■感想 細田守監督『竜とそばかすの姫』
細田守監督『竜とそばかすの姫』観てきました。今日はこちらも36℃とついに夏本番ですが、まさに細田作品らしい、真っ青な空に伸びる入道雲がとても似合う素晴らしい作品でした。劇場からの帰り道の空と雲が映えること映えること。また自転車の高校生とかなりすれ違ったのですが、普段はそんなこと滅多に思わないのに、細田作品を見た後、自分にとってはもううん十年も過ぎ去った高校生の姿がとても眩しく見えるのが印象的。
『バケモノの子』『ミライの未来』と実は続けて自分には低調な作品が続いていたので、今回、劇場で観るのを少し迷ったのですが、予告篇に感じるところがあり、映画館へ脚を運んで本当に良かったです。壮大なスケールで、映像と音のシャワーを、まさにスクリーンで浴びるのが最適な映画作品でした。
今回、音楽が重要な要素を占める作品なのですが、CGによる壮大な空間の完成度の高さ、そして音楽映画ともいえる伸びやかな音響。映画の贅沢さとはこうあるべきという、ある意味、世界レベルの作品を見せて頂いた気分です。
そしてこの映画の物語は一見『アナと雪の女王』『美女と野獣』等を思い出すファンタジーですが、実は現在の技術の延長で実現出来る近未来世界です。電脳空間の可能性を描いたそこが、この細田作品の凄さ。これは“現実”の物語ですね。
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★★★★★★ネタバレ注意★★★★★★ .
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クライマックスが特に涙腺を刺激してやばかったですが、この現実とヴァーチャルでの人の存在の姿の描き方、まさに新しいネットとリアル空間からなる、現実世界のクロスする様相を見事に結晶化して描いたところが、傑作になっているところなのでしょうね。
そこにはネット空間の持つ精神的な連帯と共感と誹謗中傷、そして現実空間の持つ/肉体で地面に縛り付けられたヒトの関係の暖かさと鬱陶しさみたいなものを、数々想起させて融合し表出させ、入道雲の様に清々しい景色が存在していました。
特にネット空間の匿名性で、大袈裟に言えば精神の自由と趣味の世界の追求を何というか現実の会社員生活とは全く切り離すことでちょっとだけ昇華させてきた自分のブログ活動とかを、全然規模も到達点も違うけれど、ダブらせてみてしまったので、何というか感無量な感慨でした。
物語としては、もちろん『美女と野獣』が下敷きにされていますが、こちらは野獣だけでなく「Belle」も仮の姿と実の姿が描かれています。これをミュージカルとして仕立て上げて、見事に『美女と野獣』のあの名シーンをある意味超えてディズニー映画を凌駕したところも特筆すべきかと。
加えて、テーマ的には『アナと雪の女王』でエルサが氷の城で初めて自分の自由を手に入れるあの歌のシーンにも肉薄するミュージカルシーンになっていて、意識的にディズニーをその超える目標においていることがよくわかり、しかも超えている部分がしっかりあるという傑作になっていると思いました。
そしてそうした骨格に対応して、映像としても手描きとCGの両方を融合して描かれた現代的手法の見事さが映えます。
東宝公式のメイキング映像で細田監督が語られている「CGでも手描きでも、CGは血が通っていないということを言う人もいるが、どちらも人によって描かれていると言うことでは同じ」という視点で融合して描かれたヒトの営みとしてのネットとリアル。テーマにまさに適合したこの手法も素晴らしい。デジタル映像としては、細部をとことん描きこんで、映像圧縮技術の破綻寸前wの映像だったが、デジタルにしかできない映像の可能性を切り開いている様に思う。
ヒトの有り様として、これからも人類はリアル空間とネット空間の両方の現実世界の中を往還しながら過ごしていくことになるのでしょうが、その一つの結晶化した姿をこの時点で描いた最高傑作の映画なのかもしれません。凄いものを見せてもらいました。
◆その他 メモ
・本作で描かれたリアルと幻想は、ネットを使うことによって、実は今現在の現代にも非常に近いものが存在している現実的な存在であるところが凄い。ネットというもののある意味の本質、ヒトの幻想を"現実化/実体化"するものとしてのネット。このあたりの本質を描き出している点でも本作は鋭いと思います。
・仮想空間 <U> に存在する"正義"を守るチーム「ジャスティス」の隊員たちのユニフォームと身体のフォルムが、何故か手塚治虫風に見えたのは、僕だけでしょうか。もしくは石ノ森章太郎というか、昭和の時代の漫画を思い起こさせます。どんな意味を持たせているのだろう。
◆関連リンク
・東宝公式Youtube 「Making of 竜とそばかすの姫」#1〜10
大変、興味深いメイキングです。これはファン必見。こういう企画、素晴らしいです。
・特に #6「Making of 竜とそばかすの姫:細田守とクリエイター~Uの発想~」
ボディシェアリング研究者 玉城絵美 琉球大 教授のインタビューは興味深い。
・竜とそばかすの姫:公開3日間で興収8.9億円突破 動員60万人 すず、ベルの夏空ビジュアルも
公開の週末8.9億円。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が初週11.8億円。『竜とそばかすの姫』の方が一般家族層には受け入れられやすい感じなので、これは相当のヒットが期待できそうですね。
それにしても上記ポスター画像の左、すごく良いですね! やはり細田映画は夏空が似合う!
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