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2021年3月

2021.03.31

■感想 クロエ・ジャオ監督『ノマドランド』


『ノマドランド』予告編

 クロエ・ジャオ監督『ノマドランド』@ イオンシネマ各務原で観ました。公開初週の土曜夜だったのだけれど、観客は両手に余る位で残念でした(コロナ禍ではありがたかったけれど、、)。

 静かな、インパクトのある作品でした。多くを語らず表情でじわりと伝える主演のフランシス・マクドーマンド、とても良かったです。『ファーゴ』『スリービルボード』に続き、三度目のアカデミー賞を取るかもしれません。

 車上生活のノマドとして、雄大なアメリカ大陸を旅する高齢者ノマドワーカーたち。経済的な閉塞感の一方で、いろんな社会のくびきから解放されたノマドたちが自由に大自然を呼吸する姿が素晴らしい。

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 セリフを極力廃して、無言/無言語で自然の中を歩く主人公ファーンの佇まいが美しい。これは押井守がヒトに対比して描く動物の姿に近いかもしれない。言葉でない感覚で自然に触れる姿は、資本主義の行き着いた現在の姿の格差社会等の大きな課題を突破する何らかのきっかけなのかもしれない。(うまく表現できていなくて、誤解を招きそうな言い方だけれど、ご容赦ください)

 もっと雄大な自然を美しく撮ることもできただろうけれど、その姿はどこか燻んで荒廃の様を見せる。しかし解放的な空気感が伝わってくるカメラがとても良い。

 主要登場人物は、主役の二人以外、本物のノマドワーカーの一般人とのことだけれど、それによるドキュメンタリー的な何とも言えない実在感が見事。

 監督の北京生まれのクロエ・ジャオは、既に今年公開予定の(本来は20年公開予定だったとのこと)、マーベルスタジオの『The Eternals』を撮り上げているらしい。それにしてもMCUを率いるケヴィン・ファイギの新人起用の選択眼は鋭すぎます。

 プロの俳優ではなくリアルな人々を登場させる作風が、MCUのヒーロー映画でどう機能するか、物凄く楽しみになってきました。リアルなヒーローが出てきたら、、、、w。

◆関連リンク
『エターナルズ』(Eternals) 
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2021.03.29

■情報 ポピー ジャンボマシンダー 恐怖の悪魔軍団 マジンガーZ ガラダK7 フィギュア

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希少 ポピー ジャンボマシンダー 恐怖の悪魔軍団 マジンガーZ ガラダK7 ダイナミックプロ 東映動画 現状品
 何とこのフィギュア、21.3/27に1000万円で落札されたとのこと!
 マニアの世界は凄いですね!Q&Aをみると出品者さんの驚きがリアルで、これは本当かもと思えてきますが、真相やいかに…(^^)?

 それにしても「ヤフー簡単決済」で1000万円って取り扱えるのかなw??
 以下、とても貴重なフィギュアの写真です。ヤフオクからの引用です。
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 ということで、このフィギュアについて、いくらかネット情報から確認してみると、、、、。
 どうやら、このフィギュア、本当に実在されるかと言われていた逸品らしい。

幻のマジンガーZ敵ロボット「ガラダK7」のフィギュア!!海を越えてアニメ大好きベルギー人が3Dプリントで再現してみた!!
 このリンク先をみると、その辺りの状況と、本当に貴重な逸品ということがわかります。

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「キーワード:ジャンボマシンダー」の検索結果(まんだらけ)
 そしてまんだらけでは、上記事情を勘案してか、買取価格が何と1千万円。

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ジャンボマシンダーのガラダK7のジャンク品で、その落札価格は5,251,000円
 数年前のヤフオクでカマなしで500万円、というのはどうやらこれみたいですね。


Garada K7 Jumbo Machinders, figura de acción imposible de conseguir

 スペイン語の動画に、ガラダK7のCM映像!1番最後の辺り。
 まさに世界で貴重な逸品とされていることがわかります。
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RARE JAPANESE TOY GOES TO AMERICAN COLLECTOR

