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2022年2月

2022.02.28

■感想 ジャン=ピエール・ジュネ監督『ビッグバグ』"BIGBUG"

BIGBUG Trailer (2022)

『アメリ』監督6年ぶりの最新作!SFコメディ映画『ビッグバグ』のティザー予告

" 時は2050年。人工知能は至るところにあふれている。あまりにも身近になり過ぎて、人間はあらゆるニーズや欲望の充足をAIに頼る生活に。それが究極にプライベートで道を外れたことであっても…。
 ある静かな住宅街で、4体の家庭用ロボットが突然、主人を人質に自宅に立てこもることを決意。一緒に閉じ込められたのは、どこかかみ合わない家族、お節介な隣人、そして野心的なセックスロボット。彼らは、異常なほどおかしくなっていく雰囲気の中で、お互いに我慢せざるを得なくなる。
 一方、家の外では、最新世代のアンドロイド、ヨニキスが世の中を乗っ取ろうとしている。" 

 Netflixのホーム画面で、カラフルな予告篇があるな、と思ったら、何と『ロスト・チルドレン』『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督のNetflixオリジナルの最新作。(ちなみにYoutubeにはこの映画の予告が上のリンクの様なおどろおどろしいサムネイルのものしか置かれていないので、本来の映画の雰囲気を示したキッチュな画像を置けませんでした)

 実に『天才スピヴェット』(2013)以来なので、9年ぶりの新作長篇である。ジュネ監督、9年新作を撮れなかったのだろうか。事情はよくわからないが、ありがとうNetflixと言わざるを得ない。

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 物語は上に引用した通りなのだけれど、2050年のある限定的な空間を舞台にして、アンドロイドと人間によって繰り広げられるブラックコメディ映画。全篇フランス語なのだけれど、どっか映像にはアメリカのホームコメディテレビドラマの雰囲気が横溢。観客の笑い声は聴こえてこないけれど、物語の組み立てもそんなホームドラマをシニカルにダークに、そしてさらにキッチュにした様な、ジュネ監督独特の映画になっておりますので、ご安心。

 冒頭のサムネイル画像を観ると、まるで『ロボコップ』のピーター・ウェラーが年取った姿でロボット役をやっている様な映像なのだけれど、実はこの役者  François Levantal というピーター・ウェラーより若い1960年生まれのフランスの俳優さん。このキャラクターは『ロボコップ』のパロディに見えてしかたなかった。

 多分、舞台を限定したのは、予算的な問題もあったのだろう。だけど、場面と登場人物を絞ったことで、一つ一つのCGやキャラクターの映像と造形はなかなか高レベルでジュネ監督の名目躍如。

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2022.02.25

■感想 濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』


『ドライブ・マイ・カー』30秒予告【第1弾】
 濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』、Amazonプライムで有料レンタルにて観ました。48hrの時間制限があったので、2晩で続けて2回観ました。1回目も凄く良かったのですが、じっくりセリフの端々まで堪能した2回目はまさにこの映画の凄さを感じました。


 まず濱口監督の演出、映像として見せて、登場人物に多くを語らせていないのが、いいですね。
ただ僕は同じ村上作品の映画化では『ノルウェイの森』『バーニング 』に比べると、映像で村上作品の登場人物の内面を語る手腕はトラン・アン・ユン、イ・チャンドン両監督に軍配が上がるかと思いました。



「映像化に向かない」ハルキ作品をめぐる映画化への挑戦
米紙が絶賛「映画『ドライブ・マイ・カー』は濱口竜介監督の新たな傑作だ」

"「村上さんの文章は、内なる感情を見事に表現しています。だからこそ、人は彼の作品の映像化を望むのだと思います。ですが、内面における感情を映画で再現するのは、本当に難しいことです」

"

