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2020.10.19

■感想 ヴァーツラフ・マルホウル監督『異端の鳥: Nabarvené ptáče / The Painted Bird』


映画『異端の鳥』日本版予告/10月9日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国公開

 ヴァーツラフ・マルホウル監督『異端の鳥: The Painted Bird』、名古屋伏見ミリオン座で観てきました。

 これはどすんと腹に堪える映画。『ニューシネマパラダイス』の主人公トトに似た少年がたどるこの世の地獄。戦争の冷徹な悲劇を描く映画は数あれど、これはその中でもかなりの悪夢。物語性を排した語り口が、ずしりときます。

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 画像は原作『Nabarvené ptáče / The Painted Bird』の表紙。

 チェコ・ウクライナの映画とのことだけれど、インタースラーヴィクという人工言語が使われているとかで、異世界感があるが、美しいモノクロの見事なカメラワークで切り取られたのは、紛れもないこの地上の地獄。

 同じく地獄めぐりということから、ストルガツキー兄弟「神様はつらい」を原作とした、アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』を想起。モノクロ、ドキュメンタリータッチという共通点がある両作、観客の追体験性としての狙いが恐らく近似だからなのだろう。

 この人生の地獄、体感したい方は是非劇場で。僕はこの映画、万人にはとてもお薦めできませんが、年間ベスト級の傑作と思います。
 今年、コロナで新作を映画館でほとんど観えていないですが、僕は『パラサイト』より(こちらも大好きでしたが)良かったです。タルコフスキーが撮った過酷映画的面持ちです。

 

 以下、ネタバレを含む、監督による本作へのコメント。観終わってから、読んでみてください。

『異端の鳥』監督が語る、発禁書を映画化した理由 ( i-D )

"「映画の少年は、あらゆる子どもの象徴なんだ。苦しみ、殺され、虐待されている子どもたちの。わたしはユニセフで働いていたから、そういった子どもたちを実際に目にしてきた。この映画にはいろいろなメッセージがあるが、もっとも大切なのは『二度とこういうことを起こすな』ということだ。残念ながら、今もこういった状況は続いている。だが、この映画を見た人が、それを知って、彼らを救おうと思ってくれれば、この映画を撮った意味がある」"

 ヴァーツラフ・マルホウル監督、ユニセフに勤められていたことがあるのですね。そうした視点での映画と見ることもできます。

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 僕は後半の少年が変容して行ってしまうところ、なぜか浦沢直樹『MONSTER』のヨハン・リーベントの少年時代を見ている様な、悪魔の誕生の様に観えたのですが、一瞬ラストで光の様なものが見えるので、気のせいなのかもしれません。

 『MONSTER』のヨハンが、絵本『なまえのないかいぶつ』の怪物と自分を重ねるわけですが、確かチェコ出身ということで連想してしまったのかもしれません。

『異端の鳥』監督が語る、作品に込めた思い 「深いところで心に触れるようなものにしたかった」

"アートというものは本物の感情を喚起させることができるもの全てだ。映画に限らず、音楽も、本もそう。本作がそういうものになれば嬉しいね。"

◆関連リンク
Václav Marhoul ヴァーツラフ・マルホウル監督(IMDb)

イェジー コシンスキ / Jerzy Kosinski 『ペインティッド・バード』 (Amazon)
 原作の翻訳本は、2011年に出版されていますが、現在はプレミア価格が付いていて、何と5千円超。映画で高騰してしまっているのかも。

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