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2018.02.26

■感想 ジョン・グエン、リック・バーンズ、 オリヴィア・ネエールガード=ホルム監督『デヴィッド・リンチ:アートライフ』: David Lynch The Art Life


David Lynch The Art Life - Official Trailer - YouTube
映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』公式サイト

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 東京から遅れること約一ヶ月、やっと名古屋で公開された『デヴィッド・リンチ アートライフ』を名古屋シネマテークで観ました。全篇リンチ独白ナレーションが被った、彼自身の視点で語られたドキュメンタリー。

 前半はホームムービー(8mmフィルムと思われる)と写真とリンチの語りによる、子供時代の彼とファミリーを描き出している。ここを見ると良識ある両親と兄弟に囲まれた幸福な子供時代だと感じられ、恐らくハリウッドのカルト映画監督の中で、これだけアメリカの良識ある家庭で育った人はいないのではないか、と思えるほど健全に見える。

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 その光景はまるで『ブルー・ベルベッド』の耳が出てくるまでの芝生のサバービアの光景である。

 前半で描かれたこの光の部分と、思春期の混沌がリンチにもたらした闇。本作品の全体の背骨になっているのは、この光と闇である。

 そしてもうひとつのポイントは、子供視点でリンチが見ていた世界の広さについての描写。彼のこの頃の世界は、周囲数百mほどの小さな生活圏が世界の全てであったという描写がナレーションでなされている。このキーワードも全体のトーンを決定づけている。

 その後に世界が広がったという子供時代と対比されるナレーションは、実はない。

 絵画と映画と音楽の世界に入っていったリンチのハイスクールと大学時代の回想は、現在の老齢のリンチが自らのアトリエでまるで孫娘のような4人目の子供 次女のルーラと過ごす映像を背景にして語られている。

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 世界の混沌を前に、自分の部屋にこもり、物思いとアートに耽溺していくリンチの姿の描写は、子供時代の狭い世界をさらに圧縮していくような光景にみえる。空間も時間も、現実も夢も、そして外界も内界も内在したそのリンチの空間で営まれるアートライフ。その密度の描写が圧倒的である。

 そのキーワードは、下の個展で飾られたらしい一枚の文字と記号で表現された作品 "DaRK Deep Darkness and SPLENDOR" で描写されている。

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‘Dark Deep Darkness and Splendor’: Yaratımın Karanlık Görkemi – Pomegra

 "闇と明るい光が/周りを包んでいる/根の中にあったものは
 やがて木になり/星空の下の家になった
 その家の中で/よく見るための眼と/長い腕を持つ男は
 明るい光に/深い闇にも手を伸ばした/そして自分自身を見た"

 まさに本作で描写されたリンチのアートライフそのもの。
 そこに描写されるのは、闇と光、そして家の中で光と闇の世界を眺め、自分自身の内面に行き着いた人の姿である。

 『ツインピークス』シーズン3 のあの世界は、リンチのこんな経験がまさに投影されたものなんだってところが、"もてと"興味深い。

 特にラストシーンとリンチサウンドが響くエンドクレジットには感動します。
◆関連リンク
・【インタビュー】映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』 ジョン・グエン監督「この映画を撮ることで、若い頃のデヴィッドの不安を知った」 - T-SITEニュース エンタメ[T-SITE]

"この映画を撮ることで、若い頃のデヴィッドの不安を知った。彼が“アートライフ”を、家族との暮らしや友達付き合いとは分けて考えていて、友達や家族をアトリエには寄せつけなかったことをね。

 デヴィッドは3つの生活を切り離していたんだ。全部をごっちゃにするとどうなるか分からなくて怖かったから。デヴィッドは実人生で自分を完全に切り分けているから、映画の人物にもそれを投影する。

 彼の映画のバラバラな感じ、突然切り替わる人物たちを理解するのに、デヴィッドの話が役立った。家族と話す時、友達と話す時、アトリエでジャック・フィスクと話す時のデヴィッドは全く違う。彼の映画の人物も同じだってことがよく分かるよ。

 デヴィッドにこの話をしたら同意するか、“ああ、気づかなかった”と言うかだろうね。いずれ彼とも話すかもしれないけど、僕が考えたことは筋が通ってると思う。彼のファンにも自分で感じ取ってほしい。デヴィッドの映画の観客は、作品と真剣に向き合っている。彼の作品をよく知っているし、僕らが解説しなくても作品を見直して分析するし、そのほうが彼らにとって満足度が高いはずだ。"

 この監督による言葉、僕にはとても興味深かった。
 映画の中では、彼の大学時代の下宿に父親と友人が同席することに対してのリンチの感情、たしか「怖い」と言っていたことが、まさにこの監督の分析につながっているのだろう。
 リンチ映画の、全く違う個性がひとつの身体に宿るような不思議な感覚。この原点が語られたのではないかと感じられる。

UPLINK『デヴィッド・リンチ:アートライフ』劇場パンフレット(Amazon) 
 Amazonで本作のパンフレットが扱われている。
 このパンフ、全63ページに密度の高い以下に記された方々の論評と、映画の中で映し出されたリンチのプライペート写真と絵画/オブジェ作品の写真が満載。リンチミニ絵画展の図録のような素晴らしい完成度なので、ファンは必滞でしょう

"映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』 2018年1月27日(土)より、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、立川シネマシティほか全国順次公開

原題:David Lynch: The Art Life リンチが紡ぐ「悪夢」はどこから生まれるのか? 『ツイン・ピークス The Return』で再び世界を騒がせる、映画界で最も得体の知れない監督――その「謎」が「謎」でなくなる、かもしれない。

■監督:ジョン・グエン、リック・バーンズ、オリヴィア・ネールガード=ホルム(『ヴィクトリア』脚本) ■出演:デヴィッド・リンチ (2016年/アメリカ・デンマーク/88分/英語/DCP/1.85:1/原題:David Lynch: The Art Life) ©Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016

【パンフレット内容】
・イントロダクション ・プロダクション・ノート
・監督インタビュー ・デヴィッド・リンチについて
・「イノセント・ミーツ・ナイトメア」滝本誠(映画・美術評論家)
・「“名付けられないむき出しの怖さ"を浮き彫りにするリンチ作品」湯山玲子(著述家、プロデューサー)
・「画家リンチは一言“ハッピー・バイオレンス! "と応えた」飯田高誉(インディペンデントキュレーター)
・「アート、そしてライフ。リンチの幸せな分裂について」高橋ヨシキ(デザイナー、映画ライター)
・「絵画、映画、かすかなしるし」大谷能生(音楽/批評)
・デヴィッド・リンチ絵画作品集
 ★映画オリジナルカード付き!"

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