 例えば本作では、車が闇の中を進む描写で、人のどす黒い部分へ触れていく雰囲気が醸成されています。
これが『ノルウェイの森』の場合はロケ地である兵庫県神河町の砥峰(とのみね)高原の森の空撮、『バーニング 』では北朝鮮との国境沿いの村の夕闇の映像が、そうした役割を果たしていたけれど、僕は後の2者の方がその映像センスの的確さで上を言っていると初見では思いました。

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 しかし2回目を観て、映像だけでなく、物語と並列して描かれる演劇「ワーニャ伯父さん」のセリフが、相当に雄弁に村上作品っぽさを盛り上げていて、『ノルウェイの森』『バーニング 』と並ぶくらいの高みに映画を到達させている気がしました。


また演劇の援用としては、神が不在の『ゴドーを待ちながら』からはじまり、『ワーニャ伯父さん』で、神による村上ワールドの喪失を救済する構造にもとても感心しました。特に3回違う形で登場するセリフで、あの世から現生を回想する部分の鮮烈さ。1回目から3回目へのその深化もスリリングで白眉です。

 演劇要素は、原作にはなく映画のオリジナルで、こうした使い方が何とも言えない映画の奥行きを創り出していました。加えてそこの役者たちのダイバーシティ含めて、何とも豊潤な映画空間を構築しています。

これらの複合的な描写でアカデミー賞の作品賞ノミネート作品として『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や『ドント・ルック・アップ』に比べて、相当に重厚な傑作だと言ってもいいのではないでしょうか。

 ただ、エンターテインメントとして一般受けするかどうかというと、特に初見における演劇部分の複雑さが足を引っ張るかもしれないと思ったのでした。はてさてどうなりますか。

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★★★★★★★★★以下、ネタバレ注意★★★★★★★★★
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特に映画的な力に満ちていたシーンとして一番素晴らしかったのが以下の件です。



【ネタバレ解説】「ドライブ・マイ・カー」がより面白くなる11の裏話



“原作には「“声”について非常に真実と思えることが書いてあった」という。濱口監督は、最も心に残った部分も明かしている。それは高槻というキャラクターの言葉を表現しているものだ。
「高槻という人間の中にあるどこか深い特別な場所から、それらの言葉は浮かび出てきたようだった。ほんの僅かなあいだかもしれないが、その隠された扉が開いたのだ。彼の言葉は曇りのない、心からのものとして響いた。少なくともそれが演技でないことは明らかだった。」”



 サーブの後席で主人公家福の隣に座り、家福の妻 音が(原作の短篇集の「シェヘラザード」として)語る「同級生の家に空き巣」に入る物語の続きを話す高槻のシーン。特にカメラ目線で目に当てる照明により独特の表情を作り出した高槻によるスリリングな語りは、まさにこの「隠された扉」が開き奥底から響いてくる彼の声の描写である。


 同じ車の中での深淵を覗き込む様な描写に、押井守『ビューティフルドリーマー』における夢邪鬼の語る言葉を思い出したのは僕だけでしょうか。



◆その他のメモ


・短篇「木野」については、主人公の妻 音 の語る物語の少年の名前として出てくるだけでしたが、「木野」でバーに迫るどす黒いもののイメージが映画でも使われていると感じた。どちらかというとそれは村上作品全般に登場するそれの描写を援用している様にも感じた。



・北海道の架空の町 十二滝町で描かれるクライマックスの場面、それでも生きていかないと…と語る主人公の二人を映した後、画面はサーブの車が雪の中に佇むシーンを長回しで映す。タイトル通り、運転と人生をオーバーラップさせた様な味わい深いシーンです。

・村上作品の心象風景を映像として映すシーンで印象的だったのは、渡みさきが「母を殺した」と告白したシーンの後、家福がそれを自分は否定できないと言って、カメラが車の速度でトンネルから海を描く映像。ここの迫ってくる映像の力は素晴らしい。 

