■感想 塚本晋也監督『斬、』
塚本晋也監督『斬、』WOWOW録画初見。
凄い作品でした。素晴らしい。
刀の鍛造シーンの鮮烈な映像からはじまり、ラストの森のシーンまで息を詰めて一気に見せられる80分。
まず塚本晋也の浪人が凄い。『七人の侍』の勘兵と久蔵を合わせて、さらにクールな残酷さを持たせた武士。まさに「斬」を体現した様な刃物の様な侍。
そして野党を演じた中村達也という役者の存在感も圧倒的。調べてみるとこの方、元はBLANKEY JET CITYのドラマーだったミュージシャンの方らしい。凄まじい凄惨な面構え。
物語の縦軸は農村を手伝う浪人が、幕末の江戸へ出立しようとするところに、野党が現れるところから動き始め、想像した物語が異様な形に変容する。変容の様の中で、主人公の池松壮亮と蒼井優の制御しきれない精神性が表出。
この二人の心的な描写が人の多面性を見事に描いていて、縦軸の物語に深淵をもたらしている。この横軸が実は映画のテーマかもしれないという表出。一旦、縦軸で構築された端正な物語が、この横軸で喰い破られていくダイナミズムと、森の静けさがこの映画を傑作にしているのだと思う。
まだ塚本監督作品は半分位しか観ていないけれど、僕には本作が今のところベストワンになりました。いや〜素晴らしかった。
映像としては手持ちカメラの特性がいかんなく発揮され、一旦これも端正に作り出された恐ろしくキレのある殺陣を、このカメラのブレが映画に幅を持たせている。
最後に本作の音楽、 塚本作品を多数手掛けている石川忠氏によるものだが、制作中に亡くなったため、塚本が編集し完成させたとのこと。魅力的な映像を見事に複層的な映画にしていたのは、まさにこの映画音楽によるものである。
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