■感想 スタンリー・キューブリック監督『2001年 宇宙の旅』IMAX , 2001: A Space Odyssey - 50th Anniversary
2週間限定公開の『2001年宇宙の旅』IMAXを、名古屋では唯一の上映館となったイオンシネマ大高で観てきたので感想です。
まずは映画を観終えて、「50年前の2001年」から現在の2018年に戻ってきて、感じたこと。
劇場の映像空間から、大高イオンに戻っても、LEDの光と21世紀のショッピングモールのリノリウムの床の空間は正に地続き(上の写真)。キューブリックとクラークは21世紀を50年前に幻視していたのをまざまざと実感。
というのはこの映画のひとつの側面にすぎないのですが、続けて映画本篇の感想です。少し回りくどいけれど、初めて観た時の印象から始めます。
4K/BD【予告編】『2001年宇宙の旅 HDデジタル・リマスター』11.21リリース & 10.19 IMAX上映 - YouTube
僕が劇場で『2001年 宇宙の旅』を観るのはこれで二度目。
1度目は1978年のリバイバル上映、白川公園横にあったシネラマ名古屋の巨大スクリーンであった。ずっと憧れていたSF映画の最高峰に触れるには最適な環境だったと思う。
実はその時の感想を細部については覚えていない。70mm上映だったかどうかも、、、。ネットで探ってみるとこのリバイバル上映は70mmと35mmの両方が使われていたらしい。巨大なシネラマの大画面用に70mmが使われたと想像しますが、、、。
その時の感想としては、期待が大きかったからか、映画の感想としては、「凄い ! 」の一言ではなかった。映像としての洗練、凄さは感じたけれど、SFとしての物語が(当時、SFにどっぷりはまっていたので)、実はいまひとつに感じられたのだ。
覚えている一番の点は、登場人物が人間らしくなくって(まるでファッション写真に出てくるモデルみたいで感情が感じられない。人の進化を描くのに、人間らしい矛盾した存在感が描けていないのは足りないのでは、)これで進化を描かれてもなぁ〜、というもの。(実はキューブリック映画にはこの時の印象がずっと尾をひいていて、全面絶賛にならない自分の気持ちがいますw)。
で、今回、通して観るのは5回目くらい、大画面で観ての率直な感想。物凄い数の論評がなされてきたこの映画に新たに自分が追加できる視点はほとんどないと思う、ので、率直な自分の感想を記しておきます。
この映画、今更だけれど、やはり映像の力が素晴らしい。画のバランス、隅々まで気迫のこもった未来描写。いずれも映像で象徴的に観客に400万年前から2001年の未来までを見せていく手腕がやはり素晴らしい。
例えば月着陸船とディスカバリー号内部の重力と無重力の描写。人が円筒の中に作られた重力の中で、観たことのない動作をするのをこれでもかと描いているが、まさにこうしたところに映像で新しい世界を観客に、ある種の驚きを体感させることでリアルに実感させることを狙った手法。
今では宇宙ものの定番描写になっているディスカバリー号が画面左から入ってきてて、カメラがその表面を舐めるように映し出す映像。これも、上に書いたのと同じく観客に映像の衝撃で未来を実感させる手法のひとつと言える。
どのシーンも実はそうしたことを隅々まで考えてキューブリックが設計した映像であることがとてもよくわかる。400万年前の人類の夜明けも。2001年の月世界も。そして木星からスターゲートと欧州家具で調度されたボーマンの部屋。
特に木星シーンから以降は、人類の進化を映画の時間軸で体感させるためにキューブリック(とクラーク)によって、同じく映像ショックで体感させるべく設計された映像なのではないか、と強く今回感じられた。
謎解きについては、クラークの小説、キューブリック自身のラストを語る言葉、そして多くの評論家、SF作家、ファンによって語られた言葉で、既にキューブリックの意図したところは、ほぼ解明されているのではないか、というのが僕の印象。
今後もこの映画が語られ続けるのは、映像としての素晴らしい構築力についてではないか、と思う。
今回、僕がもうひとつ感じたのは、月面のシーンとか、宇宙の暗黒空間をゆくディスカバリー、そして木星のシーンでの、音の演出と各カットの長さである。
真空の無音を限りなく意識した音設計。そして通常の映画と比べて恐ろしく長い各カットの時間である。
これにより感じられる静寂な印象がもたらす映画空間としての印象。
感情を排したように感じられた僕の初見の感想は、こんなところにもあるのかも、と思った。
ではなぜこうした静粛を狙った映像になっているのか。
もちろん宇宙の独特の空間を体感させる効果はある。しかし400万年前のシーンもラストのボーマンの部屋もそうした描写が際立っている。
どこか神の目の視点、ここではモノリスを作った異星の存在の視点を意識した描写ではないだろうか。静かに人類を眺めている存在の視点を隅々まで意識的に張り巡らせることで映画自体に異星人は登場しないが、見終わった時になぜか観客に残る人類と異なる存在の意識みたいな冷たい異質な感覚。
