■感想 ゲルハルト・リヒター展 @ 豊田市美術館
"会期 2022年10月15日[土]-2023年1月29日[日]
休館日 月曜日[2023年1月9日は開館]
[2022年12月28日-2023年1月4日は休館]
開館時間 午前10時-午後5時30分[入場は午後5時まで]"
ゲルハルト・リヒター展@豊田市美術館、観てきました。ほとんどリヒターについて前知識なく、東京展の評判だけを頼りに観たのですが、噂に違わず、ずしんと来る印象的な作品群でした。豊田展は平日、実に空いていたので、結構独り占めに近い感覚でずっと作品に浸っていられたため、とても贅沢な気分でした。
展示はほぼ年代順、まずフォトペインティングと名付けられた、写真をキャンパスに投影して絵筆で描かれた「モーターボート」という作品が印象的。4人の若者が描かれた絵は、白と黒の陰影が美しく、近づいてみると確かに筆の描画のタッチが横方向に見えて、その何ともいえない淡い筆致が美しい。
同じく「8人の女性見習看護師」、「頭蓋骨」と「不法に占拠された家」というフォトペインティングの作品は、写真を写し取ったもので淡い色調でまるで網膜に光が残像している様なタッチで、記憶の中の映像といった面持ち。
そして1966年に16mm白黒フィルムで撮られた「フィルム:フォルカー・プラトケ」というわざとフォーカスを甘々にしてボケた様に撮られた映像で、さきほどまでのフォトペインティングのまるで動画版という趣でスクリーンに映し出された作品。ここでもやはり「記憶の残像」といった印象が強く感じられた。
次に作品はアブストラクトペインティング、抽象絵画に移っていくのだけれど、冒頭の残像のイメージが強く、抽象画は自分には向いていないと心配していたのだけれど、どれもが作家の頭の中に記憶され/焼き付けられた現実の残像の様な景色に見えてきて、なんだかすんなりと作品世界に入っていける印象、
そこからフォトペインティング作品とアブストラクトに加えて、カラーチャート、オイル・イン・フォト(焼き付けた写真に油彩を塗ったもの)というような実験的な作品群に移行していくのだけれど、どれも人の記憶の、光の残像のような見え方で、凄く納得してその雰囲気を楽しめたのでした。
「8枚のガラス」という作品は、巨大な、展示ごとに配置をランダムに変化させているらしいカラーチャートの手前に置かれていて、このガラスの前を歩きながら、カラーチャートを眺めると、無数の明るい色がガラスで散乱して不思議な空間にいる気分になる。これらも記憶に堆積した光の残像のようで、一貫したこの画家のアプローチが、客観の物理的光と、視覚を通して頭の中に残像として多数積層させた光の織りなす主観の融合みたいなものにあるのかな〜というぼんやりした/そして強い印象を残していくように感じられた。
そしてメイン展示のアウシュビッツ強制収容所を描いた「ビルケナウ」という巨大な空間に並ぶ4枚の油彩画とその写真ヴァージョン、そして中央に置かれたグレーのミラーと、収容所でゾンダーコマンド(特別労務班)によって撮られたという4枚の写真。
帰ってから日曜美術館で紹介された国立近代美術館の展示の様子と比べてみると、豊田市美術館の方が空間が少し広く、またその四角形のスペースが正方形のため、まさに4面に巨大なキャンパスとその写真像とグレイのミラー、収容所の写真がそれぞれ4面の中央に展示され、全体としては(東京展は四角の空間に一部柱の様に太い梁があるので)比較してより均質な空間感覚があって、もしかしたらこの人類史に刻まれる様な強い印象の作品にとって、適した展示状態かもしれない。
巨大なキャンパスの油彩画は、まるで収容所で積み重ねられた悲痛の記憶の堆積の様に見えて、とても一言では言い表せられない深い味わいの作品となっている。リヒターも自身体験していないだろうけれど、収容所の暗い建物の隙間から、ゾンダーコマンドに撮られた様な光景を、覗き見ている様な凄絶な雰囲気もあって、こうした印象は今までに絵画からは少なくとも体感したことのないものだった。
絵画の役割は、作家の心象風景をその筆致を通して、観客の視界の奥に再現することの様な気がずっとしているのだけれど、このリヒターの作品群は、まさに作家が物理的世界から客観として入力された光を、自身の主観で上描きして、その内面の映像空間を切り取った様な迫力に満ちていた。そして「ビルケナウ」は、画家が幻視した収容所の過酷を、光の残像の堆積として描き出した鬼気迫る印象を、見る人の記憶に転写する様な作品だったと思う。こうした美術作品は観たことがないという点で、巷で言われている様に、リヒターという画家は美術の先端を切り拓いている人なのかもしれない、とぼんやりと体感して帰ってきました。
今回、(一部を除き)撮影自由だったので、ざっと全体を体感した後、印象的だった作品をiPhoneで撮ってきました。一部はその作家の筆の運びを見たくて、近寄って拡大写真と合わせて撮りました。生の絵画を写真に収めて、観た時の印象を持ち帰れるというのはとても有意義な経験になりました。
以下は最近の素描作品。タッチが金田伊功の原画を思い起こさせるシャープさで、本ブログ的にはこんな絵もとても気に入りました(^^)。
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