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2018.12.03

■感想 アリ・アスター監督『ヘレディタリー/継承』 : Hereditary


映画『ヘレディタリー/継承』30秒予告 YouTube

 アリ・アスター監督『ヘレディタリー/継承』@各務原イオンシネマで観てきました。
 確かに上手い、脚本も演出も高レベルで見事なホラー映画を見せてくれます。トラウマが残るとか、観客の現実を侵食してくるとか、事前のTBSラジオ アトロク(アフタ−6ジャンクション)等での評判で、期待を高く持ちすぎた/トラウマ残ったらどうしようと構えて観たので、そういう意味では後にそれほど残らず、凄く面白い映画を観たという鑑賞感で無事帰ってこれましたw。
 『女優霊』みたいに夜トイレに行くのが怖くなるのとは少し違ったかなw。



★★★★★★以下、ネタバレ注意★★★★★★ .




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 アトロクでライムスター宇多丸氏、三宅隆太監督が言っていた「アート映画」「ダウナー系」というのはまさに。特に家族のドロドロシーンは相当なレベル。あの食事のシーンで母と息子が言い合う所、家族で究極的に雰囲気の悪いどーんとしたシーンで、何故かお腹に答えます。いや凄まじい家族映画。

 素晴らしいと思ったのが、息子が学校で怪我をして卒倒するシーンとその後の家での母親の錯乱。そして二階にあるあるものから生じた蝿の羽音。まるで自分の周りに現れたような蝿の音で、観客までもが映画の中に/母親の錯乱に巻き込まれたような感覚。映像と音の競演でこの感覚を劇場に立体的に潜入させている様が素晴らしい。

 ここのテンションは、オカルトと現実のせめぎ合う、精神的疾患なのかどうかスレスレのところ、微妙な位置でギリギリ紙一重で鋭い刃物の上でバランスを取っているようなシーンで素晴らしい臨場感を味わえた。あのままのテンションで最後まで観客を狂気に巻き込んで突っ走っていたら凄まじい映画になっていただろうな、と夢想w。

 映画はその後、オカルトに突入し、祖母とその仲間の異様な世界を開陳して終わっていく。ここは賛否両論あるだろうけれど、僕は少しありがちな展開に見えて今ひとつだった。

 とはいえ、凡百の演出なら胡散臭くそしてゲロゲロな展開になるところを端正にまとめあげた手腕は素晴らしい。

 特にエンディングにかぶるジュディ・コリンズ「青春の光と影(原題: Both Sides, Now)」。あのラストシーンとこの歌で、映画の登場人物と観客は、カルトな側でハッピーエンディングを迎え、実はこの映画、ダークな幸福感とともに劇場を出るという稀有な体験ができるのでした。実はその時点で既にまんまと映画のダークサイドにある意味取り込まれてしまうわけです。我々は今、果たして本当に現実に戻れたのだろうか(^^;)。

◆以下、雑感。
・アート映画的なルックの生成に一役買っているのが、箱庭療法のような母親のミニチュア造形物と娘の人形。母親は箱庭療法からこうしたミニチュアを作るようになったのではないか、と想像できるし、娘もその影響を受けつつ、たぶん祖母の大きな影響で不気味な鳥の頭とか、奇異な人形たちを作るようになったと感じさせている。
・冒頭のミニチュアの使い方、随所に現実を恐怖の記憶が侵食していくような家族の不幸のミニチュア化。現実と幻想の入れ子構造がミニチュアと家族のウチで見事に映像表現されている。
「ヘレディタリー」はホラーではなく“嫌な家族映画”!? 町山智浩が別アングルから解説 : 映画ニュース - 映画.com.

"「『僕の家族にあることが起こった。そのことで傷ついた自分を癒やすために、物語を作っていったんだと思う。弟を大切にしていた……。それ以上は言わせないで』。"

 町山氏によると、監督へのインタビューで上記のようなコメントがあったという。まさに監督自身の家族の苦悩が映画ににじみ出ているということだろうか。
・映像としては、予告編にもあるカット割りが見事。例えば木の映像が夜から昼へ瞬間的に転移する。これは母親の夢遊病の病を、映像的に表現し観客に体感させる効果があるのではないだろうか。
・暗闇にカルトがぼんやりと現れるシーン、Jホラーからの引用にみえる。そこにいる存在の描写が本作、とてもうまいと思いました。
・音響のうまさも舌を巻きます。
 特にハエと舌打ちが劇場のどこかから聴こえる時、観客はトニ・コレット演ずる主人公 アニー・グラハムと同化して、狂気の淵を彷徨うのです。あれを1時間ほど徹底してやられたら、確かに狂気は観客を侵食していたことでしょう(^^;)。

 


Judy Collins - "Both Sides Now" - Hit Single Version - YouTube.

◆関連リンク
HEREDITARY (2018) | Behind the Scenes of Mystery Movie - YouTube
 メイキング動画。アリ・アスター監督の演出風景がみられます。
現代ホラーの頂点といわれる映画「ヘレディタリー/継承」の怖さを三宅隆太監督と宇多丸が力説
ヘレディタリー/継承 - Wikipedia
Hereditary (2018) Music Soundtrack & Complete List of Songs | WhatSong Soundtracks
【イベントレポート】町山智浩が「ヘレディタリー」語る「ホラーのふりをした、嫌な家族映画の集大成」 - 映画ナタリー.

"「アスター監督はもう2作目の撮影を終えてます。ベルイマンが生まれたスウェーデンが舞台らしいです。本人は、芸術映画をホラーの枠組で作っていきたいと言っていました。アリ・アスターに注目してください!」"

Ari Aster - Wikipedia.
 次回作 Midsommar (film) - Wikipedia

 

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