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2020年7月

2020.07.27

■感想 湯浅政明監督『ピンポン The Animation』


Ping Pong the Animation [720p]
 湯浅政明監督『ピンポン The Animation』@ Netflix 初見。

 これは素晴らしい! 『日本沈没 2020』の余韻で観たのだけれど、こちらの方が数段上(というか、全然別物なので比較しちゃいけないんですが、、、)、湯浅作品では『四畳半神話大系』が自分的にはベストなんですが、それと並ぶくらい素晴らしかった。

 『ピンポン The Animation』は、何と10話全話が湯浅監督による絵コンテ(脚本はなくいきなり原作から絵コンテが切られているという)で、湯浅ワールド全開になっている。

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 シャープな絵コンテがまず素晴らしく、そしてそれを支えるキャラクターデザイン・総作画監督 伊東伸高氏以下のアニメーターの腕の冴え。
 松本大洋弱者の私は、原作未読なので、どの程度、松本タッチが活かされているか、全く推測するしかないのだけれど、恐らく原作のタッチと湯浅監督の感性が見事にクロスオーバーして、この素晴らしい映像が創造されたのだと思う。

 スタジオジブリが、幻想的なシーンがあると言ってもリアル描写に向かったのに対比して、ここにはアニメーションが持つ伸びやかな、人が描き出す絵だけが持つイマジネーションの広大な空間が広がっている。

Ping Pong Op - Tada Hitori (HD)

メレンゲ 僕らについて ピンポンED Ping Pong ED
 OPの絵コンテ・演出・作画監督を担当した大平晋也氏(原画には大平氏盟友にして『かぐや姫の物語』でも有名な橋本晋治氏が参加)、そしてEDを一人描きあげたという本作副監督のEunYoung Choi:チェ・ウニョン氏、このお二人のイマジネーションに挟まれた、縦横無尽に描かれた本篇の湯浅アニメーションの魅力に溢れた10本、今まで知らなかったことを悔いつつも一気見できた充実感を噛み締めています。

◆関連リンク
TVアニメ「ピンポン」特集、松本大洋×湯浅政明監督対談
湯浅監督が全話解説! 『ピンポン』無料配信特設サイトがすごい
ノイタミナクリエーターズインタビュー 湯浅政明

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2020.07.24

■感想 湯浅政明監督『日本沈没2020』


『日本沈没2020』 TVCM 30秒 - Netflix

 湯浅政明監督『日本沈没2020』第1話オワリノハジマリ、第2話トウキョーサヨウナラ、第3話マイオリタキボウ、第4話ヒラカレタトビラ、第5話カナシキゲンソウ、Netflix に復帰して観ました。

 冒頭から飛ばしますね〜。
 主人公家族の視点で急ピッチに情け容赦なく進む物語は、まるで、人が放水して砂場の蟻が右往左往する様に、観客も蟻の視点で体感するのみ。

 『DEVILMAN crybaby』や『きみと、波にのれたら』等にあった湯浅監督の冷徹な客観視点が、自然の前の非力な人の姿を描き出しています。

 全篇を映像化されることはない、と思われる漫画版『風の谷のナウシカ』も、Netflixが湯浅政明監督で企画すれば、ある意味軽々と映像化してしまうんじゃないかという演出力です。

 いえ、僕は庵野秀明監督でオーマの最期を観たいですよ、勿論。でもそんないつになったら完成するか分からないものを幻視するより、ほらそこに大きな可能性が近くにあるよ、って気が凄くしてしまっているのでした。

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 湯浅政明監督『日本沈没2020』第6話コノセカイノオワリ、第7話ニッポンノヨアケ、第8話ママサイテー、第9話ニッポンチンボツ、第10話ハジマリノアサ、観終わりました。

 素晴らしいクライマックスとエンディングでした。
 1973年に出版された原作を当時読んだファンにも、納得できる物語になっています。

 原作へのリスペクトにあふれた物語構成とテーマ。小松左京が本来描きたかった、沈んでヌクヌクとした島国から世界に出て行かざるを得なかった日本人の姿を、約50年後に描かれた本作は、多国籍化が進み、そしてダイバージェンスがより顕著になっている現在2020年を舞台にして、10話の中で見事に描ききっている。

 その想いは、作中のYoutuberであるKITEのラップシーン、主人公 武藤歩のエンディングの姿、そして最後を締める楽曲といった、隅々まで丁寧に描きこまれている。

 縦軸のディザスターのサスペンスと、日本人と世界の多様性の横軸が見事に、サイエンスSARUのイメージを縦横無尽に表象するアニメーションによって、現代の小松左京の「日本沈没」を描き切っている。