・言語のダイバージェンスとして、手話による女優の語り。特に『ワーニャ伯父さん』のラストの回復シーン。あの女性の生命力の輝きは特筆です。

・ラストシーン、ヒュンダイ製のモダンな車、しかも全部ソナタというある種異常なシーンの中に一台だけ違う車 サーブが映るシーン。あれは一体どういう意味だったのでしょう。元々この映画は冒頭以外は、韓国を舞台に描かれる予定だったのが、コロナ禍で広島が舞台になったとのこと。韓国がラストシーンで描かれるのはわかるけど(あの夫妻の犬がサーブに乗っているし)、あの同じ車は一体何だったか悩みます。どなたか、教えて。

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 西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、濱口竜介監督が登場『ドライブ・マイ・カー』壮行会イベント【トークノーカット】

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2022.02.23

■感想 村上春樹 短篇集『女のいない男たち』

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女のいない男たち (文春文庫)

 村上春樹『女のいない男たち』、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』が観たくて堪らなくなっていて、再上映されている映画館に先日行ったのだけれど、劇場前まで行って、ほぼ満席で(ビビリなのでコロナ怖くてw)帰ってきました。



 で、代わりにまず村上春樹の原作読むことにしたのですが、どの短篇もなかなかの傑作。


「ドライブ・マイ・カー」★

 有名女優である妻を失った主人公の俳優の喪失感、生前の妻の浮気相手の、若い俳優との交流。それを端で見守る女性ドライバ。
ドライバの視点で静かにそして的確に心を動きをトレースされているが、それはまるでドライバみさきの運転の技量そのままだったりする。ここにも見事な村上作品の息吹があります。



「イエスタディ」

 その小さな物語は調子を外したビートルズの曲の関西語バージョンの歌詞の断片から始まる。田園調布で育ったのに関西弁を流暢に操る木樽という不思議な名前の男とその友人の早大生と、木樽の恋人の物語。

 幼なじみが故にその距離を持て余す木樽と彼女 栗谷えりか、その心の動きを象徴的に表す長い航海をする大きな船から眺める氷の20cmの月の夢が素晴らしい。


 この物語が本短編集の中ではどうしてか一番好きになりました。これは映画の元になっていると言われている3編には入っていない様です。




「独立器官」
 整形外科医 渡会とアウシュビィッツの医師のエピソードをダブらせながら、女の独特の嘘を自然に生成する独立器官についての物語。
テニスのスカッシュとラケット、渡会の秘書の男と物書きの主人公の会話で語られる物語に戦慄します。


「シェヘラザード」★
 千夜一夜物語にちなみシェヘラザードと名付けられた女性と、不可思議に閉じこもった男との寝物語を巡る物語。

 学生時代の彼女が、片思いの同級生の家に空き巣に入り、少年の小さな日常品を盗み、代わりに自分の物を代替に置いていく少女。
語られなかった物語の続きと、海中に吸い付き獲物を待つなつめうなぎのエピソード。


「木野」★
 「ドライブ・マイ・カー」に少し出てきたバーのマスターを主役にした奇妙な物語。営業マンだった彼が妻の浮気現場に遭遇して退社して開くバー。

 そこに現れる謎の読書する静かな痩せた男神田:カミタと、カップルで現れマスターに近づく女。そして3匹のへびの登場と、迫る危機。本短篇集では唯一の幻想味がある一篇で想像力をかき立てられます。


「女のいない男たち」

 唯一雑誌掲載でなく短篇集のために書かれた書き下ろし。
死んだ女の回想でほとんどが綴られている1篇。本当は違うが、14歳で知り合ったエムという少女の描写と自分の追憶の記述が詩的に記されていく。

 ここのところは村上春樹を嫌いな人には受け付けられない嫌味があり、ファンには堪らなく村上作品/まるで作家本人の感性をそのまま期した様に感じ染み入ってくる描写の数々。

 僕は初期には前者(じゃあ何で読んでたんだろう?)、最近は後者という具合に変化してきているので、とても気持ち悪いことに/心地よく読めた。

 後半、エムの好きなエレヴェーターミュージックの一曲として語られるパーシーフェースの「夏の日の恋」、そして14歳の僕の、性欲の象徴としか思えない描写で描かれている一角獣のイメージ。