 2006年に石川県の女性がゴミの中から見つけてオークションに出品したガラダK7は170万円で落札…とか書いてありますね。

 同じヤフオクで日本沈没(73年版)の深海潜水艇わだつみ 6500円をいつも眺めて入札すら出来ない自分の小ささが嫌になりますw。
 にしてもマジンガーZにそれほど思い入れのない私は、事情を知らずこのフィギュアだったら、1000円でも落札していなかったでしょう。物の価値というのは、不思議な物です。

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2021.03.24

■写真レポート リトルワールド 特別展「こわいモノ」


リトルワールド「こ・わ・いモノ」篇
 近所の愛知県犬山市「リトルワールド」へ久々に、"1日世界一周" 行ってきました。コロナ禍で遠出はできないけれど、近場で世界一周気分が味わえるここは、今最高かも(^^)。ということで春の気候の良い天気で、まあまあ混んでましたが、大部分が屋外なので三密の心配はありません。

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 特別展「こわいモノ」というのがやっていて、民族学的な怖いものを展示している特別展があり、その冒頭に飾られた「大威徳明王 ヴァジュラ・バイラヴァ」、ネパールから運ばれた3.3mの像が素晴らしかったです。全体の力強さと、細部の造形の見事さ。そしてなりより呪われそうな形象の迫力。

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 文化人類学的展示もリニューアルされていて、上の写真のように広大なホールに世界の彫像等が見事に展示されています。
 大阪の国際民俗学博物館に近い仮面コレクション他、迫力でした。
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 そして屋外は世界の多様な街並み、建築が一同に介している。
 ミニミニ世界旅行気分も楽しいのだけれど、それぞれの国の建物等、ここを使った映画ロケとかも良いのかもしれないなぁとのんびり散策してきました。
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2021.03.22

■感想 アリ・アスター監督『ミッド・サマー』


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 アリ・アスター監督『ミッド・サマー』WOWOW録画初見。
 前作『ヘレディタリー/継承』もでしたが、この監督の趣味の悪さは天下一品ですw。今回も、ストーリーも映像もそしてテーマも黒い黒い。気分が悪くなることは保証できます。映像の一部美しさは素晴らしいですが、僕はこの路線が続くんだったら、興味はあってもあまり積極的に観たい監督ではないかも。

 多分に自分の実体験が導入されているらしいけれど、恋愛関係の不安定な状態を描くところも、スウェーデンの白夜の下の、コミューンの独特の生態にしても、どこか不自然さが漂う。前者は昨年のチャーリー・カウフマン監督『もう終わりにしよう』の深さはなく、後者も薄っぺらでとてもこのコミューンが数十年も社会として維持される感じがしない。要は実体験の負の経験を、異常な環境下で映像化しているということで、そのリアリティよりも異常さの描写に重点があり、人の心的な組み立てがどうにも自分には合わない感じ。加えてグロテスクなショック映像がさらに気分を悪くさせ、、、、。
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 とはいえ、映像的にはなかなかシャープで、そして面白い部分もある。特に僕が面白いと思ったのは、ダンスシーン等で表現されていた異界が覗くように、花々がグニャリと空間が歪んだような、活きて動いているようなシーン。幻覚であるという設定のシーンだと思うけれど、ここの表現はなかなか見物。

 とはいえ、全体としては気持ち悪さが先に立つ、とやはり書きたくなってしまう。それでも次回作、きっと観てしまうんだろうな、、、とは思いつつも、、、、w。

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2021.03.17

■感想 フレッド・マクロード・ウィルコックス監督『禁断の惑星』


Craig Barron on the Technology of "Forbidden Planet"
 フレッド・マクロード・ウィルコックス監督『禁断の惑星』、NHK BSプレミアムでハイビジョン放映されたのを録画見しました。