 見事な快作でした。次は古川日出男原作の『犬王』。楽しみでなりません。

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2020.07.22

■感想 「ガラスの変貌 Part IV」展 @多治見市文化工房 ギャラリーヴォイス

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 真ん中から、小林千紗 氏、 津守秀憲 氏の作品。

「ガラスの変貌 Part IV」展 @多治見市文化工房 ギャラリーヴォイス

"期間:2020.6.27 sat-8.9 sun 
出品作家:
沖文(Aya Oki)、勝川夏樹 (Natsuki Katsukawa)、神代良明(Yoshiaki Kojiro)、小林千紗 (Chisa Kobayashi)、小山敦子(Atsuko Koyama)、佐々木雅浩(Masahiro Sasaki)、津守秀憲(Hidenori Tsumori)、横山翔平(Shohei Yokoyama)

ガラスによる造形表現に焦点を当てたシリーズの4回目。活躍するガラス作家8名の作品を展示します。
時間: 10:00~18:00 ※最終日は15時まで
場所: 多治見市文化工房 ギャラリーヴォイス"

 近いので展示会のたびに訪れる多治見の街の中にある、無料で閲覧できる静かなギャラリー。
 今回は、陶磁器ではなく、ガラスによる奇妙な造形が気持ちいい展示会でした。

 いくつか写真でご紹介します。
 ここは撮影も可なので、立体造形物の3D写真、3D動画を撮るには、ありがたい展示会です。

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左から、勝川夏樹小山敦子横山翔平 氏の作品。

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左から、勝川夏樹 横山翔平 氏、佐々木雅浩 氏 の作品。

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左から、佐々木雅浩 氏 、沖文 氏、横山翔平 氏の作品。

 平面写真では今ひとつ、造形物の全容が伝わらないかもしれない。
 どれも形といい、風合いといい、素晴らしかったのだけれど、僕が特に好きだったのは、佐々木雅浩 氏の銀色の球体が幾つも繋ぎ合わさった作品と、横山翔平 氏 の深緑色のガラスが飴細工の様にうねっている作品。

 どちらも、ずっと見ていても飽きない、味わい深い、奇妙な造形で、素晴らしかったです。

◆関連リンク
当ブログ ギャラリーヴォイス展示会関連

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2020.07.15

■情報 マルチメディア展開 劉慈欣『三体』『三体II:黒暗森林』舞台化、ファンメイド映像

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The Three-Body Problem II: Dark Forest
Beijing Poly Theatre

"Project Characteristics of The Three-Body Problem
Adapted from the First Hugo Award-Winning Work in Asia-The Three-Body Problem
A science fiction enlightenment in the history of Chinese drama
Naked Eye 3D Technology
A Multimedia Special Effect Feast"

 北京で2019年に開催されたPhilippe Decouflé演出、Lotus Lee Drama Studioによる『三体』『三体II:黒暗森林』のステージ化。
 マルチメディアによる裸眼3Dを実現しているとのこと。どんなものなのか観てみたい。

 ネット検索すると一部動画と舞台写真が見られるので、以下ご紹介。 
Lotus Lee Drama Studio(Facebook)
  ここにある予告編映像が素晴らしいです。劉慈欣『三体』ファン必見!!
 映像と舞台のプロップを見事に使った三体映像が現出している様です。

 日本でも観てみたいですね。中国で三体をステージ化しているLotus Lee Drama Studioによるマルチメディア舞台の予告篇映像。
 あの名場面、そして三体世界の恒星の動きを舞台上で展開(以下写真引用の右下。よく見ると気球とミニドローンを組み合わせて惑星の自由な動きを作り出している様です)。

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Lotus Lee Drama Studio
'Three Body Problem' novel hits the stage in play
'Three-Body' trilogy book gets drama treatment
China set to become the brightest sci-fi star
 『三体』の舞台化についての記事。上記画像の引用元です。

◆ファンメイドフィルム
 上記舞台ほどの完成度ではないですが、ファンメイドもなかなか微笑ましく頑張っています。

My Three Body "Dark Forest" Theme Song - Music Video (English Subtitles)
 『三体II:黒暗森林』のテーマソングMV(^^)。マインクラフト的映像で、『三体』と『三体II:黒暗森林』のあの名場面が映像化されていますww。ネタバレ、ご注意ください。世界での『三体』人気の一端。


My Three Body Season 3 - Episode 8
 20分にわたって、『三体II:黒暗森林』のあの戦闘シーンを映像化。ネタバレ注意!!

