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2019.01.28

■感想 コーネル・ムンドルッツォ監督『ジュピターズ・ムーン』

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 ハンガリーのコーネル・ムンドルッツォ監督によるハンガリー・ドイツ製作の映画。ハンガリー国境からブタペストの都市部を舞台としたこの映画、僕はWOWOWの録画で、公開時のポスターイメージも予告篇も何も知らずに、タイトルのみの情報で、内容については真っ白な状態で観られたのですが、かなり意外な物語と映像で、是非、前情報なしで観られることをお薦めします。

 というわけで今回は冒頭の予告篇動画リンクも、記事の以下のネタバレ部分に置くこととします。

 とはいえ、これではどんな映画か全くご紹介できないので、ネタバレ回避しつつまずは全体のイメージ、感想をご紹介してみます。
 とにかく冒頭から急展開、あるとても印象的なシーンが開劇十数分のところで突然画面に開示されます。この映画的なインパクトは素晴らしい。僕が観たここ数年の映画の中でも1,2を争う印象的なシーン。
 この映像をメインアイデアに展開する映画の宣材はそのため必然的にネタバレになってしまうので、ポスターも予告篇もここで示すことができなくなるわけですね。

 シリア難民とヨーロッパの関係。それをある映像のマジックで、未来の姿/夢を見事に描き出した映画、というのが僕の感想。それにしても猥雑に進む構成のストーリーは、そんなゴールイメージを描き出すまでに、相当な迷宮に入っていく。その迷宮が難民とヨーロッパの関係そのものであるかのように。

 僕は学生時代に読んだ栗本慎一郎『ブタペスト物語』にて、ハンガリーのブタペストの魔術的で自由な空気に憧れたことがあったけれど、この映画のブタペストは移民に対して都市がその歪を受け止めきれず、昏い叫び声をあげているように見える。そんな陰鬱な雰囲気の街で描かれた微かな光の物語。

 極めてシリアスな現実問題を、映画だけが持ち得る表現で見事にスリリングにフィルムに定着させた傑作と思う。何も情報を事前に入れないで、観られることをお薦めします。






★★★★★★★★★★ネタバレ、注意★★★★★★★★★★★



 冒頭でのみ、タイトルになっている木星の衛星に関する文言がタイトルバックに映し出される。生命の可能性がある「エウロパ」についての説明である。
 この記述から、タイトル「木星の衛星」の意味は、本作のヨーロッパにおける主人公の奇跡を、エウロパに例えていると捉えられる。

 冒頭、狭い車室空間に満載された難民風の人々を見て、何故かシリアからの難民なのだろうと直感される。
 それに続く、船のシーン、まさにニュースで報道されたシリアの難民の様子の再現。そして銃撃と、血の浮遊を用いて印象的に描かれた主人公の突然の浮遊。


『ジュピターズ・ムーン』メイキング映像 - YouTube

 疾走する映像は、浮遊を神か天使の降臨のように見せて、神的なイメージを映像に焼き付けている。ここの説得力が映画全体を牽引していると言っても過言でない。

 上のリンクのメイキングのように作られた浮遊感は、この映画の見事なテーマの形象となっている。素晴らしい映画のマジックとなっている。
 僕がこの映画でよくわからなかった描写が1つある。
・浮遊の奇跡を見た訪問治療の患者二人が何故死ぬのか。
 このあたりをもっと丁寧に描いて、この神的な現象がヨーロッパの今後にどう影響をもたらすのか、そうしたところを具体的に描けていたら、もっと素晴らしいラストになっていたのでないだろうか。

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