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2021年5月

2021.05.12

■感想 レジス・ロワンサル監督『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』


Sara Bareilles What The World Needs Now 2016 Macy’s Fourth of July Fireworks Spectacular

 レジス・ロワンサル監督『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』W座録画初見。

 実は全くの白紙で観たのですが、当初考えていた文学ものかと思っていたら、その部分の比重は小さく、ミステリーでした。

 ダン・ブラウンの小説『インフェルノ』出版の際、出版元が著者同意のもと、各国翻訳家を地下室に隔離して翻訳を行なったとの実話をベースにしたということだけれど、確かに予想外の展開でなかなか見せてくれました。

Les-traducteursside
 ただ、どうも色々と腑に落ちない展開があり、ラストはなかなか意外なのですが、どうもすっきりとしないエンディングでした。ネタはなかなか面白いので、途中のサスペンスを生み出すための無理を省いて、ラストを最大限に活かすミステリーとして一本筋を通したら、傑作になったかも。

 リンク先は、今日は予告篇をやめて、本篇で印象的に使われていた楽曲"What The World Needs Now"を引用しておきます。

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2021.05.10

■感想 マイク・フラナガン監督『ドクター・スリープ』


『ドクター・スリープ』US版メイン予告

 マイク・フラナガン監督『ドクター・スリープ』WOWOW録画初見。

 キングの原作は『シャイニング』しか読んでいないけれど、見事にキューブリック『シャイニング』と原作の橋渡しをして、きっちりとキング作品であり、キューブリックリスペクトもしているという、ある意味奇跡的な作品になっている。

Doctor_sleepside
 僕が原作の橋渡しと思ったのは、キューブリックが品の良い(シンメトリーな)お化け屋敷と父ジャックの狂気に集中してほとんど描かなかった「シャイニング」能力について、本作は正面からテーマにしているところ。

 もちろん原作『ドクター・スリープ』にも前者はかなりの比重で描かれているはず。キングの意向を汲み取った「シャイニング」描写がとても心地よく(?)、そして苛烈に描かれているのが好感。まさに「シャイニング」が主題となった映画で、こちらの方がタイトルとして『シャイニング』がふさわしい映画ではないかと思った。

 この「シャイニング」描写と合わせて、オーバールックホテルのクライマックスの描写も原作リスペクトですね。

 僕は『シャイニング』初見時、原作を先に読んでいたので、どうもキューブリック作に乗り切れなかったのですが、本作でその溜飲が下りた感覚です。

 監督のマイク・フラナガンはキング原作の『ジェラルドのゲーム』も撮っているけれど、そちらもなかなか良かったので、キング作品のファンなのでしょうね。

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2021.05.03

■感想 ルネ・ラルー監督『ファンタスティック・プラネット』


『ファンタスティック・プラネット』予告篇

 ルネ・ラルー監督『ファンタスティック・プラネット』BSP録画、初見(正確にはウン10年前にボケボケのダビングビデオ(字幕なし)を観ているはずなのだけれど、全く言葉がわからず観たうちに入らない、、、)。

 この独特のスロー感と異世界の不思議なアート感覚は、評判にたがわず今観ても凄いですね。全く我々の知っている日本と地続きに感じられないこの雰囲気は素晴らしいです。

 と言いつつ、いろんなシーンで実は諸星大二郎の漫画を思い浮かべてしまった。諸星作品がもともと日本と地続きな感じがしないのは、こうした欧州の作品の影響を強く受けていたからなのかもしれない。

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 ネットで「ファンタスティック・プラネット」と「諸星大二郎」のキーワードで検索すると、引用した様な画像イメージが現れる。やはり多くの人が共通点を感じている様です。最初の2枚、左が諸星大二郎で、右が『ファンタスティック・プラネット』、人物のデッサン含め、非常に似たタッチであることがお分かりいただけるかと思います。

