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2022年5月

2022.05.30

■感想 石川慶監督,脚本,編集、ケン・リュウ原作,制作総指揮『Arc アーク』


映画『Arc アーク』本予告 2021年6月25日(金)公開
 石川慶監督,脚本,編集、ケン・リュウ原作,制作総指揮『Arc アーク』WOWOW録画見。

 昨年6月の映画公開時はあまり評判にならなかったけれど、この映画、静かな佇まいのSFで、なかなか素晴らしい出来でした。ここまでしっとりとした描写と映像で見せるSF映画は稀有ですね。生命倫理をテーマにした『ガタカ』をどこか思い出させるところもあるけれど、あの映画よりSFとしてはよほど思弁的で、その映像演出とともに味わい深い傑作です。

 ケン・リュウの原作短篇は読んでいないですが、テーマ的にはある意味、よくありそうな話なのですが、言葉での説明を極力減らして、多くを語らず映像でテーマを語らせている事で、物語の純度がグッと高まっています。

 その映像、ピオトル・ニエミイスキ撮影監督がとても良いです。多分この方、石川監督のポーランド映画大学留学中の盟友ではないでしょうか。日本の瀬戸内海ほかでロケされた、素晴らしいカメラが堪能できます。

 主演の芳根京子ほか、俳優陣も素晴らしい演技です。とても映画らしいSF、よろしかったら観てみてください。

【単独インタビュー】『Arc アーク』SF作家ケン・リュウが語る、“物語”が存在する意味

"そうした中で、生者と死者が繋がっていることを視覚的な隠喩で示すこのシーンが持つ力強さが、とても気に入っています。自分自身が世代から世代へと続くこの長い鎖の一つのリンクにすぎないことに気が付き、死者と繋がっていることを実感できた時に信じられないほどの力が得られることを、このシーンは素晴らしい形で表現しています。本当に、石川監督の視覚的な隠喩はとてもパワフルで、文章であれば何ページにもわたって書き続けるようなことを、彼はたった一つの画に凝縮しています。"

プラスティネーション(wiki)
 本当にあるんですね! 紐でつるのも本当にやっているみたい!!


BODY WORLDS & The Art of Plastination (English/Français)
 Youtubeで「BODY WORLDS Plastination」で検索すると相当えぐい映像が出てきます。
 御注意を!! リンク先を見るか見ないかは、自己責任でお願いします。
 僕はトラウマになりそうだったので、チラ見しかしていません(^^;;)。

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2022.05.15

■感想 樋口真嗣 監督 / 庵野秀明 企画・脚本他『シン・ウルトラマン』


予告篇

 "―空想と浪漫。そして、友情。―
 日本を代表するキャラクター“ウルトラマン”を新たに『シン・ウルトラマン』として映画化!
 企画・脚本に、自身もウルトラマンシリーズのファンであることを公言する庵野秀明。そして、監督は数々の傑作を庵野氏と共に世に送り出してきた樋口真嗣。
 「ウルトラマン」の企画・発想の原点に立ち還りながら、現代日本を舞台に、未だ誰も見たことのない“ウルトラマン”が初めて降着した世界を描く、感動と興奮のエンターテインメント大作。"

 いよいよ公開された『シン・ウルトラマン』、仕事帰りに初日レイトショー@豊田KiTARAイオンシネマで観てきました。
 成田享、金城哲夫他スタッフへのリスペクトと空想科学特撮ヒーロー映画の革新、たっぷり堪能させて頂きました。

 成田享、金城哲夫他円谷プロ初期スタッフの創り出した、初代ウルトラマンのフォーマットで(あのフォーマットを使ってこそ?の)ここまでのSFが出来るとは! 素晴らしいです。SFと書いているのは、高度な宇宙知性との接触とその脅威が見事に描けている侵略SFになっているのです!大満足でした。

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 MCUにしてもハリウッド映画の異星からの脅威がほぼトカゲ型の宇宙人による暴力中心の侵略なのに対して(サノスは知性を感じさせましたが、、、)、今回並外れたテクノロジーの進化を持った宇宙からの脅威をまともにスリリングに描き出したのは、まさにこの円谷初期スタッフのクリエイティブあらばこそ、というのが素晴らしいです。これが空想科学特撮の革新であるとともに、世界のヒーロー映画の革新にもなっていると考えるわけです。ではその核は何なのか、というのは以下のネタバレパートで書きますね。

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 映像的な斬新さについては、今回も『シン・ゴジラ』と同様、CGと特撮技術の融合により斬新な映像が撮られていたところですが、特に、縦横無尽なカメラの多視点と、マンや怪獣をカメラがフォローしてグルングルン動くところでした。特にガボラ戦、単調になりがちな「怪獣プロレス」(失礼)の単調さがなく素晴らしい躍動感ある見応えのある決戦シーンでした。

