたら、大先端SF傑作になったかもと、妄想したりして、、。これは14年前にテッド・チャンの原作読んだ時も感じたことですけど。
◆◆◆◆◆◆ネタバレ感想(以下、未見の方はご注意ください)
映画の冒頭は偏在する時間の、娘の生から死をみせてる、その後、映画の物語時間軸がスタートし異星人が来る。映画の編集により、時間の偏在を観客に体感させる手法は見事という他はない。映画という形態で見事に異星人の時間認識を観客に提示できてる。
映画を観た後に、テッド・チャン「あなたの人生の物語」を再読。娘との人生の部分は小説においては、小説のメインの時間軸の物語と交互に、未来系の文体で統一された表紙やとして描かれている。ここは映画のインサートの手法の方が効果的になっている部分と思う。
映画と小説をさらに比較する。
もちろんメインプロットは同一であるが、映画に対してはそこで省略されているヘプタポッドの世界認識のメカニズムを「フェルマーの(最小時間の)原理」で描く部分が、ある意味、映画の補完的作品となっていることがわかる。
映画のクライマックスで畳み掛けるように描かれるヘプタポッドの「同時的認識様式」について小説は「フェルマーの原理」『三世の書』とかを用いて丁寧に描き出している。このあたりは映像より文字表現が優れている部分かもしれない。
あと原作との差をポイントで挙げると以下である。
・映画冒頭で印象的に描かれた異星船の来訪というイベントへの人々の反応が小説にはない。
・小説では異星船は軌道上、コンタクトは各船から数台展開された、「ルッキンググラス」という異星人の装置で行われる。よって異星船へ乗り込んでいく映画的にポイントとなる重力の転換とか面白いシーンがない。またヘプタポッドと白い遮蔽物を挟んでの対峙シーンもない。
・ヘプタポッドの円形の文字は映画の秀逸な創作。原作ではこの描写はない。
・各国の思惑(主に中国のシャン上将)により、世界が一触触発の状況になるエピソードは原作には全くない。よって印象的な主人公によるシャン上将の妻の発言を聞き込み、シャン上将に攻撃を思いとどまらせるシーンがない。ここは現在の世界情勢を踏まえて映画が創作した、映画としてのクライマックス、人のコミュニケーションの問題/それとの異星人の世界認識の対比を見事に描き出したシーンと言える。
◆関連リンク
以下、映画パンフ等を参考にしつつ、『メッセージ』をより楽しむための情報リンクです。
・ハリウッド・映画・西洋──映画『メッセージ』が明らかにする3つの限界:池田純一レヴュー|WIRED.jp
"ヘプタポッド語の仕組みを理解するうえで重要な原理が原作では示されていて、それは「フェルマーの(最小時間の)原理」と呼ばれるものなのだが、残念ながら映画では省略されている。"
・SF作家ケン・リュウが語る、テッド・チャン、テクノロジーを描くこと、異文化をつなぐSFの力|WIRED.jp
"映画『メッセージ』はよくできた作品だけど、同時に原作のいくつかの側面を削ぎ落としてしまっているとも思う。原作『あなたの人生の物語』のポイントは、決して言語と時間の関係に着目していることだけではないんだ。それはもっと深く、重要なテーマを描くためのトリックにすぎない。原作で描かれているのはなによりも、子どもを失う親の無力さを受け止めること──子どもと出会い、彼女がひとりの人間として成長し、そのあとに悲劇が待っていることがわかっているとしても、その子を愛するということだ。こうした複雑な、感情に訴える心理状態を描くことは、映像よりもテキストのほうが向いていると思う。"
・【ネタバレ注意!!】映画『メッセージ』は原作小説の「感動」を伝え切れていない:『WIRED』US版の考察|WIRED.jp
"映画では確かに、ルイーズが「逐次的認識様式」から「同時的認識様式」へ移行していく様子がうまく表現されていました。原作ではその認識様式が変わっていくにあたって、あるひらめきが訪れた瞬間はありませんでしたから。"
・町山智浩 映画「メッセージ message (原題:Arrival) 」 たまむすび - YouTube
ジョージ・ロイ・ヒル監督 カート・ヴォネガット・Jr.『スロータハウス5』が描いた時間の偏在と似ている、という指摘。ただしテッド・チャンはヴォネガットでなく、俳優ポール・リンクの一人芝居「Time Files When You're Alive」に影響を受けたと語っているとのこと(これは映画パンフでも町山氏が書いている)。
・TIME FLIES WHEN YOU'RE ALIVE - Clip - YouTube
そのポール・リンク一人芝居の映画、予告篇。
・映画『メッセージ』ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督にインタビュー:「何らかの地球外生命体はいると思う」|ギズモード・ジャパン.
"あえて言うのであれば、フランスの漫画家メビウスに影響は受けていると思います。先日リサーチをしていて気づいたのですが、自分がもともと大好きなノルウェーの画家であるオッド・ネルドルムの絵に描かれている暗い雲が『メッセージ』の宇宙船と同じ形をしていたので、もしかすると彼の絵のことも無意識のうちに参考にしていたのかもしれません。"
・odd nerdrum black cloud - Google 画像検索
オッド・ネルドルムの黒い雲の絵は、リンク先でいくつか見られますが、特にこの絵でしょうか。
オッド・ネルドルム、よく知りませんでしたが、相当に不可思議な絵を描く方ですね。こちらも興味深い。
・Max Richter - On the Nature of Daylight - YouTube
冒頭とラストで流れるマックス・リヒター「オン・ザ・ネイチャー・デイライト」
・marteena ivanov speedway - Google 画像検索
パンフに記載されていたヴィルヌーヴとプロダクションデザインのヴァーメット、撮影のヤングが宇宙船内の表紙やで参考にしたという、スカンジナビアの写真家マルティーナ・イワノフの写真集『SPEEDWAY』の画像。陰鬱な冬のスカンジナビア半島の空が映画のキービジュアルに影響を与えたことがわかる。
・Color-shape model of 15 Eunomia during one revolution in steps... - Figure 1 of 1
・異星船のモデルにしたという小惑星 エウノミアの形状はリンク先の画像参照。
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コメント
なぜ主役が女性の言語学者なのだろう。この辺が20世紀のSF映画との違いなのだろうか。彼女は組織のロジックで動かない。彼女は自分の意志で、我々日本人にはもうなじみになった?放射能防御服を脱いでしまう。そしてエイリアンと直接に対面する。すごい勇気、というか知りたいという欲求あるいはなんだろうね、興味?信頼?愛?でも考えてみれば誰でもが初めて出会う人間は母親、つまり女、女性なんだったな。すごい勇気、すごい信頼、すごい愛。でもそれを受け入れることは難しくもある。男は怒って去って行ってしまったし、独りよがりなのかもしれない。しかし、選択肢はいくらでもあるように見えてもホントはひとつなのかもしれない。人生は一本道。後から見れば確かにそうだ。興味、信頼、愛、勇気。すごい話だったね。
投稿: 小高正行 | 2017.11.18 14:53