 「たぶん」この表題作が全体の「女のいない男たち」の寂寞感を見事に洒脱にまとめている。




 ★印の三篇が濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』のベースとなっているらしいが、この全体の寂寞感がどうエピソードと会話等で構成されて映画化されているか、、、僕の頭の中ではなかなかこれらが一つの物語に纏まらないだけに、映画を今からAmazonプライムでレンタルして観るのに、ワクワクが高まります。巣ごもりもなかなか楽しいね。では。

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2022.02.21

■感想 堀貴秀監督『Junk Head』


ギレルモ・デル・トロ驚嘆!!映画『JUNK HEAD』予告編
 Amazonプライムで公開された堀貴秀監督『Junk Head』、観ました。

 異様な世界ですが、キャラクタがだんだん可愛く見えてきて、不可思議な世界に引き込まれますね。皆さんが映画館公開時に絶賛されていたのが良く分かりました。

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 一人で7年間、コツコツこうした世界を作り続けた堀貴秀監督のイマジネーションの胆力、素晴らしいです。セットとキャラクターの造り込みはもちろん、カメラアングルとかアクションの組立てとか、見事なショットがいっぱいあって、映像の力の込められ方に感動します。


【公式】映画『JUNK HEAD』本編映像解禁!/3/26(金)公開

 そしてキャラクターの話す、変な言語が面白いです。声もほぼ監督によるものというところも驚異的。時々日本語が混じるけれど、ねじくれまくった言語感覚が、先に述べた映像の異世界と見事にマッチして、この映画にしか存在しない、独特の世界が立ち上がってきてますね。

 この言語とキモ可愛いキャラから作家 酉島伝法氏の描く、やはり唯一無二のSF作品群を何となく想起していました。酉島氏の漢字を使い変容した言語で異世界を描くSF、あのどこにもない世界と堀貴秀監督のイマジネーションはどこか地下世界で通底しているのではないでしょうか。(以下、酉島氏のイラストご参照)
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2022.02.16

■感想 セス・ラー二―監督『2067』


2067 Official Trailer (2020) Sci-Fi Movie セス・ラー二―監督『2067』 (WOWOW)

"人間が人工酸素を供給するマスクなしには生きることもできなくなった2067年の地球を舞台に、407年後の未来から名指しで呼ばれた主人公の冒険を描くSF。「ザ・ロード」で主人公の息子役を絶賛された若手K・スミット=マクフィーが、妻を救うため旅立つ青年役を好演する。監督・脚本は「トンビルオ! 密林覇王伝説」のS・ラーニーが務め、2067年を中心に、過去・現在・未来が複雑に折り重なる壮大なストーリーを紡ぎ上げた。共演はドラマ「トゥルーブラッド」のR・クワンテン。"

 先週、ジェーン・カンピオン監督の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を観て、とても印象的な役を演じていたコディ・スミット=マクフィー(この作品でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされましたね)が主演を務めた2020年のオーストラリア映画が、WOWOWでちょうど放映されたので、観てみました。

 よくあるディストピアものかと思っていたら、なかなか面白い展開。少し無理ある展開もあるのだけれど、映像が低予算ながら、シャープに印象的な絵を見せてくれていて、小気味良い感じです。特に予告編にある冒頭付近の映像は、『ブレードランナー』っぽいのだけれど、そうした物の中ではなかなかのレベルでワクワクします。

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 で、主演のコディ・スミット=マクフィー、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ほどではないものの、結構こちらでもエキセントリックな感じ。こうしたSFアクションだとマッチョな主役が多い中、この俳優を主演に持ってくるところも、本作の監督のオリジナリティかもしれません。

 配信でこうしたSF映画は、数々アップされていますが、小品としては佳作に入るのではないでしょうか。

◆関連リンク
コディ・スミット=マクフィー(wiki)
 『パラノーマン ブライス・ホローの謎』『コングレス未来学会議』『猿の惑星: 新世紀』『X-Men』 等々、結構、観たことのある作品に出られていますね。やはり『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が圧倒的に印象的。