 SF小説との関連を考えると、冒頭の禍特対(カトクタイ) という禍威獣(カイジュウ) を災害として対応する視点は、樋口真嗣が総監督を務めてテレビドラマ化された、作家山本弘の SF『MM9』の気象庁特異生物部対策課(気特対)を連想させます。

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 また異星人による地球の観察と人類への友愛("―空想と浪漫。そして、友情。―)といったテーマは、田中光二の傑作SF短篇連作である『異星の人―エーリアン・メモ 』を想起させますが、これは初代『ウルトラマン』や手塚治虫『W3』の方が先だったりします。地球の観察者は、時折、地球人にたまらなく惹かれてしまう様ですw。

 音響/音楽的には『シン・ゴジラ』継承で旧作の音楽をそのまま使う部分と、鷺巣詩郎によるエヴァンゲリオンに連なる音楽のハイブリッドで、今回も元作の雰囲気を最大限活かして、さらに革新も音でも感じさせる見事なものになっています。


★★★★★以下、ネタバレ全開しますので、ご注意下さい★★★★★







 空想科学特撮ドラマの革新部分について、まずネタバレで書いてみます。

 遥かに進んだを科学とテクノロジーを自在に操る異星の高度知性体がもし侵略を目的に日本に現れたら、、、そんな侵略SFをウルトラマンのフォーマットでSF(もしかしたら"バカSF"(^^;))として本格的に描き出したのが、空想科学映画『シン・ウルトラマン』であると考えるのです(^^)。

 高度知性体が地球に現れたらどういう状況になるか、、、①全く異質な知性として人類とはコミュニケーションが全く取れない。②異星知性体がその高度な知能とテクノロジーで地球人の言語を習得し流暢にコミュニケーションする。大きく言えば、このどちらかであろう。

 シン・ウルトラマンではもちろん初代ウルトラマンのフォーマットに従い②のファーストコンタクトを描いているが、理論物理学者 橋本幸二 京大教授(素粒子論,弦理論,量子重力理論) の監修により、非粒子物理学によるハイパーテクノロジーを描き、高度知性の侵略を描き出す。

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 ここでは圧倒的な科学技術力の差が描かれており、それだけの進化を遂げていれば、例え知性の形態が全く別の異星人であっても、知能とテクノロジーで日本文化を理解した上で日本語のコミュニケーションを可能としている、というのを納得させる。その際のコミュニケーションが公園のブランコや、居酒屋の割り勘飲み会であっても不思議ではないだろうと言う(バカ)SF的な説得感を持たせるw。

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 実相寺監督が創り出したちゃぶ台でのメトロン星人とダンの会話も、現代的リアリティを持つことになる(でもバカSF(褒め言葉です)でしょw)。

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 今作のメフィラス外星人 山本耕史の素晴らしいコミュニケーション能力とユーモアに、劇場で爆笑しつつ上手いなぁ〜と感心した多くの観客のみなさんには、この感覚わかってもらえると思います。山本耕史最高でした。

宇宙を支配する「たった1つの数式」があるって知っていました? 橋本幸二 京大教授
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非粒子物理学(wiki)
 無知なので、これは映画のための架空科学の造語だろうと思っていたのですが、本当に最先端の思索として理論物理学の世界に実在しましたw。

"理論物理学において、非粒子物理 (Unparticle physics) は、粒子物理学標準模型を用いて粒子の観点から説明することができない、その構成要素がスケール不変である物質を予想する思索的な理論である"

・プランクブレーンの「ブレーン」は、これみたいです。
 ブレーン宇宙論(東大 宇宙理論研究室 小山和哉氏資料.pdf)ってのがあるんですね。

 プランクは「光子のもつエネルギーと振動数の比例関係をあらわす比例定数」であるプランク定数からでしょうか。

 超弦理論等をベースに、プランクブレーンをコントロールして強大な力を持ち、地球人類殲滅兵器たるゼットンを軌道上に展開する超知性体、ゾーフィ。殲滅の目的が、ベータカプセルで巨大な破壊兵器になるポテンシャルを数十億人の人類が持っているから、というのがワクワクするエスエフ設定である。

 圧倒的な力の前に何もできずに立ちすくむ人類の無常感、ここはまさにSFのセンス・オブ・ワンダーだと思う。

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 超弦理論の描き出す11次元とか、劉 慈欣の世界的SF大作『三体』でも超科学文明が次元を自在に操るテクノロジーを利用して、脅威的なシーンが描かれてましたが、ウルトラマンは既に55年前にそんな技術を使う超人を描いてたのですね!(^^)。