これをまさにキューブリックは意識的に描き出していたのではないか、というのが今回の鑑賞の一番の収穫だった。
今度は、この感覚の正体を、意識しつつ、もう一度、この映画を観てみたい。
初見の感想から40年経って、その古びていない未来幻視と映像の独特の感覚に浸って、いろいろと考えるところの多い映画体験でした。こんな機会を作ってくれた映画関係者に感謝です。
2001: A Space Odyssey - 50th Anniversary Trailer Comparison - YouTube
最後に、IMAX版の映像について。
これは今までのブルーレイ映像と70mmレストアの予告編映像を比較したもの。ブルーレイと比べて、アンレストア70mm版は、明るくて色味が黄色っぽく見えますね。
この比較映像と比べると、IMAX版は中間よりちょい70mmアンレストア版の色合いに近い感じだったかな。 でもIMAXで観ると、70mmフィルムの解像度は、IMAXのデジタル解像度(2Kなんですけど)に追いついてなく、細部がつぶれてる印象。違ってたらごめんなさい。
◆関連リンク
・【関連動画】『2001年宇宙の旅』アン・レストア70mm版と、デジタル処理されたBDとの比較動画 : KUBRICK.blog.jp
これをソースに同シーンをBDから抜き出してBD→70mmの順で比較した動画が一番上の動画ですが、けっこう印象が違います。当然キューブリックの意図は後者なので、後者を基本に考えるべきですが、BDを見慣れていると違和感も否めません。ただしモニターとスクリーンでは映像の投影方法が異なるので映画館で観ればこれとは印象は異なるかも知れません。
キューブリック関連の情報では日本最強のキューブリックブログさんの記事。
この他にも2001年に関する素晴らしい情報があふれていますので、是非ご覧ください。
・8K版「2001年宇宙の旅」、NHKが12月1日放送。70mmフィルムからフルレストア、世界初 - PHILE WEB.
NHKによると、70mmフィルムは8K並みの情報量を持つとのこと。「70mmフィルムのポテンシャルを十分に生かし切ることができる8Kでのテレビ放送は世界初」としている。 今回の8K放送はNHKが呼びかけ、現在作品を管理しているワーナー・ブラザースが、専門の作業チームに修復と8K化を依頼。「フィルムの傷などを丹念に修復し、すべての色彩を検証、細かく補正し、初公開時の映像と音声にできるだけ近づけるようレストアを行った」という。
これは是非観てみたい、録画して手元に残したいと思うのですが、8Kテレビが68万円、HDレコーダーが14万円。まだまだ高嶺の花で絶対自分では手が出ない値段ですね。
・ マイケル・ベンソン, 中村 融 訳, 内田 昌之 訳, 小野田 和子 訳『2001:キューブリック、クラーク』
“1968年、映画史に残る名作『2001年宇宙の旅』が製作・公開された。 スタンリー・キューブリックとアーサー・C・クラークという映画界・SF界の二人の天才の出会いから製作、公開までを克明に綴る。公開から50年、エポックメイキングな傑作の価値を再検証する”
2001年宇宙の旅 IMAX版の功罪 | シュウさんのブログ.
"最近観たアンレストア70㎜版とはまた違う印象を受けた。 70㎜では、想像以上にグレインが目立ち、いわゆる”荒々しさ”を感じたが、IMAX版は、きれいにレストアされた上品な印象だった。 ただ、IMAXの功罪を感じたのもまた事実。 「7人の侍」4Kリマスター上映でも感じた、ハッキリ見え過ぎる罪というか。 「7人の侍」では、カツラのラインがハッキリ見えてしまってたのだ。 今回の「2001年」IMAXでも、合成のズレによるチラツキとか、宇宙船から星が透けているとか、今まで気がつかなかった点がハッキリ分かってしまったのだ。 これは、IMAXならではの事なのか。 それとも、スクリーンの詳細さは今も昔も変わらず、単に私が気がつかなかっただけなのか…。 気になるところだ。"
大変に興味深いブログ記事です。
こちらで書かれている、窓の中のシーン(ステーションへのドッキング)のチラツキは、ハイビジョン放映版をうちのプロジェクター(120インチ)で観ても分かるので、IMAXというよりか、今回のIMAXの2Kデジタルの功罪でしょうね。
2Kでも既に解像度が当時の70mmを超えてる感が(画像のボケが気になる、ex. IBMのTele Padの文字が潰れているとか、いろいろ) あるので、8Kの意味があるか疑問を感じたりします。
・【町山智浩映画解説】映画史上最も難解な映画『2001年宇宙の旅』 - YouTube.
"町山智浩さんが、ほとんどの評論家が解釈を間違えたという『2001年宇宙の旅』の解説をしています。この『2001年宇宙の旅』は、町山さんが映画に関する文章を書くキャリアの始まりとなった映画だそうです。あの、淀川長治さん、荻昌弘さんも間違えたという、難しい映画の本当の意味とは?・・・・・・"
謎解き側面での2001年解釈の集大成的な町山氏の映画解読。とても興味深いです。
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