 冒頭の電子音楽からしっかり50年代SFの世界に浸れました。素晴らしい映像とストーリーと深遠な異星人テーマ。これはやはりSF映画の金字塔ですね。
 ジェームス・キャメロンがリメイクしたかったという情報がはるか昔にありましたが、僕は今でもキャメロン版が観たくてたまりません。

 21世紀の終わりに月面着陸したという設定のもう一つの人類の、22世紀の宇宙物語。電子音楽にもクレル星人の音楽という設定があったり、もちろんロボットロビイのロボット法3原則もクレルの32kmに及ぶ地下エネルギ施設も、そして"イド"の怪物も見事なSFのセンスオブワンダーを体験させてくれます。

 そして今の時代からはリアリティのない人間関係/恋愛シーンも、50年代の雰囲気を醸し出しているというか、22世紀はもしかしたらこんな人間関係もw、とか思わせてくれたり、、、(嘘)。

 リンク先は、今回検索して見かけたミニチュアとプロップ、そしてクライマックスのイメージスケッチ(ウォルター・ピジョンの"イド"が!?)を写した貴重な動画。

 今回見直してプロップとかセット、ロビイのデザインの統一性とか、ロビイのディーテールの素晴らしさに感嘆としたのでした。

 この名作をハイビジョン放映したNHKには感謝です。
 (映像的には35mmフイルムからのハイビジョン化としては何だか少し画素が荒い感じでしたが、、、(^^))

◆『禁断の惑星』関連動画
 Youtubeにメイキングは見当たりませんが、関連のドキュメントがいくつかありましたので、ご紹介します。ファンにはたまりません。


Film Histories Episode 18 - Forbidden Planet
 こちらのドキュメントも良いですね。
 ロビイは映画制作費1.9ミリオン$の7%を費やしたとか、2017年にオークションで5.3ミリオン$の値がついたとか。アン・フランシスのミニス カートはハリウッドで初だったとか、なかなか興味深いです。


Forry Ackerman introduces William Malone and Robby the Robot from Forbidden Planet
 フォレスト・アッカーマンとウィリアム・マローンがロビィについて語っています。外部操作パネルからロビィの各種装備を動かすところ、内部の構造を映像で見せてくれるなど、こちらもとても興味深い動画です。

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2021.03.15

■感想 庵野秀明総監督, 鶴巻和哉/中山勝一/前田真宏監督『シン・エヴァンゲリオン劇場版 :||』


『シン・エヴァンゲリオン劇場版』本予告・改2【公式】
 庵野秀明総監督『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』@ イオンシネマ豊田にて観てきました。初めて行った映画館だったんですが、フィギュアやイラストがいっぱい飾られてて、スクリーンもデカくて良かった。
 まずはファーストインプレッションをメモっときます。先入観なくご覧になりたい方は以下感想ですが、御注意ください
 また、ネタバレ感想は、明示した上で、さらに下の方に書くようにします。
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 TVシリーズ第一話本放送をテレビ愛知の木曜朝(確か)に身始めてから、25年以上観続けてきた作品が見事に終幕し、大満足の一本でした。以前から都度都度、各作品の感想はブログで書いてますが、今日は以下の3点で記しておきます。

①エヴァの登場人物内面ストーリーは僕は最初から関心の少ない所なんですが、シンジ君のビルドゥングスロマン的には、見事な終焉だったと思います。TVシリーズで混沌の中、あのようになったラストを、『The End of エヴァンゲリオン』では(僕は傑作と思ってますが...)一応の収拾を図っていたのですが、何だかこの内面ストーリーの視点からはモヤモヤがどうしても残ったのでしたが、今回は父子の関係やシンジ周辺人物との決着も見事だったのではないでしょうか。あまりに見事すぎて少し予定調和的にも見えて、あの混沌が懐かしいという気持ちも湧いたりして、、、w。

②庵野監督の悩み描写とエンタメの抑制が今回も(『シン・ゴジラ』同等以上に)見事な塩梅で作品化されていたと思います。そしてモロに311後の作品だった『Q』に対しても落とし前を付けていて(震災がなかった世界の新劇場版を夢想しないわけにはいかないですが)、その観点でも素晴らしいと感じました。

