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2020.11.30

■感想 MTJJ木頭監督『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』


『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』アクションシーン

 MTJJ木頭監督『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』@ミッドランドスクエアシネマにて観てきました。

 アトロクにて、スーパーアニメーター 井上俊之氏の大絶賛を聴いて、これは観るしかないととても楽しみに観たわけですが、期待にたがわぬ大エンタメ作で楽しめました。

 話の展開ももちろん作画も素晴らしい出来。
 ただ、井上氏が大絶賛したアニメーションの完成度は、確かに凄いとは思いましたが、とは言え、井上氏が言うほど、日本のアニメが作画面で負けていると言う感じまではしませんでした。(アトロクの井上コメントを聴き直すと、アクションの作画シーンは日本でも近いものはあるが、映画のエンタメとしての完成度とアニメ制作のあり方で、どちらかと言うと日本は突き放されているのでは、と言うコメントでした)

 作画面ではアトロクで監督のMTJJ氏のメールの回答として、5人いる作画監督のうち、筆頭の「馮志爽(フーシーソウ)氏の功績が大きい。どのシーンも彼が最初にレイアウトを描き、動作の幅が大きい場合は何枚か描くこともありました。そして原画や第二原画の段階でも彼によるチェックと修正が入っています。つまり彼なくしてこの作品は成り立たなかったということです」とコメントされている。

 統一された映像は、この馮氏の功績であるとのこと。しかし信じられないのは、本当に一人の作画監督で全シーンレイアウトと作画のトーンを合わせるための第一第二原画修正を実現できるのか、と言うこと。これはおそらく宮崎駿監督全盛期でもできていないレベルの仕事量なのではないかと。

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 僕が思ったのは、アクションシーンとそれ以外のシーンの統一感があるかと言うと、絵柄がかなり違う印象を持った。特にアクションシーンでのデフォルメ描写は、日常シーン/ギャグシーンの漫画的デフォルメ(眼が星になったり,三頭身になったり)とは明らかに異なり、リアル系の迫力を出すためのデフォルメ描写だったから。

 そこから考えると、おそらくアクションシーンは全篇が馮志爽氏の手が入っていて、もしかするとそれ以外のシーンは別の4作画監督に任せられていたのではないかと言う推測です。この辺りは今後の情報と分析研究を待ちたいものです。

 そのリアルにデフォルメされたアクションシーンですが、世に言われている松本憲生氏の『NARTO』等のアクションの影響は、僕もすぐ想起しました。スピードは観客が見える極限まで速く、しかしアクションのロジックはきっちり描くこと、と言う監督が定めたラインがうまく表現されていると思いました。

 ただ、本当にどう描いてるんだろうという、何度もコマ送りしたくなるようなシーンは数箇所だった記憶。これは何だ! ってところは真ん中より少し前にあった記憶です。サムネイルで引用したアクションシーン抜粋動画には残念ながら入ってません。

 冒頭に引用した動画のアクションシーンから、コマ送りして観てみると、上記コマ送りで作成してみた画像の右下の数字(各画像の連続するコマ数)を確認いただきたいが、派手な動きのシーンは、全てコマが1-3コマで任意に、動きに応じてコマ数が変えられていることがわかる。

 コマが2-3コマと続くところでも背景は全コマ少しづつ移動されているので、そこは全コマ背景画像は動いているが、手前の人物作画は1-3コマ打ちになっている。このコマの数を任意に変えるのは、日本のアクションアニメのお家芸だが、しっかりとこの中国アニメにDNAが伝わっていることがわかる。

 最後に特筆したいのは、映画の厚みをさらに押し上げていた音響の厚みの素晴らしさです。ミッドランドスクエアシネマは、名古屋でもかなり音響が立派な映画館なのでそれが良かったこともありますが、音響のきめ細やかさとダイナミックさが映画に深い厚みを加えていたと感じました。

◆関連リンク
・当ブログ記事 ■ガイキングオープニング 金田伊功の作画の進化
 日本のアニメアクションの代表的アニメーター金田伊功さんの後期の作画。今回と同じように各コマの右下にコマ数を明示したもの。
 馮志爽(フーシーソウ)氏作監による上記作画と比べると1コマ打ちのシーンが続いたりして、よりダイナミックなメリハリが強調されているのが判る。この辺りが、『羅小黒戦記』の作画の快感が、まだ金田伊功レベルまで上がっていない理由と思うのだけれどどうだろう。

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