 というかそのフォーマットには既にそうした視点が内蔵され、それが55年後に理論物理学の進化の援用によって、樋口真嗣監督 / 庵野秀明企画・脚本のスタッフ陣によって、映像として具現化されたわけです。もう日本の映像界も、『三体』を持って超絶SF世界を描く世界映画シーンに負けないレベルに到達したのです(^^)。どんとこい『三体』、Netflx !! ww。

 最終兵器ゼットンが地球上空に展開していくシーン、人類を一瞬で滅却するパワーの脅威を、あの元作の最終回と同じ効果音で、迫力持って描いてあって、上記の様な侵略SFの映像化に震えながら、胸熱にならざるを得ませんでした。

ウルトラマン (Wiki) より抜粋

放送回 放送日 制作順 サブタイトル 登場怪獣・宇宙人 脚本 特技監督 監督 視聴率
1 7月17日 5 ウルトラ作戦第一号 ベムラー 関沢新一
金城哲夫
高野宏一 円谷一 34.0%
3 7月31日 3 科特隊出撃せよ ネロンガ 山田正弘 的場徹 飯島敏宏 33.6%
9 9月11日 9 電光石火作戦 ガボラ 山田正弘 高野宏一 野長瀬三摩地 39.5%
18 11月13日 19 遊星から来た兄弟 ザラブ星人
にせウルトラマン
南川竜
金城哲夫

高野宏一

野長瀬三摩地 39.8%
33 2月26日 33 禁じられた言葉 メフィラス星人
バルタン星人(三代目)
ザラブ星人(二代目)
ケムール人(二代目)
巨大フジ隊員
金城哲夫

高野宏一

鈴木俊継 40.7%
39 4月9日 39 さらばウルトラマン ゼットン
ゼットン星人
ゾフィー
金城哲夫 高野宏一 円谷一 37.8%

 今作の構成は、初代ウルトラマンの上記リストの話数をほぼこの順番に並べたものである。赤文字部分が登場する怪獣と宇宙人である。各話のエピソードもかなり映画にそのまま使われている部分が多い。ここで脚本家としての金城哲夫の功績が大きいことがわかる。もちろんメインライターだったのでこうなるのは必然かもしれないが、シン・ウルトラマンも金城(と上記リストのシナリオライター)の脚本原案と言っても過言ではないと思う。だけどクレジットには彼らの名前はなく「脚本 庵野秀明、原作監修 隠田雅浩」の名前のみ。ここは成田亨の名前がクレジットされているのと合わせて、是非とも脚本原案等の表記をして欲しかったと思うのは僕だけだろうか。

 そしてこれら5話分のストーリーを繋ぐ縦糸が、上述した侵略SFとしての高度知性の外星人とのコンタクトと人類の無力/そして最後の反撃の物語ということになる。一本の映画として昇華させるための、この庵野秀明らによるアイデアとクライマックスはなかなかのものだと思います。

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 ただこの物語の骨格で、実は一点、しっくりこないこともあります。
 地球人類がプランク・ブレーンとの相性が良く、数十億の超兵器の素材として宇宙から狙われるという設定。ここが凄くドキドキする設定異様な設定で、長澤まさみの巨大化シーンをビジュアル化して、そこから数十億の人類の異様な巨大化のビジョンも観客の脳内に想起させている。しかしメフィラスも同じ能力を持っているはずで、地球だけが特別という感じがしないのが少し腑に落ちません。何らかその辺りの描写があると良かったかな、と。

 あとこの物語の骨格で、一度ゼットン戦にウルトラマンが破れたところで、次がどういう展開になるか、手に汗握った。
 その際に妄想したのが、「シン・ゴジラ」の文字が(「ウルトラQ」の代わりに)冒頭のタイトルに出てきたことで、ついクライマックスで人類が非粒子物理学の公式を得て、東京駅に凍結されたシン・ゴジラを新たなベータカプセルで、対ゼットン兵器として復活させる展開を一瞬、夢想しました。もちろんそんな展開はなかったのだけれど、一瞬シン・ゴジラがプランクブレーンの力で超巨大化してゼットンと戦うビジョンは鮮烈でした(^^)。

◆その他 雑記
・エンディングの歌、米津玄師「M八七」の音調では僕には「空想と浪漫。そして、友情」の歌に聴こえませんでした。ビジネス側面が強いとは言え、ここはやはり初代のテーマソングを高らかに聴かせて欲しかったなぁ〜と思うのです(^^)。

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