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2020.07.13

■感想 劉慈欣『三体II:黒暗森林』( 大森 望 , 立原 透耶 , 上原 かおり , 泊 功 訳 )

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 劉慈欣『三体II:黒暗森林』、読了。
 前作にも増して、骨太で壮大なストーリーと、大ネタ小ネタとつるべうちのSF奇想アイデアの数々を堪能。
 
 前作に続くストーリーは、四百数十年後の三体星人による地球侵略艦隊の到着へ向けて、迎え撃つ地球側のストーリーを中心に進む。
 とりわけ面白いのが、三体人の独特のコミュニケーション能力に対抗して、取られる地球側の前代未聞の面壁計画(ウォールフェイサー・プロジェクト)で選出される四人の面壁者と呼ばれる主人公らの対応策。ここのコンゲーム的な筆運びは本書のエンタテインメント性の多くの部分を負って、優れたリーダビリティをもたらしている。面白くてページを繰る手が止まらないといった状態。上下巻670ページ余りを一気に読ませる筆力である。

【発売中】劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』訳者・大森望氏あとがき

" インタビューなどで、往年の〝大きなSF〟に対する偏愛を隠さない劉慈欣だが、《三体》三部作には、クラークやアシモフに代表される黄金時代の英米SFや、小松左京に代表される草創期の日本SFのエッセンスがたっぷり詰め込まれている。こうした古めかしいタイプの本格SFは、とうの昔に時代遅れになり、二一世紀の読者には、もっと洗練された現代的なSFでなければ受け入れられない──と、ぼく個人は勝手に思い込んでいたのだが、『三体』の大ヒットがそんな固定観念を木っ端微塵に吹き飛ばしてくれた。黄金時代のSFが持つある意味で野蛮な力は、現代の読者にも強烈なインパクトを与えうる。それを証明したのが『三体』であり、『黒暗森林』『死神永生(ししんえいせい)』と続くこの三部作だろう。『三体』がSFの歴史を大きく動かしたことはまちがいない。"

 本書に感じるのは、まさにSFを読み始めた頃の、小松左京や光瀬龍、そしてクラークやスタニスワフ・レムといった往年のSFの巨匠たちの、宇宙を舞台にした巨視的な骨太の"大きなSF"の、堂々たるセンスオブワンダー溢れる物語への興奮である。

 特にネタバレになるので詳しくは書けないけれども、クライマックスのある面壁者の透徹した思考の果てに生まれた秘策を巡る、宇宙知的生命の活動を総括的に、そして俯瞰で眺める視点が素晴らしい。フェルミのパラドックスの一つの解の提示なのだけれど、それが恐ろしくペシミスティックで、宇宙の真空の広大な空間を感じさせるこの部分の筆致には震えました。

 前半の理想の仮想女性、後半の大宇宙戦闘シーン、そして『銀英伝』や『2001年宇宙の旅』と言ったアニメ系映像系SFファンを引き込む、というか劉慈欣友達だね的ネタとか、嬉しくなる様なまさに骨太なSFであり、SF映像である本作、日本の読者も大いに楽しめる傑作だと思う。前作にもましてお薦めです。
 
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◆関連リンク
・当ブログ関連記事
 ■感想 劉慈欣『三体』( 立原 透耶 翻訳監修, 大森 望, 光吉 さくら, ワン チャイ訳 )
 ■感想 劉慈欣原作、郭帆監督『流転の地球(さまよえる地球) : The Wandering Earth』

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2020.07.01

■感想 若松節朗監督、伊藤和典,長谷川康夫脚本『空母いぶき』


『空母いぶき』第二弾予告映像【90秒】

 若松節朗監督、伊藤和典,長谷川康夫脚本『空母いぶき』WOWOW録画初見。

 これはSFX、アニメ界隈であまり評判になっていなかったけれど(僕が知らなかっただけか)、なかなか迫力の戦闘アクション映画になっていた。シナリオの伊藤和典氏の功績なのか、『パトレイバー』や『シン・ゴジラ』の成果を踏まえて、真面目に自衛隊初の「防衛出動」を丁寧に描いた佳作になっていると思う。

 そして現代の兵器による海上戦闘アクションが映える。ミサイルや魚雷の最先端の軍事技術については全く暗いので、どの程度、リアルなのかは分からないけれど、その戦闘シーンはなかなかの迫力だったと思う。

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 原作は時々喫茶店で掲載誌をパラパラと見た程度しか(ほとんど何も)知らないのだけれど、敵国が中国に設定されていて、きな臭い印象が強かった。それに対して、映画は、架空の国家「東亜連邦」を敵として描いているために、より純粋に自衛隊の戦闘問題を集中して描けていて、興味深い。

 もちろん現実に戦争は起きて欲しくないけれど、戦争映画にはワクワクしてしまう。いつまでも架空シミュレーションとしての戦争映画を楽しんでいたいのだけど、この映画は現代の自衛隊の戦争シミュレーションとして特上のものかもしれない。

 一部では評判の悪い、あまりストーリーに絡んでこないコンビニシーンも、伊藤和典脚本のコメディパートとしてみれば、緊迫したシーンが連続する本篇と対比して、平和で脳天気な日本を描いていて、なかなか愛着が湧くのである。

◆関連リンク
かわぐちかいじ原作、初の実写映画化!『空母いぶき』浅野秀二(VFXプロデューサー)インタビュー
 IMAGICAの浅野秀二氏のインタビュー。なかなか興味深いです。

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