■感想 マイケル・ベイソン『2001:キューブリック、クラーク』
マイケル・ベイソン『2001:キューブリック、クラーク』読了。
公開50周年の2018年に出版された575頁のメイキングの大著。キューブリックとクラークの邂逅から始まる4年間の映画制作とその公開までを関係者の証言とメモから再生し、まるでその現場にいる様な臨場感で描き出した傑作ドキュメンタリー。
あの映画のあのシーンはどの様に着想され、具体化されていったかを、微に入り細を穿つ描写が素晴らしい。
例えば、HALの読唇術シーケンスは、フランク・プール役のゲイリー・ロックウッドの発案がきっかけで作られたとか、デイヴ・ボーマンの食事シーンでワイングラスを割るシーンは、キア・デュリアの着想だったとか…意外と現場でのスタッフ、キャストの発想で、ある意味即興的要素を取り入れながら、作られていった様子が生々しい。セリフを排したタッチだけでなく、ドキュメンタリー的な風合いが感じられるこの映画の一つの秘密に近づけた様な感覚が感じられた。
もちろん特撮シーンについても、ダグラス・トランブルはじめ、スタッフの証言含めて、リアルに現場が語られている。特に興味深かったのは、ディスカバリー号の重力区画を描いた巨大な円形ホイールのセット。当時はもちろんLEDも液晶ディスプレイもなく、巨大な重くて熱い照明が時々落っこちてきて危険な職場であったとか、あの優雅なディスプレイの裏には16mm映写機が画面の数だけ巨大ホイールに括り付けられてセットされていたとか、まさに想像を絶する力技で、2001年の未来が構築されていたことが証言されている。
若かったダグ・トランブルが現場でキューブリックに認められてどんどんSFXの中核スタッフになっていく描写も心地良いが、主な担当シーンとして、モニタに映る各種アニメーションとスリット・スキャンが代表的だけど、ムーンバスの模型にリアリティを付け足すのにも貢献していたり、かなり幅広くタッチしている様子も窺い知れて良かった。またキューブリックのみがアカデミーの特殊撮影部門の受賞者であった顛末、後年のトランブルのみが2001の特撮を作ったのではないというキューブリックがだした新聞広告について、そしてそのエピローグとしてトランブルがキューブリックの葬儀に参列している感慨深いシーンも本書のクライマックスの一つである。
プレヴュー上映での酷評と、公開直前でのキューブリックによる冗長シーンのカット(間に合わず各劇場でフィルムカットして)公開、その後若者中心に大ヒットして68年の全米No.1ヒットというくだりも臨場感があって興味深く読めた。
あとスリランカとイギリスを行き来して携わったクラークの当時の生活、特に当時のパートナー マイク・ウィルスンの制作していた007のパロディ映画『ソルンゲス・ソル (ジェーミス・バンドゥ)』の資金繰りに苦しむクラークの様子は、傑作映画と並行して今は全く語られないC級作品の、資金繰りに苦心する巨匠の生々しい人間的な姿がリアルに立ち上がって好きなシーンだった。(ウィルスン監督のパトロンという位置づけだったらしい)
そして本書のラストは、クラークの死の数時間後に、75億光年という、観察可能な宇宙の年齢の約半分の時間をかけて太陽系に到達したガンマ線バーストについて語る著者マイケル・ベイソンの筆で閉じられる。クラークらしい宇宙的詩的なシーンに感激して読者は本を閉じることができる。素晴らしい名著をありがとうございました。うちのニャンコも感謝して本を齧っておりましたw。
Sorungeth Soru Trailer マイク・ウィルスン監督『ソルンゲス・ソル (ジェーミス・バンドゥ)』(予告篇)
Sorungeth Soru Sinhala Film (映画の情報)
マイク・ウィルスン『Sorungeth Soru』の予告篇。
名作の影に存在したこうした映画も観てみたいというのは相当の屈折でしょうか(^^;)。ちなみにスタッフリストにA.C.クラークの名前はありません。
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