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2022.02.14

■感想 マイク・リアンダ監督『ミッチェル家とマシンの反乱』


第49回アニー賞ノミネート作品【本編冒頭10分公開】ミッチェル家とマシンの反乱〈『スパイダーマン:スパイダーバース』の制作チームが再結集!各映画サイトで超好評のSFアニメ映画!〉

 マイク・リアンダ監督『ミッチェル家とマシンの反乱』Netflix初見。

 アカデミー賞長編アニメーション映画賞ノミネートと聞いて、観てみました。これは傑作 ! ソニー・ピクチャーズ・アニメーションは『スパイダーバース』が物語も映像センスも最高だったけれど、今回も物凄くクリエイティブな映像で最高に楽しい映画になっています。

 実は添付したサムネイル画像含め、全然良い感じがしていなかったので、『竜とそばかすの姫』を候補から落としてノミネートされた作品がどれほどのものか、と舐めてかかったら、、、、。

 物語は、娘二人を持つ私としてもいろいろと身につまされつつ、ぐっとくる出来、途中好き嫌いは別れるかもしれないけれど、犬のギャグが結構最高で、これだけ声出して笑ってみた作品も久しぶり。

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 加えて映像のクリエイティビティ、3D-CGアニメなのだけれど、木製のパペット的なキャラクタと、その洋服のクレヨンで塗ったような不思議なタッチ。そしていま風にフォトリアルな画像に手描きされた落書きの数々。これが素晴らしく楽しい映像になっていて、おまけにアニメートのレイアウトや動きの誇張のキレの良さは『スパイダーバース』継承。

 そしてエンドクレジットの趣向の的確で心がざわざわする楽しさ。これは映画史上初めて観る趣向なだけに(たぶん)、そしてテーマと密接に関係していてもう拍手喝采。スタッフリストが流れるところも随所にアナログの魅力的な手描きアニメーションが組み込まれていて、スタッフ陣がとにかく楽しんで作っている様が気持ち良い。

 楽しんでいると言えば、マイク・リアンダ監督、主人公の弟役の男の子の声を自ら演じています。
 下手な声優だな〜、と思っていたら、監督が楽しんでやっていたとは!

 いやー、参りました。これだと『竜とそばかすの姫』をノミネートから落としたのも納得(というか、テーマ的にアカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネートの『未来のミライ』にも少し通じて、こういうの本当にアメリカでは受けるんだな〜ということかも(^^))。

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2022.02.11

■感想 アンドリュー・ニコル監督『TIME/タイム』


「TIME/タイム」予告編

 アンドリュー・ニコル監督『TIME/タイム』('12) Amazonプライムで初見。これ、公開当時知らなくて、初めて観ましたが、なかなかスリリングで良いですね。

 設定はちょっと無理もあるけれど、映画のスリラー的にはなかなか見せる設定です。あと『ガタカ』のニコル監督らしいクラシカルな近未来描写と優生思想的な階層社会描写も映画の奥行きになっていていい感じです。

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 ストーリーは安直な展開という批判はあるんでしょうが、この楽天性は僕は好きです、とりわけ今週2本続けてディストピアな映画を観たあとは救われます(^^;)。
 
 ニコル監督の未来描写、『ガタカ』では少しクラシカルなデザインの車に電気自動車的なモーター音を被せて見事に表現していたのが、今作では5-60年代のアメ車を少し改造して、ブンブンとエンジン音を響かせていました。でも黒を基調としたシックな未来社会描写と相まって独特の近未来映像になっているから不思議です。
 
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 その光景の一因は、多分モデル的体型のスリムで脚の長い女優、男優の多用もあるでしょう。それだけでスタイリッシュな未来w。
 今作、『ツイン・ピークス The Return』でエキセントリックなドラッグ中毒娘でぶっ飛んだ表情の演技を見せていたアマンダ・サイフリッドがキュートで快活なヒロインを演じていて、とても映えていました。何というか未来顔でいいですね(^^)。何だ? 未来顔って! クリクリした目玉の印象でしょうか。自分でもわかりません。

