■感想 村上春樹 短篇集『女のいない男たち』
女のいない男たち (文春文庫)
村上春樹『女のいない男たち』、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』が観たくて堪らなくなっていて、再上映されている映画館に先日行ったのだけれど、劇場前まで行って、ほぼ満席で(ビビリなのでコロナ怖くてw)帰ってきました。
で、代わりにまず村上春樹の原作読むことにしたのですが、どの短篇もなかなかの傑作。
「ドライブ・マイ・カー」★
有名女優である妻を失った主人公の俳優の喪失感、生前の妻の浮気相手の、若い俳優との交流。それを端で見守る女性ドライバ。
ドライバの視点で静かにそして的確に心を動きをトレースされているが、それはまるでドライバみさきの運転の技量そのままだったりする。ここにも見事な村上作品の息吹があります。
「イエスタディ」
その小さな物語は調子を外したビートルズの曲の関西語バージョンの歌詞の断片から始まる。田園調布で育ったのに関西弁を流暢に操る木樽という不思議な名前の男とその友人の早大生と、木樽の恋人の物語。
幼なじみが故にその距離を持て余す木樽と彼女 栗谷えりか、その心の動きを象徴的に表す長い航海をする大きな船から眺める氷の20cmの月の夢が素晴らしい。
この物語が本短編集の中ではどうしてか一番好きになりました。これは映画の元になっていると言われている3編には入っていない様です。
「独立器官」
整形外科医 渡会とアウシュビィッツの医師のエピソードをダブらせながら、女の独特の嘘を自然に生成する独立器官についての物語。
テニスのスカッシュとラケット、渡会の秘書の男と物書きの主人公の会話で語られる物語に戦慄します。
「シェヘラザード」★
千夜一夜物語にちなみシェヘラザードと名付けられた女性と、不可思議に閉じこもった男との寝物語を巡る物語。
学生時代の彼女が、片思いの同級生の家に空き巣に入り、少年の小さな日常品を盗み、代わりに自分の物を代替に置いていく少女。
語られなかった物語の続きと、海中に吸い付き獲物を待つなつめうなぎのエピソード。
「木野」★
「ドライブ・マイ・カー」に少し出てきたバーのマスターを主役にした奇妙な物語。営業マンだった彼が妻の浮気現場に遭遇して退社して開くバー。
そこに現れる謎の読書する静かな痩せた男神田:カミタと、カップルで現れマスターに近づく女。そして3匹のへびの登場と、迫る危機。本短篇集では唯一の幻想味がある一篇で想像力をかき立てられます。
「女のいない男たち」
唯一雑誌掲載でなく短篇集のために書かれた書き下ろし。
死んだ女の回想でほとんどが綴られている1篇。本当は違うが、14歳で知り合ったエムという少女の描写と自分の追憶の記述が詩的に記されていく。
ここのところは村上春樹を嫌いな人には受け付けられない嫌味があり、ファンには堪らなく村上作品/まるで作家本人の感性をそのまま期した様に感じ染み入ってくる描写の数々。
僕は初期には前者(じゃあ何で読んでたんだろう?)、最近は後者という具合に変化してきているので、とても気持ち悪いことに/心地よく読めた。
後半、エムの好きなエレヴェーターミュージックの一曲として語られるパーシーフェースの「夏の日の恋」、そして14歳の僕の、性欲の象徴としか思えない描写で描かれている一角獣のイメージ。
「たぶん」この表題作が全体の「女のいない男たち」の寂寞感を見事に洒脱にまとめている。
★印の三篇が濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』のベースとなっているらしいが、この全体の寂寞感がどうエピソードと会話等で構成されて映画化されているか、、、僕の頭の中ではなかなかこれらが一つの物語に纏まらないだけに、映画を今からAmazonプライムでレンタルして観るのに、ワクワクが高まります。巣ごもりもなかなか楽しいね。では。
◆関連リンク
・当ブログ 村上春樹関連記事
| 固定リンク
コメント