■感想 北野武監督『3-4x10月』
3-4x10月 北野武監督作品 1990年公開 日本劇場予告編 - YouTube
何度目かの北野武監督『3-4x10月』を観た。2013年の日本映画専用チャンネル『北野武劇場』♯2として放映されたハイビジョン版を録画していたもの。ずっと見てなかったので、今回この放映分は初見。
北野映画の最高傑作と思っているのだけれど、今回見直しても武監督らしい映像の組み立てで素晴らしい。エピソードの積み上げ方、起承転結のどこか起と結をダイレクトにつないだようなテンポ、本作では音楽を排しセリフを極力無くして映像と環境音で見せるタッチ。北野映画の原石がここにある。
最初観た時のどこにもないような新しい映画の感覚。それがこれら要素から観客の頭の中に構成されたイメージであることが、今見るとよくわかる。
番組ナビケータを務める水道橋博士が、主役の小野昌彦(柳憂怜)と対談するコーナーが映画の終演後に放映された。ここで映画の本質に迫る興味深いコメントが出ているので以下書き記す。
★★★★★★ネタバレ注意★★★★★★
・柳の背番号は補欠なのに3。ラストでトイレから出てくる姿は、映画冒頭と異なり走ってベンチに戻る柳。そしてスタッフロールで次に彼が守備としてサードに付く映像を流し、番組の対談の中でしっかりサードに付いていることが示される。
柳が当時、北野武に聞いた話を「僕が監督自体から聞いたのでほぼ間違いない(真相)」として紹介される。
「(駄目な男として描かれているが)本来は全く真逆で主人公の雅樹というのはレギュラーで背番号3番でサード、4番(打者)という設定なんです、実は。できる男が「俺もし今こんな野球やっててちゃんとできてるけど、もし俺が駄目な人間だったらどうなるんだろうな、っていう発想でできてる話なんですよ、実は」」
彼がトイレの中でもし自分が補欠で何をやっても駄目な人間だったら、どうなるかという妄想だったというオチが想定されていたという。
・この映画は当初たけし軍団の解散映画として企画された。そして柳が主人公になった理由を推定し語る。その頃、他のメンバーは売れてきて映画を撮る2,3ヶ月のスケジュールを空けることができなかった。まだ売れてなく予定が空いていたから柳が主役に選ばれた。
・映画のラストについて元のシナリオはこうだったと紹介する水道橋博士「便所で終わる夢オチだっていうけれど、台本上は本当はもうひとくだりある、南の島に行ってるんですよ。『3-4x10月』も『ソナチネ』もフライデー事件後の謹慎期間に宮古島に行った時のイメージ。暇をつぶしている、死んで行く先を探している天国みたいなイメージが続いている。その絵のイメージがね。だからああいう色彩や光があるんだと思うんですけど。そこにさらに強いものを、さらに南というイメージがあるんですけど。」
以下は水道橋博士が『北野武劇場』の収録を記したブログ記事。
水道橋博士の「博士の悪童日記」 : 2月5日 火曜日 【北野武劇場】 - ライブドアブログ
"『北野武劇場』♯1、♯2、スタジオゲストトーク。 初期の北野映画に出演された俳優陣の中から、 柳憂怜、芦川誠、平泉成、ベンガル諸氏からお話を聞く。 『3-4x10月』、柳憂怜さんは無気力な主人公の設定、草野球の控えのメンバーなのに、何故、背番号3(たけしさんの年代には特別な意味を持つ)をつけているのか? 長年の疑問だったが「正解」を語ってもらえたのは収穫だった"
ここで書かれている「正解」が上で引用した柳の言葉というわけである。
そしてネット検索したら、シナリオのラストの南の島について以下の情報を見つけたのでご紹介。
"日本映画専門チャンネル『北野武劇場』で、本作のプロデューサー・森昌行氏によって、幻のラストシーンの構想が語られています。
「バリ島の白い砂浜に主人公たちが、ガソリンスタンドからポンと飛んでる。つまり、そこへ逃げたという設定になっていて、彼女がパッと現れて陽を遮るところで、主人公たちの目の前が暗くなるんですね。そこで目覚めるというか、もういっぺん、ガソリンスタンドに戻って、そこでバットを取って、ホントに殴るかどうか、みたいなところで終わる作りだったのですけども。」
では、なぜこのラストシーンの構想は実現しなかったのしょうか。
ー『3-4x10 月』って、いろんなチャレンジが入るはずだったんだけど、息切れしちゃったんだよね。途中で破綻しちゃったんだなぁ。もう完全に、途中で映画を撮るスタミナが切れたっていう。(北野武『物語』より)"
映画の謎解きは興を削ぐことにもなりますが、北野武映画のコアを知るためにこの番組「北野武劇場」の関係者コメントは貴重なものになっていると思い、書き記してみました。
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