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2020.05.11

■感想 マーク・チャンギージー、柴田裕之訳『ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文化を生んだ』THE VISION rEVOLUTION:How the latest research overcomes everything we thought we knew about human vision

Vision-revolution
『ヒトの目、驚異の進化』「視覚の進化革命」がここから始まった (文庫解説)
 進化神経生物学者のチャンギージーによる、人間の視覚の驚異についてのノン・フィクション。元の自身の学術論文から平易に図解含めて、分かりやすく不思議なヒトの視覚が述べられている。

 もともと視覚に強い関心があるので、4つの章立てで述べられる認知科学的な視覚の分析を、とても興味深く読みました。
 本書の興味深い観点は、以下の4章のタイトルに現れています。「感情を読むテレパシーの力」「透視する力」「未来を予見する力」「霊読する力」、ヒトの視覚が既に、テレパシー、透視、未来予知、霊視能力を持っていると書かれている、とだけ書くとトンデモ臭も感じられるでしょうが、本書はこの章タイトルで読者の興味をまず惹きつつ、丁寧にデータを挙げて、一つづつ視覚の不思議を説明していく。

◆ テレパシー
 視覚の色のスペクトル分析から始まり、ヒトの顔がその皮膚内部の血液量と酸素濃度によってフルカラーディスプレイとして感情等をコミュニケートする機能があり、それを繊細にとらえるために眼の3種の錯状体が進化して、黒白/青黄/赤緑の色彩を感知できる様になったと説明する。

 白人から黄色人種、黒人の色スペクトルが実はほとんど同一で、その微細な差を捉えるために、ヒトの眼はその周波数帯で繊細な感度を持っているとか、顔がディスプレイであるとか、刺激的。

◆ 透視
 眼が顔の前方に2つあるのは何故か。
 立体視のためと当然の様に思っていたが、そこに疑義を唱えながら(片眼でも風景の分析から脳が立体視は形作れる(つまり2D映画でも人は立体感を得られる))から真の2眼の目的(進化の淘汰圧)があるのでは?と問いかけて説明が始まる。

 森の中で行動するために、私欲仏の葉の間から前方を知覚するために、片眼の前にある障害物に対して、複数の葉の間隔からずれた位置でもう片方の眼が障害物の向こうの映像を捉え、脳内で2眼の複合された視覚を構成し、擬似的な透視能力を得ているのではないか、という論。

 この透視能力は今すぐ貴方も確かめられます。
 片方の眼の前に手の平を置いて、両眼で前方を観てください。手の平を「透視」して向こうの景色が見られますね(^^)。

 これもなかなかのコペルニクス的転換。
 頭の両側1mの位置にカメラを左右付けて、その映像を眼に映し出せば、車や街中の人々の姿も透視して、安全に前方の視野が得られるのではないかというアイデアも書かれていて、大変興味深い。

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 以前にヒトの目に上下を逆にした映像を映しても、人の視覚認識は少しの時間で慣れて、普通に行動できる様になる、という実験を観たことがある。この両側1mの、ペガッサ星人(上図左)かメタリノーム星人(右)という両眼が横に配置された様な新たなヒトの視覚形態も、すぐに慣れて、新たな「透視能力」がヒトに簡単に備わるのではないだろうか。(本書に従うと、ペガッサ星人とメタリノーム星人は、大きな葉の植物が群生している惑星の出身と推定できるw。)

 ARやVRデバイスの持つ、新たなポテンシャルがこうしたところからも拡大するかもしれない。

◆ 予知
 ここで述べられるのは、錯視の数々とそれらを統合して説明できる統一理論。

 簡単に述べると、視覚の認知が持つ0.1秒という遅れを補正して行動するため、「知覚の神経的遅れを先取りして埋め合わせ、前方への動きにおい て現在時を先取りするメカニズムを備えている」ことにより、その能力の副作用として、数々の錯視が説明できる、としている。

 錯視というのは、視覚認識系の研究で数々古来から研究されている分野とのことだが、ヒトが自身の視覚認識能力の不備を補うために、長い期間でそれを補う脳内の情報処理メカニズムを創り上げてきた(淘汰圧で)、というのが錯視で証明できるというのが、なかなかの眼から鱗の知見でした。

◆ 霊読
 ヒトは何故これほど素早く文字情報を読み解けるのか、という謎に挑んだのが、本章。

 多様な言語ごとの文字の画数とその形態の特徴分析から、チョムスキーの普遍文法ならぬ、文字の生成原理分析(視覚言語学と名付けている)を試みているのが、とても面白い。

 自然にある事物の形から、普遍的な文字の形を導き出して、それによりヒトの文字読解が「霊的」な速度で実行される原理を解き明かす手並み(下条信輔氏との世界93言語の文字の平均画数と文字総数分析)が素晴らしい。

◆ 付記
 映画や文学による人間の脳内イメージの形成の観点で、おそらく今後この視点は、アニメや実写映画評、はては小説の分析に援用されるのではないだろうか。

 個人的にはヒトの視覚の立体視(両眼の視差効果だけでなく多様な認知による)と、言語と意識の関係とか、VR/ARへの援用とか、いろいろと考え続けている究極映像研究テーマがあるので、そことつなげてこの研究者の知見は今後も注視していきたいと思っています(^^)。

◆関連リンク
ヒューマンファクトリーラボ human factory lab
Mark Changizi HP

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