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③やはり僕にとってのエヴァは奇想映像の先端を切り開く、その姿勢と成果を観るのがいつも楽しみな作品なのですが(^^)、今回も冒頭のパリの描写から超絶特撮&SFX映像のオンパレードで、もう3回位は劇場で観たくなりました。今回、『シン・ゴジラ』で活躍したプレヴィズがエンドタイトルでしっかりとスタッフクレジットされていたところから、最大限の活用がなされているのが感じられましたが、ここは今後のメイキングの公開が楽しみなところ。

 上の画像は、Youtubeの予告等シーンから、コマ送りでなく中をいくつか省いて、ダイナミックな連続アクションを取り出したもの。
 マリのアクションからエヴァ8号機の見事なアクションの連続が心地よい。

 映像的には、庵野監督が学生時代から描いてきた自主制作アニメ、特撮の手法含め、映像技術の集大成として(こう使うかという感嘆とともに)、そしてさらにジブリにも配慮しつつw、CGでまたしても最先端のエッジの効いた映像をこれでもかと見せてくれます。特にCGを用いて特撮の手触りをわざと感じさせる手法は、使い所含めてグッと来つつもちょっと笑ってしまったのでした。

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 上記の画像は、同じく予告のエヴァのカットをコマ送りで4コマ分取り出したもの。
 このシャープなコマ運びが、観客の脳内映像としてクールな動きを生み出している。ちゃんと確認したことはないけれど、ハリウッドSFX大作でもここまで一コマづつのレイアウトに細かく気を配ったアクションシーンは少ないのではないか。

 本気のアクション/奇想映像シーンは、画面のアングルとか構成とか、この切れ味は何百億円の製作費をかけたハリウッド映画でも未だ実現できていないエッジを切り開いていて、米国または中国の映像プロデューサーがスタジオカラーに100億円位の予算で大エンタメ作を依頼しても全く不思議でないと思っているのは僕だけでしょうか(^^)。

 ハリウッドの映像技術に、スタジオカラー的センス・オブ・ワンダーがまぶされたSF大作、皆さん、観たいと思いませんか。

 本作が米国で認められるのに、①の視点がずいぶん邪魔しているんじゃないかな、というのが僕の感想の偏りだったりします(^^;)。

★★★★★★★以下、ネタバレ感想★★★★★★★
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 上記②にも少し関係するけれど、エヴァの中心SFテーマである「人類進化」の観点の感想をネタバレで以下、メモしたいと思います。
 以前、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(というより『THE END OF EVANGELION Air/まごころを、君に』の方がしっくり来ますが)に関連して感想を書いたことがあったけど、やはりA.C.クラーク『幼年期の終わり』との関係は書いておくべきかと、、、。

 『THE END OF EVANGELION Air/まごころを、君に』において、人類意識の集合体化というのを映像で見せて、最後にアスカの「気持ち悪い」で『幼年期の終わり』のオーバーマインド完全否定を描いた庵野秀明総監督、今回はこの「気持ち悪い」という言葉を使わないで、同様の否定的なシーンを描いた。今回はエヴァインフィニティが津波のように人類の魂を飲み込み同化するシーンとして描かれている。ここで津波のいめーじを使ったのは、正に上で述べた②の311後の描写で、「気持ち悪い」に変わる、オーバーマインド的な生命進化(諸星大二郎「生物都市」的というか)を否定的な視点で描いているのだと思う。これはゲンドウのカルト宗教的な描写にも顕著で、冒頭の第3村との対比で、見事に『THE END OF EVANGELION Air/まごころを、君に』で少し未消化に描かれていたテーマが、浮き彫りになっていたと思う。