◆関連リンク
アンドリュー・ニコル(wiki)
『TIME』アマンダ・サイフリッドが語る もし永遠の命があったら?「誰かにあげるわ」

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2022.02.09

■感想 ジェーン・カンピオン脚本・監督『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』予告編 - Netflix
 ジェーン・カンピオン脚本・監督『パワー・オブ・ザ・ドッグ』をNetflix初見。

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 これは噂通りの問題作ですね。僕は好きになれない映画な感じを味わいながら、自分ちで観ているのに終始居心地の悪さを覚え続けた。

 西部の美しいが不安を讃えた映像と、カンバーバッチ、キルステン・ダンストと25歳の俳優 コディ・スミット=マクフィーら俳優陣の奥行きのある演技が素晴らしい。特にコディ・スミット=マクフィーは、随分と異なるタイプだが、どこかアンソニー・パーキンスを彷彿とさせる印象的な役者。好きにはなれないけれど、一種異様な迫力がある。

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 何が起こるかわからない迷宮的な不穏なトーンに身を任せたい人には最適な映画です。
 才人と評判のジェーン・カンピオン監督、実は恥ずかしながら初見ですが、これは一筋縄ではいかない奥深い作家ですね。他も観てみます。

◆関連リンク
トーマス・サヴェージ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(角川文庫)

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2022.02.07

■感想 神山健治監督『永遠の831』


「永遠の831」PV 60秒【Youtube】    (WOWOW公式)

 期待の『永遠の831』WOWOW で放映されたので、観ました。

 陰性な『東のエデン』という感じで、あの頃からの日本の時間が、重く作品にのしかかってます。

 厄災と税制、時間を重く止めた様な空気がのっぺりと映画空間を押し包んでいます。

 モーションアクターによる3D-CGによるセルルックアニメの手法、『ULTRAMAN』『攻殻機動隊 SAC_2045』よりもぬるぬる動くキャラクターが少し不気味の谷に寄っていて、作品の空気を助長している様に思う。

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 SF的アイデアも思いっきり重苦しい政治的世界に接触していくツールになっていて、カタルシスなく、これが現在の若者の体感している社会なのかと思うと…。

 キャラクターデザインとか、昨今の青春アニメ映画な路線に見えるけど、底流には神山健治監督の現実認識が横たわっている様でした。3月に劇場公開もあるようです。

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2022.02.02

■感想 アダム・マッケイ監督『ドント・ルック・アップ』


『ドント・ルック・アップ』予告編 - Netflix

 アダム・マッケイ監督『ドント・ルック・アップ』観ました。
 評判通り、なかなかの傑作。ブラックコメディとの噂でしたが、案外シリアス。というかアメリカのトランプ政権とかのあれこれを思い出しながら観ると、まさに笑えない今の現実の鏡を観ているようでなかなかにゾクゾクします。もし日本を舞台にこれを今、撮ったらどうなるか、とか。その辺りの想像力を刺激するところは素晴らしい。そこが現在のねじれた様を炙り出していて、ここが受けている理由なのかな、と。
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★★★★★★以下ネタバレ注意★★★★
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 このテーマだと、『妖星ゴラス』『メテオ』『アルマゲドン』『ディープインパクト』『流転の地球』『メテオ』等々思い浮かぶけれど、僕はラース・フォン・トリアーの『メランコリア』に次いで好きな作品になりました。

 前半笑った上で感じる後半の寂寞感は、まさに全然違うタッチなのに、『メランコリア』に近似してずしんと来るのが本作の一番の魅力でした。

 また『地球外少年少女』でテーマは違うけれど、正常性バイアスの描き方が全然違っていて(ほぼ)真反対で、磯監督が冒頭で正常性バイアスを意識的に描いて、それにあがなう子供たちの様子を描写しているのが、対比としてなかなかに見事だったと改めて感じたり、、、。

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