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2019.12.09

■感想 ポール・シュレイダー監督『魂のゆくえ』(原題: First Reformed)


First Reformed - official trailer
 ポール・シュレイダー監督『魂のゆくえ』(原題: First Reformed)をAmazonで観ました(間違って字幕版でなく吹替え版をレンタル...)。
 イーサン・ホーク最高の演技とも評されているようだけれど、まさにそんな面持ちの力作。そして『タクシードライバー』の脚本家 ポール・シュレイダーが脚本、監督を務め、『ジョーカー』にも源流で通ずる作品。

 アメリカのキリスト教会が地球温暖化の環境問題に対してどうゆうスタンスを取っているか、不勉強で知らないが、これはまさにその問題に正面から挑んでいる。

 CO2による温暖化について、実は少し懐疑的な視点を持っている/いた。しかし欧州から伝わってくる向こうでの強い問題意識と日本の、彼我の違いはジワジワと染み込んできている。政府/メーカーの戦略があるのも確かだが、まさに住民の強いCO2削減意志が影響しているのは間違いない。

 そして今年、話題になったスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリのニュースに象徴される若者のムーブメント。2030年1.5℃上昇を招いてしまった後の加速度的な温暖化への危機感の強さは日本ではなかなか感じられない破滅の匂いを感じさせている。

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 本作は2017年に制作されたアメリカ映画であるが、おそらくベースとしている科学的な知見は上記ムーブメントと共通している(国連のIPCC報告)。しかし本作ではその急進的地球温暖化対策運動は狂信的なものとして描かれている。それが監督の意向そのものなのか、はたまた映画制作の資金的問題からかは分からないが、少なくとも映画の表面的な描き方はそのようなベクトルになっている。しかしそうしたテーマを取り上げていること自体から、本作の真意はCO2問題への真摯な視点を、キリスト教会的な立ち位置から提示したかったことなのだろうと思う。(セドリック・ジ・エンターテイナー(何たる芸名!) 演じる主人公の上司であるジェファーズ牧師が言う「ノアの方舟同様に神が与えたもう試練なのかもしれない」というのが中々に深い台詞である)

 劇中での主人公 エルンスト・トラー牧師が式典で企てていたことは物語の表面的流れからだけでは理解し難い行動である(一応の理由づけは描かれているが、、)。これは映画で伏せられている牧師が相談にのっていた男からのメッセージによるのか、それとも牧師本人の様々な要因なのかは定かでないが、そこは観客の想像力に委ねられている。

 そのイーサン・ホークの演技をがっぷり受けるのが、『ツイン・ピークス The Return』でシェリーの娘を薬物中毒のぶっ飛んだ演技でみせたアマンダ・サイフリッド。彼女の抑えた演技も本作の見どころの一つである。

 教会に現れてしまった「狂信派」の男の妻メアリーを見て、最後にトラー牧師が取る行動は、痛々しくも神々しい。現代の文明の呪縛そのものを描き出している本作白眉の映画的シーンだと思う。アメリカで本作は興行は振るわなかったが高評価だったとのこと。温暖化に対して、どのような受け止め方をされたのか、凄く知りたい所です。

 と書いてきたけれど、全体振り返って考えて見ると、シュレイダーは『タクシードライバー』と同じく、もしかしてCO2はどうでも良くって、牧師の狂気だけを描きたかったのか…!って気もしないでもない。そこら辺の微妙さが本作の魅力かもしれない。

◆関連リンク
TBSラジオ たまむすび アメリカ流れ者
 アメリカの福音派と地球温暖化の関係は、上記リンク先で町山智浩氏のコメントがありました。
 なかなか怖いけど、シュレイダーは、この映画でどこまでそれに批判的なのかは、いまいちぼやけてる気がする…。
先端をいくもの ~19年度映画回顧(4)~( Cape Fear、in JAPAN )
 Facebookの友人、牧野光永さんの19年ベストワン『魂のゆくえ』の感想です。

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