■感想 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『静かなる叫び』『灼熱の魂』
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『静かなる叫び』WOWOW録画初見。モントリオールで起こった銃乱射事件を描いた09年のヴィルヌーヴ長篇3作目の作品。
モノクロで描かれた乱射事件、過度のドラマ性は避けられ淡々とドキュメントのようにカメラが被害者と犯人に寄り添って記録され、まるでその現場に立ち会っているかのような感覚になる77分。
そしてエンディングのクレジットでは現実に亡くなった14人の女性の名前が一人一人挙げられ追悼の言葉が捧げられている。
ヴィルヌーヴ監督のベースにこうした社会派の作品があるのに何だか納得する一本。丁寧にそしてどこかクールに人間を描くヴィルヌーヴ演出はこうして作られた、という感じ。
途中、凄いと思ったのは、犯人の学生が車で現場へ向かうシーンで、画面が天地を逆さまにして、凍りついたケベックの川を映し出す。この心象風景の描写が素晴らしい。
天地が逆になるのは、他にも一シーン。惨劇後の学校のロッカーが並んだ通路を描いているところ。これは日常が裏返って生活空間が異様な光景を見せているシーンだけれど、こうした描写が素晴らしい。
続けてWOWOWで録りためていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の長篇第4作『灼熱の魂』初見。
内乱となったレバノン(とは本篇では述べられていない)の焦土に描かれる、ある家族の血の物語。
母親と双子の探索の旅がパラレルに描かれ、そしてだんだんと明らかになる真相。戦乱の地ゆえに起こった苛烈な現実の姿。しかしここでも前作に続いてその悲劇を過度な演出ではなく、事実の提示として描き、主人公たちの感情的なシーンはかなり抑えて描き出されている。
ところどころにインサートされる焦土と荒野のレバノンの土地が登場人物の心象風景として雄弁に観客に悲劇を想像させる手腕が見事。のちに『ボーダーライン』でそのドラマを最大限に盛り上げるその演出力はこちらでも既に本格的に結実している。
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