■感想 劉慈欣『三体II:黒暗森林』( 大森 望 , 立原 透耶 , 上原 かおり , 泊 功 訳 )
劉慈欣『三体II:黒暗森林』、読了。
前作にも増して、骨太で壮大なストーリーと、大ネタ小ネタとつるべうちのSF奇想アイデアの数々を堪能。
前作に続くストーリーは、四百数十年後の三体星人による地球侵略艦隊の到着へ向けて、迎え撃つ地球側のストーリーを中心に進む。
とりわけ面白いのが、三体人の独特のコミュニケーション能力に対抗して、取られる地球側の前代未聞の面壁計画(ウォールフェイサー・プロジェクト)で選出される四人の面壁者と呼ばれる主人公らの対応策。ここのコンゲーム的な筆運びは本書のエンタテインメント性の多くの部分を負って、優れたリーダビリティをもたらしている。面白くてページを繰る手が止まらないといった状態。上下巻670ページ余りを一気に読ませる筆力である。
" インタビューなどで、往年の〝大きなSF〟に対する偏愛を隠さない劉慈欣だが、《三体》三部作には、クラークやアシモフに代表される黄金時代の英米SFや、小松左京に代表される草創期の日本SFのエッセンスがたっぷり詰め込まれている。こうした古めかしいタイプの本格SFは、とうの昔に時代遅れになり、二一世紀の読者には、もっと洗練された現代的なSFでなければ受け入れられない──と、ぼく個人は勝手に思い込んでいたのだが、『三体』の大ヒットがそんな固定観念を木っ端微塵に吹き飛ばしてくれた。黄金時代のSFが持つある意味で野蛮な力は、現代の読者にも強烈なインパクトを与えうる。それを証明したのが『三体』であり、『黒暗森林』『死神永生(ししんえいせい)』と続くこの三部作だろう。『三体』がSFの歴史を大きく動かしたことはまちがいない。"
本書に感じるのは、まさにSFを読み始めた頃の、小松左京や光瀬龍、そしてクラークやスタニスワフ・レムといった往年のSFの巨匠たちの、宇宙を舞台にした巨視的な骨太の"大きなSF"の、堂々たるセンスオブワンダー溢れる物語への興奮である。
特にネタバレになるので詳しくは書けないけれども、クライマックスのある面壁者の透徹した思考の果てに生まれた秘策を巡る、宇宙知的生命の活動を総括的に、そして俯瞰で眺める視点が素晴らしい。フェルミのパラドックスの一つの解の提示なのだけれど、それが恐ろしくペシミスティックで、宇宙の真空の広大な空間を感じさせるこの部分の筆致には震えました。
前半の理想の仮想女性、後半の大宇宙戦闘シーン、そして『銀英伝』や『2001年宇宙の旅』と言ったアニメ系映像系SFファンを引き込む、というか劉慈欣友達だね的ネタとか、嬉しくなる様なまさに骨太なSFであり、SF映像である本作、日本の読者も大いに楽しめる傑作だと思う。前作にもましてお薦めです。
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