 本作は1973年制作、諸星の初期作品「生物都市」が74年なので、ある部分同時並行的に共鳴した部分があったのではないでしょうか。それにしてもキャラクターの顔や全身のタッチが凄くよく似ています。

 以下のリンク先を観ると、諸星先生は95年当時の映画ベスト10に本作を挙げている。別の情報では「ローラン・トポール」のバンド・デシネも好きだとのこと。世界を見る視点が似ているのかもしれない。

"マルコポーロ '1995.1月号 文藝春秋社【永久保存版】戦後生れ300人が選んだ、わが青春の洋画ベスト100。
 (諸星大二郎ファンのページ)

"諸星大二郎
(1) 2001年宇宙の旅
(2) 野いちご
(3) アポロンの地獄
(4) 春のめざめ
(5) キング・ソロモン
(6) サテリコン
(7) ジャングル地帯
(8 ) ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ
(9) エクスカリバー
(10) ファンタスティック・プラネット
 名画座などで古い映画も新作も区別なくごっちゃにみていたので、60年以前のものを単純に切り捨てるというのは抵抗を感じる。60年代には、リバイバル・ブームで西部劇の名作を随分みたものだ。"

チェコっと映画のネタ帖 ファンタスティック・プラネット(1973)
 監督:ルネ・ラルー フランス チェコ・スロヴァキア合作
(チェコ蔵)

"日本でも知る人ぞ知る伝説のSFカルトアニメ映画「ファンタスティック・プラネット(邦題)」日本ではフランスのアニメ映画として知られていますが、実は本編のビジュアルはチェコスロヴァキア時代の一流アニメーター達によって作り上げられたということは、残念ながらあまり知られていません。

キャラクター・デザインは「Svatební košile (婚礼のシャツ)」 で有名なヨゼフ・カーブルトが担当し、背景デザインはヨゼフ・ヴァーニャが担当しました。当初本作の脚本、キャラクターをはじめとする本作のイメージ監修を担当したローラン・トポールの直接の関与は撮影以前までで、本作がクランク・インするとカーブルト達にその全てが託されました。アニメーションの撮影自体もプラハのイジー・トゥルンカスタジオで行われ、チェコスロヴァキアの撮影スタジオに立ち入ることを許されたのは、監督のルネ・ラルーのみでした。本作の切り絵アニメーションというスタイルはチェコアニメの伝統的な手法の一つであり、本作にその独自の手法を取り入れさせたのもチェコ側でした。"

 チェコ蔵のペトル・ホリーさんにFacebookで教えて頂いたのですが、この『ファンタスティック・プラネット』、実はフランス映画というよりもそのヴィジュアルは、チェコスロバキア時代のイジー・トゥルンカスタジオで、チェコのアニメーターによって作られた作品とのこと。

 長文の引用になってしまいましたが、リンク先にはヨゼフ・カーブルトさんの作画脚本の映画が紹介されています。
 Youtubeの動画なので、こちらでも引用させて頂きます。『ファンタスティック・プラネット』とは少し印象が異なりますが、明らかに通底するイメージがあります。


strašidelný příběh, animovaný film

◆関連リンク
カルト的人気のSFアニメ『ファンタスティック・プラネット』21年5月公開

"カルト的人気を誇るSFアニメーション『ファンタスティック・プラネット』(1973)の初のDCP(デジタルシネマパッケージ)上映が決まり、5月28日より渋谷HUMAXシネマほか全国で順次公開される。

▼湯浅政明監督
ボスやシュルレアリスムにも通じる、並ぶもののない、シュールで独創的な世界。
そこで起こる対立・闘争・変化の渦へ我々は投げ込まれる。人間も家族も社会も出てくるが、物質、特徴、習慣、精神世界もこことは大きく違う。簡単な答えはない。
生き延びるには、ひたすら起こる出来事からそれを探り続けてゆくしかない。
それは我々にも必要な力、想像力だ。"


『ファンタスティック・プラネット』配信サービス

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