■感想 岩切一空監督『聖なるもの』
映画『聖なるもの』特報 - YouTube 公式サイト
「聖なるもの」予告編【01】 - YouTube
"2018.4.14(土)ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー!!
監督・脚本・編集:岩切一空|劇中歌・主題歌:ボンジュール鈴木
出演:南美櫻 小川紗良 山元駿 縣豪紀 希代彩 半田美樹 佐保明梨(アップアップガールズ(仮)) 青山ひかる / 松本まりか
大学3年になる「僕」(岩切一空)は、4年に1度、映画研究会に現れる謎の少女と作った映画は必ず大傑作になるという噂を耳にする。ある日、僕の目の前にミステリアスな黒髪の美少女・南(南美櫻)が現れる。彼女に魅了された僕は後輩の小川(小川紗良)らを巻き込み、衝動的に南主演の映画を撮り始める。"
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傑作自主映画『花に嵐』の監督 岩切一空氏の新作『聖なるもの』を名古屋シネマテークの初日に観てきた。客は30人ほど、年配の男性が多い。岩切監督の評判を知っている映画ファン、そしてもしかして長い歴史を持つ早稲田の映研の岩切監督の先輩諸氏なのだろうかw?
『花に嵐』が新鮮な傑作だったので、そして今作の予告(特に冒頭に引用した特報)が凄かったので大きく期待して観た。
前作とはフェイクドキュメンタリーのタッチは同じ、そしてPOVであるところも同じだけれど、エンタメとしての強度は弱い。しかしそれを補ってさらに溢れ出る映画の魅力。この魅力はなんなのだろうか。
監督が数年、映画の主役を務めるように声をかけていたという主役の南美櫻の異界ぶりが素晴らしい。冒頭の特報に顕著であるが、特に登場して映画作りに合流するまでのその空間に漂うような幽玄な存在感。
今作の映画世界は、異界をキーワードに3層+αの世界を描いていく。学生映研の新歓と映像制作を基層にして、ひとつは主人公岩切くんの作っている自主映画の高校生活。さらにそれら2層に時々インサートされる2層から浮きあがった、もうひとりの主人公である小川と岩切監督との共同生活、まるで映画のこちら側の楽屋裏の現実のように描き出される層である。 こうした多重構造は前作『花に嵐』ではみられなかったメタフィクション的な構造である。これによって複雑さを持ちエンタメ的には犠牲を強いることになった映画は、でもその複雑さゆえに持つ多層な映像とその世界の向こうの異界を垣間見せるのに成功している。決して画面には映されずに、3層の各登場人物によって語られている異界は、それぞれの層で、息苦しい高校生活から外へというベクトルであったり、南の存在のありようだったり、監督と同衾しているように見える小川の語る脳の中の宇宙だったり、多様なイメージを持っている。先に3層+αと書いたα部分が、映画で直接描かれない「異界」のことである。
映画制作の層での主役であるはずの南のシーンが減って、小川のシーンが大きく広がったということがパンフレット等で監督から述べられている。
本来は「聖なるもの」= 映画の亡霊である南を撮ることに取りつかれた岩切の映画であったものが、3層目の実岩切と実小川層の関係のなんらかの影響を受けて映画の構想が変節したのでないか、と観客に邪推されるような映画の描写になっている。
果たしてそれが事実なのか、それともそれもただの映画のフィクションのひとつの層なのかは、観客には知り得ない。
ラストはそのうちの2層あるいは3層が融合してしまったかのような海の映像で幕を下ろしていく。
エンタテインメントとしての結構を崩して描かれた、カタルシスのない今回のラストシーン。その後のエンドタイトルで描かれた海のような羊水のような液体の映像は、爆笑の「松本」の家での謎の出産シーンとリンクして、観客がこの映画の胎道を通過して異界へと頭を出すところを想定しているのかもしれない。
我々は岩切監督の映画の胎内から、どういう現実という異界に生み出されたのであろうか。
最後にとても残念だったのは、特報のあの映像と曲が本篇で使われなかったことである。この特報から想起した僕の幻の大異界映画としての『聖なるもの』はいつ、映画の画面に描き出されるのでしょうか。監督、今後の作品も期待してます。(すでにtwitterによると、今作が描いた5月32日である、現実の6月1日に新たな岩切組作品がクランクインしたらしいので期待!)
◆関連リンク
・岩切一空監督『聖なるもの』 - Togetter
情報と感想のツィートをまとめました。
・【映画深層】「聖なるもの」は映画への片思い(4/5ページ) - 産経ニュース.
"前作の「花に嵐」もPOVの手法で撮られている。大学の映画サークルに入って初めてカメラを手にした主人公が映画に魅入られるまでを描いた作品だったが、「聖なるもの」では映画に魅入られたものの映画に選ばれない人を取り上げた。次は映画に選ばれなかった人がどうするかという話を、やはりPOVで撮れればと考えている。
「3部作なのかわからないが、それで初めて完結するのかなという気がする」と話すが、そのためには「聖なるもの」は極めて重要だと思っている。
「現実には、やりたいからやる、じゃできないときもある。それでもあらがえない魅力が映画や少女役の南さんにはあって、それに片思いをしてしまう。この映画のことを全然知らないけどふらっと映画館に入って、見てみたらよくわからなかったけどすごかった、みたいな状態になってくれるとうれしいですね」"
・映画『聖なるもの』感想と考察。岩切一空の向こう側の構造と系譜とは.
"それはスクリーンの光が“、母親の産道から生まれ出る先という向こう側”に見えたような気分がどうしようもなく沸き起こったのです。 胎内にいる赤ん坊のように、『聖なるもの』という映画(母体)から世の中に生まれ出たくなった出産の意志を抱かされました。 これは自分なりに観た印象なので、観客の多くが感じることではないかもしれません。"
・新時代の到来を感じさせる天才映像作家 岩切一空監督が新作『聖なるもの』を語る|CREA厳選! イケメン青田買い|CREA WEB(クレア ウェブ).
"――幼い頃に持っていた将来の夢は? ある日、雲を見たときから、羊になりたいと思っていました。もともと、豚などの四足歩行の動物が好きで。食べて、寝て、愛されて、草原にいる姿がとても幸せそうだったんですね。その後も、満員電車が苦手なので、普通の会社員になるのは難しそうだとは思っていました。
僕はゼロから1を作れる人間ではないと思っていて、そうすると自然に自分に蓄積されたものの組み合わせや好みを考えていくようになっていきました。編集や音の使い方などは、「少女革命ウテナ」や「新世紀エヴァンゲリオン」など、中学・高校時代に見ていたアニメからの影響が大きいです。"
・第58回日本映画監督協会新人賞は、『花に嵐』岩切一空監督に決定! - シネフィル
岩切監督、新人賞受賞ということでおめでとうございます。この賞って商業映画以外も対象になるのですね。大島渚に始まり錚々たる監督が受賞されていますね。
→ 日本映画監督協会新人賞 wiki
・Bonjour Suzuki - YouTube ボンジュール鈴木 楽曲
・当ブログ関連記事
感想 岩切一空監督『花に嵐』 と 「期待の新人監督2016」@カナザワ映画祭
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