◆関連リンク
【ネタバレ】シンエヴァ専門用語まとめ
・当ブログ関連記事 『THE END OF EVANGELION Air/まごころを、君に』

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2021.03.03

■感想 イ・チャンドン監督『オアシス』


『オアシス』日本版劇場予告編

 イ・チャンドン監督『オアシス』Amazonプライムで観ました。
 
 これも凄い映画でした。前知識ゼロで観たので画面から目が離せない展開でズシンときました。ネタバレになるので、何も言わないし、予告篇も観ないで頂きたいですがw、『バーニング』はマジックアワーを見事に描いたシーンが印象的でしたが、『ペパーミントキャンディ』も『オアシス』もマジカルな瞬間が素晴らしい映画でした。

 『ペパーミントキャンディ』に続く主役のソル・ギョングと、ヒロインのムン・ソリの力いっぱいの演技が印象的でした。
 そして本作でのマジカルは、主に二箇所。ネタバレはできないですが、ヒロインの"演技"とタイトルのオアシスを示す小道具をネタにしたシーンはとても素晴らしいシーンでした。
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 ただ、僕はムン・ソリの演技については力演だと思う一方で、実はちょっと不自然に観えました。これは同じ脳性麻痺の主人公を描いた『37セカンズ』を観た後だからかもしれません。症状の重さが違うことは別にして、どこか不自然さを拭えなかったというか、、、、。ただしマジカルなシーンの一つとして電車の中や、その他シーンで描かれるヒロインのある姿のために、こうした演技プランにしていた節もあり、やはりイ・チャンドン凄腕の監督さんです。デビュー作含み、残りあと3本、楽しみに観ていきたいと思います。

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2021.03.01

■感想 原將人監督『初国知所之天皇』


『初国知所之天皇』予告編
2021年2月14日(日)初国知所之天皇復活ロードショー

"日本/カラー/1973-2021/108 分
監督・撮影・編集・音楽・脚本・主演:原 將人
自宅焼失というアクシデントで燃えてしまった伝説のフィルム『初国知所之天皇』が、 2020年12月に京都市主催のクラウドファンディングで復活した。イマジカラボに保管されたネガから、16㎜フィルム​ニュープリント、デジタルリマスター版がリプリント<復活>された『初国知所之天皇』の世界は、より透明感を帯び,​「​映画 とはなにか? ​」​という命題に寄り添いながら創造性​を​激しく​刺激する。"

 2/13-14にネット配信された原 將人監督『初国知所之天皇』激生ライブを4時間観ました。
 「『初国』以上の映画体験を未だに経験していない」(以下に引用した瀬々敬久監督の言葉)と世に言われている伝説の映画、そしてその2021年バージョンを体感できたのはとても貴重な映画体験であった。

 多分初めてこの映画のタイトルを聞く方は、タイトルに含まれる「天皇」という言葉が観る際の一つの障壁になるような気がします。まず最初に書いておきますが、本作は政治的な偏向は特になく、むしろここから述べるように映画の可能性に挑戦した、映像詩ならぬ音楽のような映画なので、映画の持つ可能性の先端を気にしている映像ファンは是非とも鑑賞されることをお薦めします。

◆感想
 以前僕は、8mmで撮られて16mmにブローアップした映像で構成された2画面マルチ映像、1993年に作られた16mmマルチヴァージョン 1Hour48Min版というのをDVDで観て感想を書きました。大きくはその感想は変わらないですが、今回、配信版は21.1月にコロナ禍でライブが無観客で実施され、その様子をカメラで撮って、原監督自らの手で再構成されたもので、2面マルチというよりは、過去の8mm/16mm映画映像と今回の生ライブ映像を二重映しに合成した新たな2021年版の"新たな"『初国』である。

 前後篇、ほぼ4時間の大作だが、47年前に撮られた映像が夢幻な雰囲気で、さらにそこに生の音楽が被って詩的な空間が広がる。そしてさらに映像も47年前のロードムービーが手前と奥に、時に時間をずらして、さらには二重映しで重層的に描かれている。

 ここまでが正に劇中で述べられている通り、ミュージカル映画というよりは、映画の/映像のミュージカルというか、音楽のように映像がその空間に揺蕩い、そして舞い踊る独特の新しい映画を構成している。

