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2017.08.30

■感想 山田正紀『ここから先は何もない』Beyond Here Lies Nothin'


Bob Dylan:ホブ・ディラン- Beyond Here Lies Nothin' - YouTube

Beyond_here_lies_nothin

ここから先は何もない :山田 正紀|河出書房新社

"小惑星探査機が採取してきたサンプルに含まれていた、人骨化石。その秘密の裏には、人類史上類を見ない、密室トリックがあった……!

小惑星から発見された、化石人骨“エルヴィス”とは?3億キロの密室殺人。一気読み必至!超弩級エンタテインメント"

 壮大な地球生命史、人類史、そして宇宙の人工知能の歴史がボブ・ディランの歌のタイトルと呼応し、素晴らしいハーモニーを奏で、そして絶望を謳っている。

 ここでもある意味、山田正紀がデビュー長篇『神狩り』からテーマとしてきた、神との闘いが描かれていると言ってもいいかもしれない。

 壮大な宇宙の歴史、人類の存在意義といったSFの王道のテーマで今回山田正紀が描いたのはその存在の虚無である。まさに「Beyond Here Lies Nothin' ここから先は何もない」。

 しかしそれでもポジティブに登場人物たちを描く山田正紀の筆致が心地いい。
 宇宙の物語であるのに、市井の人々の地上の視点が貫かれている。山田正紀の得意とする必ずしも優秀でない若者たちがその自身の持てる力を尽くして戦う姿が最初から描かれていることにより、描かれた虚無がどこか相対化されていく。
 これが本書の読後感を、冷たくも暖かくしている所以なのだと思う。

 壮大な宇宙の推理トリック、宇宙史、人類史といった彼方の視点と若者の奮闘する姿。こうした幅広い視点が、「想像できないものを想像する」山田SFの真骨頂である。本書はそれを苦くも心地よく描いた山田ファンへの見事なプレゼントである。

◆関連リンク
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