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 さらに特筆すべきは、特に前篇の冒頭に顕著な、今の原監督によるナレーション。
 詩的な言葉というよりか実はかなり哲学的な論考が映画にかぶせて語られる。ここが凄みを出している部分ではないかと今回思った。

 原監督の著作『見たい映画のことだけを』を遅ればせながら最近入手して読み始めたのだけれど、ゴダールとハイデッカーとメルロ・ポンティ等を引用しながら、未来の映画について語る原監督の言葉が、今なお生ライブの形で語られている。

 原監督に一昨年、映像短歌というのを教えて頂いたのだけれど、本作は映画/映像ミュージカルであると同時に、映像短歌ならぬ、映像論考というどこにもない映画を現出させているのが、今回の劇生ライブ版は感じさせた。

 以下に瀬々敬久監督の言葉を引用したが、まさしくどこにもない映画体験が本作の魅力なのだと思う。47年間に渡って原監督が育ててきたこの映画が、今も正に成長しているということで、今後も眼が離せません。

◆以下関連リンク
当ブログ感想 原將人監督『初国知所之天皇(はつくにしらすめらみこと)』DVD

【上映会 21. 3/13 】初国知所之天皇復活ロードショー 上映会

"コロナにより延期になっていた、待望の 劇生ライブ上映会!
 1970年代、国家と社会に全面的に異議を申し立てた全共闘運動が終焉した。当時、映画を志す22歳の原 將人は、既成の映画に対して全面的に異議を申し立て、国家を根底から考える 映画『初国知所之天皇』を製作した。8㎜と16㎜フィルムを併用し、2 台の映写機を切り替えながら自ら映写する8時間に及ぶ長編作品は、同世代、とりわけ映画を志す若者たちに熱狂的に支持され、伝説のフィルムと呼ばれるに至った。その 後、摩耗する8㎜を16㎜に引き伸ばした4時間のリフレイン版を、その20年後には4 時間を左右に切り分けた2時間の2面マルチバージョンが完成した。"

【上映会:3/14】初国完成47周年記念 原 將人 激生ライブ上映会 2021-03-14

"激生ライブ​上映​は『初国知所之天皇』の誕生から47年間ずっと変わらない、原監督の生演奏付きの映画上映である。​このライブ映画の上映スタイルで、会場をまるごと映画空間へと昇華させる「映画体験」を実現させる。今年70歳になる原は、上映会場でナレーションを読み上げ、歌をうたい、ピアノを弾く。至高の仕方で、既成の映画概念を見事に突き破る。日本映画界において『初国知所之天皇』が、伝説と称される所以である。クリエイターたちにも絶大なファンを持つ。これだけのハイクオリティーの映画のライブ上映は、世界中見回しても、原にしかやれない。初国完成47周年を記念する今回の激生ライブ上映会では、2人のミュージシャンとスペシャルセッション。ハイクオリティーの音響設備を備え、6台のカメラ、7チャンネル​で世界へ向け、リアル動画ライブ配信される​。
遠藤 晶美 (ミュージシャン・コンポーザー)
島田 篤 (ピアノ・キーボード演奏・作編曲家・弾き語り)"

『初国知所之天皇』 復活上映会に寄せて 瀬々 敬久より

"『おかしさに彩られた悲しみのバラード』を高校生の時に見て以来、8ミリで映画を撮り始めた。それほど原將人信者だった。大学生の頃、原將人全作品上映の企画をして上映会を行った。その大きな理由は、噂に高い『初国』が見たかったからだ。『初国』は遥かにその伝説を超えていた。映写機と見る者、その空間、それらが混然一体となったまさに映画体験だった。上映という行為でしか成しえない作品、それでしか享受できない感動。あれ以来、僕は『初国』以上の映画体験を未だに経験していない。
瀬々敬久:映画監督『64ロクヨン』『最低。』『友罪』『楽園』『糸』"

 

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